蘇生後脳症(低酸素脳症) 診断

病態
循環不全または呼吸不全などによって、十分な酸素供給ができなくなり、脳に障害をきたした病態です。
低酸素脳症にはには、組織への血流量の低下(虚血)と、血液の酸素運搬能の低下(低酸素血症)の2つの病態が混在していることが多いので、低酸素性虚血性脳症(hypoxic-ischemic encephalopathy)とも呼ばれています。
心停止により脳への酸素供給が途絶えると、意識は数秒以内に消失して、3‐5分以上の心停止では、仮に自己心拍が再開しても脳障害(蘇生後脳症)を生じます。

原因
原因は大きく以下の4つに分類されますが、実際には、心停止や低酸素状態、低血圧などに対する蘇生後に神経内科医が診察、治療に関わることが多いと思われます。

    脳血流の低下 (stagnant hypoxia):心停止、心房細動、ショックなど
    低酸素血症(hypoxic hypoxia):窒息、呼吸不全、気道閉塞など
    血中ヘモグロビンの低下 (anemic hypoxia):出血、高度の貧血、CO中毒など
    細胞内の呼吸酸素系の障害(histotoxic hypoxia):シアン中毒、甲状腺機能亢進など

症状

    意識障害、精神症状:記憶障害、混迷、傾眠、昏睡など
    脳幹機能異常:対光反射、角膜反射の障害など
    筋力低下:四肢筋トーヌス低下、man-in-the-barrel syndromeなど
    痙攣発作:重積発作、ミオクローヌス性てんかん
    不随意運動:ミオクローヌス、アテトーゼ、ジストニア
    その他:パーキンソン症状、視覚性失認、皮質盲

Lance-Adams症候群
脳虚血後の昏睡状態から回復した症例で、意図的動作などをおこなう際に、ミオクローヌス(intention or action myoclonus) を呈する症候群で、1963年にLanceとAdamsにより初めて報告された病態です

検査

脳CT, MRI
他疾患の鑑別や脳損傷部位の同定、発症時期の推定に最も有用な検査法です
急性期(発症6日以内)
脳浮腫による大脳のびまん性腫脹、脳溝・脳室の狭小化、皮髄境界の不明瞭化が出現。MRIでは、大脳皮質のびまん性の細胞性浮腫を反映した拡散強調画像での高信号化
亜急性期(7日から29日)
大脳皮質の巣状壊死を反映し、脳回に沿ってT1強調像で高信号、T2強調像で早期は低信号、後期は高信号、Gd陽性となる病変
慢性期
大脳皮質のびまん性萎縮、脳室の拡大、両側の基底核にT1強調像、T2強調像で高信号の病変。Delayed post-hypoxic leukoencephalopathy(遅発性無酸素後脳症)では両側大脳半球白質にびまん性のT2強調像で高信号



脳MRI(A) :発症24時間後(左:FLAIR画像、中:拡散強調画像、右:拡散係数画像)FLAIR画像では大脳皮質がびまん性に高信号に描出され、同部位は拡散強調画像で高信号、拡散係数(ADC)値は低下している。後大脳動脈領域の大脳皮質は異常信号が目立たない。
脳MRI(B) :発症11日後(左:T1強調画像、中:FLAIR画像、右:造影後T1強調画像)T1強調画像、FLAIR画像ともに海馬を含む側頭葉皮質は高信号(laminar necrosis)を呈し、同部位は造影増強効果が認められる。
脳MRI(C):発症9ヶ月後(左:T1強調画像、右:FLAIR画像)両側基底核にT1強調画像、FLAIR画像ともに高信号の病変を認める。大脳皮質は年齢に比してびまん性に萎縮し、右島皮質、後頭葉皮質の一部はFLAIR画像で高信号を呈している。
脳CT(D):発症36時間後。両側大脳半球が腫脹し、皮髄境界が不明瞭化している。また、皮質や白質、基底核に低吸収域病変が散在して認められる。

脳波
大脳皮質の機能障害の推定、不随意運動と痙攣発作の鑑別するために必須です。
Generalized electrical suppression(平坦脳波)、Generalized burst suppression(群発抑制交代パターン)、generalized periodic complexes(周期性複合波)は予後不良に関連。その他、Periodic lateralized epileptiform discharge (PLEDs)、α波(α昏睡)、棘波・鋭波などの突発波

体性感覚誘発電位(Somatosensory evoked potential, SEP)
正中神経刺激のSEPによる両側N20の消失が認められる。発症1−3日におけるN20の消失は予後不良と関連している。

バイオマーカー
蘇生後1-3日後の血清NSE値33μg/L以上は予後不良とされています。その他、アストログリア関連蛋白の一種であるS-100βやGFAP、クレアチンキナーゼ(CK)、髄液乳酸値なども検討されていますが、予後予測に関する有用性は今のところ確立されていません。

その他の検査
1H-MRS(proton magnetic resonance spectroscopy)による乳酸ピークの上昇やNAA(N-AcetylAsparate)の低下、PETでの糖代謝の低下 など

無酸素脳症における予後不良因子
以下の項目が陽性の場合、予後不良の可能性が高いと考えます

検査の時期(発症後日数)
臨床徴候
 30分以上の心肺蘇生時間  
 8−10分以上の低酸素状態
 6時間以上の昏睡  
 痛み刺激に対して四肢の随意運動がない 3日
 対光反射あるいは角膜反射の消失 3日
 ミオクローヌスてんかん 24時間以内
検査所見  
 脳波所見  
 平坦脳波 (< 20μV) 3日以内
 群発抑制交代パターン (burst suppression) 3日以内
 周期性複合波 (periodic complexes) 3日以内
 体性感覚誘発電位(SEP)  
 N20の消失(正中神経刺激) 1-3日
 バイオマーカー  
 血清NSE > 33 μg/L 1-3日
 画像所見  
 脳CTでの灰白質/白質信号比の低下 蘇生直後
 脳MRIでの広範囲な拡散係数(ADC)低下病変 7日以内

Post-Cardiac Arrest Syndrome(PCAS)について
ここでは、主に中枢神経障害について書きましたが、低酸素脳症によって障害される臓器は中枢神経だけではありません。そのため心停止に伴って生じる様々な病態を包括してPost-Cardiac Arrest Syndrome(PCAS)と呼ばれ、以下のような病態が含まれます。
1. Post-Cardiac Arrest Brain injury
低酸素侵襲により神経細胞死が誘導され、意識障害、痙攣、ミオクローヌスなどを来す病態です。これは、今までの記載の病態です。
2. Post-Cardiac Arrest myocardial dysfunction
低酸素侵襲により心筋細胞が気絶現象を起こしてびまん性の心筋収縮力低下を来す病態です。一部は可逆性である事が知られています。自己心拍再開Return of spontaneous circulation(ROSC)後、8時間程度で極期になりますが、24?48時間後には回復傾向を示して、72時間後にはほぼ完全に回復するとされています。
3. Systemic ischemia/reperfusion response
全身性虚血と再灌流に伴って全身性の炎症反応が引き起こされて、敗血症に類似した全身性炎症反応症候群を来す病態です。炎症反応により血管内皮細胞障害を生じ、凝固亢進や多臓器不全を来すようです。
4. Persistent precipitating pathology
心停止に至った原因疾患の事を指します。病院外心停止から蘇生された患者の40%程度に急性冠症候群認められる事が知られていますので、冠動脈造影や急性期に於ける血行再建が重要である可能性があります。

2 Responses to 蘇生後脳症(低酸素脳症) 診断

  1. たく より:

    失礼します。神奈川県で研修医をしているものです。
    自分がみさせていただいた患者さんが低酸素脳症になり、画像を調べていたらここにたどり着きました。
    上の画像や、急性期、亜急性期、慢性期とわけられている論文はさがしても見つからないのですが引用はどこなのか教えていただけないでしょうか。
    お手数ですがよろしくお願いします。

  2. Bill and Ben より:

    ご指摘頂きありがとうございます。読み直してみて、この日数の根拠はどこからciteしてきたのか書いている本人が???となりました。書いた当時に私自身がhypoxic brainの総説を日本語で書いていて、その時に参考にしていた日本語の教科書だったか、私の大学のClinical conferenceの後輩の資料だったかだと思うのですが、すいません。ただ、hypoxiaのintensityによっては、必ずしもこの病変分布及び時間経過を取らないことは予想できますよね。

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