抗リン脂質抗体症候群(APS) 診断

はじめに
抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome:APS)は、血液中にループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant:LA)や抗カルジオリピン抗体(anticardiolipin antibodies:aCLs) といった抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibodies:aPLs)が検出される疾患で、動静脈血栓症、習慣流産(不育症)や胎児死亡などの様々な臨床症状を生じる自己免疫疾患です。抗リン脂質抗体に関しては、測定可能なもの以外にも沢山の抗体が存在します。
自己抗体が検出されることから、血栓症以外に自己免疫性疾患としての病態が加わります。原発性APSと全身性エリテマトーデス(SLE)に合併する2次性APSに分類しますが、2次性の原因疾患に関してはSLE以外は非常に稀です。

疫学
APSは後天性の血栓性疾患の中では最も頻度が高く静脈(約35%)にも動脈(約65%)にも血栓症を起こしますが、一過性脳虚血発作(transientischemicatack:TIA)や脳梗塞などの脳血管障害が90%以上を占め、虚血性心疾患は少ない特徴があります。神経内科では若年性脳梗塞や脳静脈洞血栓症の原因疾患として、あるいはLivedoやSLEに合併した病態として診療に関わることが多いかとおもいます。

APSに合併しやすい神経症状

    脳血管障害:脳梗塞、TIA、一過性黒内障、脳静脈洞血栓症、Sneddon症候群
    末梢神経障害:livedo vasculopathy
    頭痛・片頭痛
    てんかん
    舞踏病・ジストニア:autoimmune chorea [ref]
    高次脳機能障害、認知症
    行動異常・脳症
    うつ病・神経症
    網膜動静脈血栓症
    その他(APSに関連すると思われる神経症状)
     視神経炎
     多発性硬化症
     横断性脊髄炎
     特発性頭蓋内圧亢進症

検査
APSの検査は、抗凝固療法を開始する前、あるいは中止後に採血を行ってください

    血液:APTT延長、抗カルジオリピン抗体IgG (and IgM)、抗β2-GPI抗体、ループスアンチコアグラント(LAC)[APSは疑われるけれどもこれらの抗体が陰性の場合にはフォスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体の測定をしても良いかもしれません]
    抗リン脂質抗体(anti phospholipid antibody, aPL):抗カルジオリピン抗体、LAC、抗カルジオリピンβ2グリコプロテインI複合体抗体(抗CLβ2GPI抗体)、フォスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(aPS/PT抗体)が代表的です。一方で、LACと抗カルジオリピン抗体は健常者の1〜5%で陽性となる報告もあり注意が必要です。
    抗カルジオリピン抗体(aCL):カルジオリピンとβ2-glycoproteinIとの複合体に結合する抗体(aCL-β2GPI)と、β2-glycoproteinIを必要としない2種の抗体があることが判明しています。ポリクローナルなグロブリン産生が亢進した疾病では後者のことがありますが、APSで血栓形成に関与するのはaCL-β2GPIの方(前者)と考えられています。
    ループスアンチコアグラント(LA):リン脂質依存性の凝固反応を阻害する自己抗体です。ループスアンチコアグラントの半数は、凝固因子の第V因子、第X因子、細胞膜リン脂質とで反応するprothrombin activator complexに働いて活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の延長をひき起こします。

診断基準
血栓症がなく、抗体検出のみの場合はAPSと診断されません。
臨床所見
(1)血栓症:画像検査や病理検査で確認が可能な動脈または静脈血栓症
(血管のサイズや部位は問わない。血管炎や表層性の静脈炎は除外)
(2)妊娠合併症
 妊娠10週以降の胎児奇形のない子宮内胎児死亡
 妊娠高血圧もしくは胎盤機能不全による妊娠34週以前の早産
 3回以上つづけての妊娠10週以前の流産
(ただし、母体の解剖学異常、内分泌異常、父母の染色体異常を除く)
検査基準
(1)国際血栓止血学会ガイドラインに従った測定法による、ループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant, LAC)が12週以上の間隔をおいて2回以上陽性
(2)中等度以上の力価(40GPLまたはMPL以上, あるいは99%タイル以上)のIgGあるいはIgM型抗カルジオリピン抗体が12週以上の間隔をおいて2回以上陽性
(3)中等度以上の力価(99%タイル以上)のIgGあるいはIgM型抗β2GP1抗体が12週以上の間隔をおいて2回以上陽性
 ※少なくとも1つの臨床所見と1つの検査所見が存在するときに抗リン脂質抗体症候群と診断する

病因
これまで抗リン脂質抗体自体が血栓形成の病原性自己抗体と考えられてきましたが、どちらかというと間接的に作用するようです。つまり、抗リン脂質抗体が単球/血小板/血管内皮細胞へ作用して、NF─κBやp38MAPK、MEK─1/ERK経路を活性化、組織因子やサイトカイン、接着分子の放出を促して、外因系凝固反応を惹起することにより、血栓症に至るなどのメカニズムが想定されています。
その他、β2─GPI(β2─glycoproteinI)および抗β2─GPI抗体との複合体も重要な抗原と位置づけられていて、抗リン脂質抗体の誘導においてβ2─GPIによるトロンビン抑制の障害、トロンボキサンの産生亢進が、APSにおける血栓症発症メカニズムとも考えられています。

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