概念
くも膜下腔での慢性的に持続する出血により、脳表にヘモジデリンが沈着し、失調や難聴などの脊髄小脳変性症様の症状が慢性に進行する疾患です
原因としては、外傷やくも膜下出血の既往などが有名ですが、時々、脊椎内の硬膜欠損が見つかることもあり、その場合低髄圧や慢性出血が持続的な出血の原因になっている可能性もあり注目されています。
Duropathy
本疾患は多くがTh1-2レベルでの硬膜剥離を認めます。同様に脊柱管内硬膜の欠損または損傷により神経症状を呈する疾患を総称して、Duropathy?(Duro: 硬膜、pathy: 病気)という言葉が用いられる様になりました。これは2012年Kumarにより提唱された概念で、特発性低髄液圧症候群、脳表ヘモジデリン沈着症、特発性脊髄ヘルニア、多髄節性筋萎縮症(最下段参照)などを含みます。
原因
- 外傷: 引き抜き損傷、腕神経損傷、頭部外傷、脊髄外傷
- 腫瘍: 海綿状血管腫、髄膜瘤などからの出血
- 血管障害: 動静脈奇形、動脈瘤、SAH、アミロイドアンギオパチー
- 硬膜剥離及び硬膜欠損
- 特発性
症状
以下の報告が慢性に進行します
- 小脳失調 81%
- 感音性難聴 81%
- ミエロパチー 53%
- 排尿障害 14%
- 頭痛 14%
- 嗅覚障害 14%
- 複視 4%
- 直腸障害 3%
- 味覚障害 2%
- 脳神経麻痺 2%
- その他: 上肢の筋萎縮(多髄節性筋萎縮症:下記)、てんかん、認知機能障害 など
検査
髄液:キサントクロミー、蛋白増加、時に髄液圧低下、タウ蛋白上昇 など
脳MRI:下図の変化や、低髄圧を反映した硬膜造影効果、MRAで血管奇形及び動脈瘤の検索
脊椎MRI:下段の脊髄MRIのような硬膜欠損象が、特にCISS法やT2*画像でよく認められます。MR myelographyも有用です。
ミエログラフィー:脊椎内の硬膜欠損及び髄腔と硬膜外の交通の有無の検索に行うことがあります



左、真ん中:頚髄、胸髄腹側に硬膜がはがれたような像が見られます
右:また、低髄圧を合併している場合などは脳だけでなく頚髄周辺の造影増強効果が見られることもあります
多髄節性筋萎縮症(Multisegmental amyotrophy)
Duropathyの1つで、上肢を中心とする両側性筋萎縮をきたす疾患でfasciculation、痙性又は深部反射亢進を伴うことから、運動ニューロン疾患との鑑別が問題となります。脳表ヘモジデリン沈着を伴うことがあります。
頚椎レベルの硬膜欠損によって、硬膜外の液体貯留や脊髄の圧排などにより前根や前角の障害が生じると考えられていますが、詳細は不明です [ref]。