浸透圧性脱髄症候群 (osmotic demyelination syndrome : ODS)

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はじめに

急速な浸透圧の変化によって、脳幹や基底核に脱髄を来す疾患です。血清浸透圧[Posm(mOsm/kgH2O)=2×Na(mEq/l)+ブドウ糖(mg/dl)/18+尿素窒素(mg/dl)/2.8] を規定しているのは主にはNaですので、Na(多くは低ナトリウム)の短時間での急激な補正によって生じることが多いです。

脳幹や基底核に脱髄が生じるメカニズムは不明ですが、以下の様なメカニズムが関連している可能性もあります。
低Naは血清の張力を下げますが、血清の張力が下がると水分子は血管脳関門(BBB)を超え、脳浮腫をきたします。そこで、脳は低張力に適応しようと、主にはBBB構成細胞の一つであるアストロサイトは細胞内の浸透圧を調整する物質(Osmolytes)を低下させ、低張力による水の過剰な蓄積を避けようと頑張ります(完全な適応には2日間かかる)。この適応が完成した状態で、血清Naを急激に補正してしまうと、アストロサイトのOsmolytesの引き戻しが間に合わず、Naの細胞内への急激な流入から、細胞死が引き起こされ、BBBの破綻が生じます。髄鞘を形成するオリゴデンドロサイトにも同様の変化が起こり、脱髄も生じるのかもしれません。

ODS発症の危険因子

  • Na濃度:補正開始前のNa濃度が120 mEq/L以下
  • 低Na血症の期間:脳の適応が完了する2日以上
  • Naの急速な補正:24時間で12mEq/L、48時間で18mEq以上の補正

症状
主には脳幹障害由来の症状がNa補正後2-6日遅れて出現します

  • 脳幹症状:構音/嚥下障害、四肢麻痺、歩行障害、意識障害、見当識障害、Locked-in など
  • 基底核症状:不随意運動(Choreaアテトーゼジストニア

検査

  • 血液検査:Na、ADH、BNP など
  • 脳MRI:CTでは病変の検出感度が低く、MRIで脳幹(橋下部)に病変が検出され、初期はADCが低下していることもあります。Trident shaped appearanceと呼ばれる形状が典型的ですが、橋下部全体に広がることもあります。頻度は下がりますが、中脳病変、両側対称性の基底核や視床病変、あるいは、皮質下病変を認めることもあります。また、MRIでも初回のMRIでは病変が検出されないこともあります。

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橋中心部にT2高信号、DWIで淡く高信号の病変を認めます。本症例では、Trident shaped appearanceではなく三角形に近い形状を示しています
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脳幹のK.B.染色では同様に橋中心部の染色性が消失し、高度の脱髄を示唆します

鑑別診断脳幹PRESSは治療法も異なりますし、最も重要な鑑別診断です

治療(参考ページ:低Na血症

ODSの発症予防
1. Na補正
低Na血症のNa補正は、24時間で6 mEq/L程度を目指します。そのため、Na補正時は小まめに血清Na値をチェックしましょう。

2. Proactive, Reactive, Rescue Strategies
過度の補正に陥りやすい症例では、過度の補正に対するProactive (preventive) strategyとしてDDAVP(1-desamino-8-D-arginine vasopressin)投与や、高張性食塩水を用いることがあります。
Na補正中の水利尿が多い場合には、Reactive strategyとして5%Gluによる補正やDDAVP投与を試みる場合もあります。
Na補正速度が推奨速度を超えてしまった場合には、Rescue strategyとして、5%GluやDDAVPによるNaの低下を目指します。

ODS発症後
一度発症すると効果が確立された治療法はありません
1. 血清Na値を低下させる
5%GluやDDAVPで、16mEq/L程度、血清Na値を下げます。発症24時間以上経過してしまうと、ほとんど効果は期待出来ません。
2. Supportive care
呼吸、循環管理、肺炎の治療など
3. その他
血漿交換療法やステロイドパルス療法などの免疫療法の有効性は確立されていません。

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