常染色体劣性遺伝型 脊髄小脳変性症 Autosomal Recessive Spinocerebellar Degeneration

普段経験しない疾患ばかりです。一応代表的なものをまとめます。

Friedreich 失調症
日本では今のところ報告例はいません。通常25歳以前に発症する緩徐進行性の失調症を特徴とする.典型的には深部腱反射の減弱,構音障害,Babinski反射陽性,位置覚・振動覚の 低下・消失を伴う.約25%の患者では25歳以降に発症する,深部腱反射の減弱が見られない,きわめて進行が遅い,などの非定型的な臨床像を呈する.たい ていの患者はFXN遺伝子のGAAトリプレット・リピートの過剰伸長が見られる.CAGリピートの伸長による常染色体優性遺伝性失調症に比べてFriedreich失調症では表現促進現象は見られない.

毛細血管拡張を伴う失調症(ataxia telangiectasia)
1-4歳に発症する進行性の小脳失調を特徴とする.眼球運動失行,頻回の感染症併発,舞踏病アテトーゼ,眼球結膜の毛細 血管拡張,免疫不全が見られ,特に白血病やリンパ腫などの悪性腫瘍に罹患するリスクが高い.本症の診断を支持する検査所見として,末梢血リンパ球での核型 分析にて7;14染色体の転座を同定する,免疫不全の存在を証明する,in vitroで放射線高感受性を証明する,などがある.ATM遺伝子の解析も行われている.

ビ タミンE欠損を伴う失調症(ataxia with vitamin E deficiency,AVED)
通常,学童期から10歳代に構音障害や失調性歩行(特に暗いところでの)で発症する.早期から固有感覚が障害されるため進行性の巧緻運動障害も見られる.ジストニアや精神異常(パラノイア),網膜色素変性,知能低下が見られることもある.大半の患者は小脳失調と下肢の筋 力低下のために11歳ー50歳の間に車椅子生活となる.臨床的にFriedreich失調症と似ているが,本症ではFriedreich失調症と比べて頭 部振戦やジストニアを伴いやすく,一方,心筋症は伴いにくい.AVEDはビタミンEの補充により治療しうるので疑わしい患者では血清ビタミンEを定量し,AVEDかどうか見極めることが重要である. SCA8とAVEDを合併した患者ではビタミンEが効かなかったことが報告されている.

眼球運動失行を伴う失調症1型(ataxia with oculomotor apraxia type 1,AOA1)
小児きに発症し(平均発症年齢7歳),緩徐進行性の経過を取る小脳失調症である.数年以内に眼球運動失行を伴う.眼球運動失行は進行する と外眼筋麻痺に至る.患者は重度の運動神経優位の末梢神経障害をきたし,発症から7-10年後には四肢の麻痺から日常生活が自立できなくなる.ポルトガル人家系では知的機能は保持されているが,日本人家系では精神運動発達遅滞が見られる.AOA1の診断は臨床所見に基づいてなされる.

眼球運動失行を伴う失調症2型(ataxia with oculomotor apraxia type 2,AOA2)
10歳から22歳の発症,小脳萎縮,軸索型の運動感覚性ニューロパチー,眼球運動失行,血清中のa-フェトプロテインの上昇を特徴とする.AOA2の診断は家族歴を含めた臨床所見,検査所見を基になされる.また診断には毛細血管拡張を伴う失調症やAOA1を除外する必要がある.

幼児期発症の脊髄小脳変性症(infantile-onset SCA)
フィンランドから報告された稀な病型であり,小脳,脊髄,脳幹の変性と軸索型の感覚性ニューロパチーを伴う.ミトコンドリアDNAへリカーゼの遺伝子変異が報告されている.

Marinesco-Sjo¨gren症候群
小脳失調に精神運動発達遅滞,白内障,低身長,筋緊張低下を伴う稀な病型である.SIL1遺伝子の変異が多数報告されている.

常染色体劣性遺伝性痙性失調症(Charlevoix-Saguenay型)(Autosomal Recessive Spastic Ataxia of Charlevoix-Saguenay;ARSARCS)
12-18ヶ月の幼児期発症で歩行困難や歩行時のふらつきを 特徴とする.神経学的には小脳失調,構音障害,痙性麻痺,病的反射陽性,遠位筋の筋萎縮,下肢優位の運動感覚性ニューロパチー,水平注視方向性眼振などが 見られる.これらはたいていの場合,進行性である.カナダケベック州出身のARSACS家系では網膜の視神経乳頭辺縁から放射状に伸びる有髄神経の増生が見られる.このような網膜変化はフランス人,チュニジア人,トルコ人のARSACS家系では稀である.ARSACSの患者は平均41歳で車椅子生活となる が,認知機能はよく保たれ,晩期まで日常生活動作は可能である.

その他の常染色体劣性遺伝性小脳失調症

    日本から精神遅滞と末梢神経障害,著しい小脳萎縮を伴う失調症が報告されている.
    常染色体劣性遺伝性の小脳失調症と軸索型の感覚運動性ニューロパチーを呈するサウジアラビアの1家系は第14染色体長腕(14q31-q32)に連鎖することが知られていたが,TDP1遺伝子(トポイソメラーゼ1依存性DNA損傷修復酵素をコードする)の変異によることが判明した.
    脊髄後索の変性と網膜色素変性を伴う失調症が記載されている.
    低ゴナドトロピン性機能不全症を伴う失調症が記載されている.類似の症状を持つ同胞にはコエンザイムQ10の欠損が見られている.
    血族婚を有し,精神遅滞,視神経萎縮,皮膚病変を伴う失調症を呈するレバノン人家系が15q24-q26に連鎖することが報告されている.
    失調症,難聴,視神経萎縮を伴い,6p21-p23に連鎖する家系が報告されている.
    Swarzらは14人の同胞中5人が失調症,衝動的なintrusions,感覚性ニューロパチー,ミオクローヌスを呈するスロヴェニア家系を報告している.
    血族婚を有するノルウェー人家系において幼児期発症の非進行性失調症が記載されているが,この家系では20q11-q13に連鎖することが判明している.
    ビオチニダーゼ欠損症の年長児にしばしば失調症と発達遅延が見られる.
    Barisらは精神運動発達遅滞と小脳萎縮を呈するパレスチナ人家系が22q11に連鎖することを報告している.
    極低比重リポ蛋白受容体遺伝子の変異を有するHutterite家系が見出されている.この家系は常染色体劣性遺伝性の非進行性小脳失調と精神運動発達遅滞,小脳下部の低形成,軽度の大脳回のsimplificationを特徴としている.
    Breedveldらは11p15に連鎖する常染色体劣性遺伝性の小児期発症の失調症を呈するオランダ人家系を報告している.この家系では症候的に錐体路徴候,姿勢時振戦,後索性の感覚障害が見られている.
    常染色体劣性遺伝性で種々の程度の先天性小脳形成異常を伴う病態にはJoubert症候群,新生児期糖尿病を伴う小脳無形成症,グリコシル化の先天的な異常症が含まれる

X連鎖性の遺伝性失調症
X連鎖性の失調症を呈する家系がいくつも報告されている.
殆どの家系は痙性麻痺,精神運動発達遅滞,難聴,認知症,鉄芽球性貧血などの他の症状・症候を合併している.鉄芽球性貧血と失調症の原因となる遺伝子(ABC7)が同定されているが,この遺伝子はミトコンドリアの鉄移送に関与していることからFriedreich病と共通した病態機序が推察されている.
これら代表的な8つのAR-SCDの中では本症例は網膜有髄繊維の増生は認めなかったもののARSARCSが最も臨床像が近いと考えられた。ARSARCSはこれまでカナダ、日本、イタリア、スペイン、チュニジア、トルコ、イタリアで遺伝子変異を持つ家系が同定されているが、今後さらに世界中で報告される可能性があると考えられる。

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