はじめに
心房細動をはじめとした心疾患を原因とする本病型では、脳梗塞再発の危険性が高い一方で、早期再潅流により出血性脳梗塞を発症数日以内に合併する場合も多いのが特徴です。
つまり、発症早期より再発予防の目的で抗凝固療法を行うと再発は減るけれども出血性梗塞のリスクは高まり、抗凝固療法を行わないと出血性梗塞のリスクは減るけれども再発は増えるという、いつ抗凝固療法を行うかに関しては明確な基準がなくジレンマが生じています。
長らく発症早期にヘパリン投与が用いられてきましたが、出血のリスクが増えるというデメリットが証明されたのみでした。現在では、頭部画像で出血性梗塞がないことを確認した上で、小さな脳梗塞では早めに、大きな脳梗塞では発症1週間以上待ってからDOACを開始するという手段が増えています。つまり、抗凝固を行わず再発は怖いけれども出血のリスクが減るまで引きつけて引きつけて、リスクが減ったら即効性のあるDOACを適量投与するというイメージです。
また、心不全合併を合併することも多いため、水分管理などの内科管理もこまめに行うことも重要です。
- 超急性期治療
血栓溶解療法の適応がある場合には速やかにrt-PAの投与を行い、内頚動脈閉塞などにより再開通が得られず、ペナンブラ領域が広く存在する場合には血管内治療による血栓除去療法(thrombectomy)を速やかに行います。 - 急性期治療
アテローム血栓性脳梗塞と比較すると、心原性脳塞栓症の治療は抗凝固まちで、あまり積極的な治療ができません
エダラボン(ラジカット)
eGFR>60ml/分/1.73m^2と腎機能が保たれている症例で、さらに、発症24時間以内の脳梗塞に対しフリーラジカルスカベンジャー(ラジカット)の投与を行います。
処方例:ラジカット注30mg 1A+生食100ml(1日2回)5-14日間
グリセオール
脳浮腫が強い症例で、1回200ml×2?3回/日を投与する。
※心原性脳塞栓症では心機能低下例が多いため、心不全合併に注意する。
心房細動など心疾患の治療
原因となる心疾患の治療介入が可能な場合には循環器内科の協力の元、積極的に行う(例:心房細動に対する心拍数調整(rate control)など)
PPIあるいはH2受容体阻害薬
脳梗塞では、病型にかかわらず消化管潰瘍の予防を入院時より行う。PPIを第一選択とするが、コラーゲン層形成大腸炎 (collagenous colitis)、肝障害、血球減少など副作用が出現する場合には、速やかにH2受容体阻害薬へ変更する。
抗凝固療法
心原性脳塞栓症急性期のどのタイミングで抗凝固療法(主にはDOAC)を開始するか明確な基準はありません、1-3-6-12日ルールが提唱されたりもしています。つまりTIAや微小梗塞では発症1日後、小梗塞(目安:MCA領域の1/3以下)では4日後、中梗塞(目安:MCA領域の1/3以上)では7日後、大梗塞では13日後から開始を目安とします。
ただし、開始前に脳画像で出血性梗塞になっていないかの確認が必要です。
ヘパリンは?
最近はあまり行われませんが、機械弁・体外循環例、ワルファリンが効果を発揮するまでの繋ぎで用いることはあります。決して、機械弁でもないのに何も考えずに、入院直後にヘパリンを開始しないようにしてください。 - 慢性期治療
1. 抗凝固療法
禁忌がない限り心房細動症例には生体弁やMS以外の弁膜症があってもDOACを用います。ただし、僧帽弁狭窄症と機械弁の存在する心房細動にはワルファリンを用います。DOACは、原則としてアピキサバンをお勧めします。その他の心疾患は、ワルファリンを用いることが多いですが、検出された心疾患にbestなものを情報検索して調べるようにしてください。
- 出血高リスク(例:CMBs多発)→アピキサバン
- 脳梗塞高リスク(例:CHADS2スコアが高い)、出血低リスク→ダビガトラン
- 腎機能障害→(CrCl 15-30 ml/min)アピキサバン
- (CrCl 30-50 ml/min)アピキサバン or リバーロキサバンorエドキサバン
- 経管栄養中→リバーロキサバン(粉砕)or エドキサバン(OD錠)
- アドヒアランス不良→リバーロキサバン or エドキサバン(いずれも1日1回)
- Xa阻害薬内服中の再発→ダビガトラン
- ダビガトラン内服中の再発→アピキサバン
2. 心房細動、弁膜症など心疾患の治療
Ablationや左心耳閉鎖術などによる再発予防
出血性梗塞のリスク(以下のような症例はリスクが高いようです)
- 広範囲梗塞(特に心原性塞栓による)
- 入院時の高血糖
- 血栓溶解療法
- 高齢者