破傷風(テタヌス) 診断

はじめに
破傷風(Clostridium tetani)は偏性嫌気性のグラム陰性桿菌に属する芽胞形成菌で、土壌中や汚泥中に芽胞形成した状態で広く分布しています。
通常人への感染は、挫滅創などの創傷部位から侵入し嫌気状態で発芽したあとに、以下の二種類のtetanus toxinを産生します。

    tetanospasmin:抑制性シナプスにおけるAchの遊離を抑制して、牙関緊急、後弓反張、呼吸筋の痙攣などの破傷風症状の原因になります
    tetanolysin:組織壊死により嫌気性の環境を作り出し、貪食作用を抑制して菌の発育を促進します

疫学
破傷風の年間発症件数はおよそ100件前後で、DPT(百日咳・ジフテリア・破傷風)の摂取と破傷風トキソイドの普及で比較的稀な疾患となっています。しかしながら国立感染症研究所によれば、24歳以下では90%以上が防御に有効な抗体価を持っているものの、30歳以上では20%程度に低下すると言われています。
感染した場合の死亡率は15〜40%と高く、呼吸筋の麻痺や循環動態の悪化が主な原因とされています。

症状・経過
潜伏期は3〜14日間で、病期は以下の4期に分けられます。開口障害などの症状が出現してから全身の痙攣を来す第3期までの時間をonset timeと呼ますが、これが48時間以内であると予後不良といわれているようです。
神経内科では上記の典型的な破傷風症状以外に、脳幹ミオクローヌスあるいは多発脳神経麻痺の症状を来した場合(脳神経型破傷風)に本疾患を疑うことがあります(下記)

    第1期
    牙関緊急と呼ばれる開口障害や頸の張りなどの軽度の症状が出現するまでの前駆期
    第2期
    上記症状悪化と顔面筋の緊張・硬直により苦笑のような破傷風に特徴的な症状である「痙笑」が現れます
    第3期
    全身の硬直性痙攣、頻脈や血圧の変動など自律神経の活動亢進などのため、生命に最も危険な時期で1〜3週間程度持続します。
    第4期
    回復期

検査

    培養検査:明らかな感染創などがあれば、そこから破傷風菌の証明にtryしますが必ずしも検出率は高くありません
    血液検査:破傷風抗体測定(ワクチンにより産生された感染防御抗体が残っているかどうかの検査であって、直接的な診断にはなり得ません)
    毒素検査
    髄液検査:脳神経型を含め、細胞増加などの異常は検出されないようです
    脳MRI:基本的には異常は検出されません

脳神経型破傷風の特徴
体内で産生されたテタノスパスミンは、末梢性運動ニューロン内に取り込まれて軸索を逆行性に輸送されて、その後抑制性の介在ニューロンに乗り換えてGABAやグリシン作動性の抑制性シナプスを遮断、運動系の最終経路に脱抑制をきたすと考えられています。局所の運動ニューロンで留まれば限局型破傷風や脳神経型破傷風となるのですが、血行性にテタノスパスミンが散布されると全身型破傷風となって、顔面や頸部付近の筋緊張から始まり、全身強直性痙攣となって自律神経障害を合併し重症全身型破傷風となります。多発脳神経麻痺を生じる、脳幹型テタヌスの特徴は以下の通りです

    開口障害に1つ以上の脳神経麻痺を来した破傷風と定義されます
    麻痺を来す脳神経はIII、IV、VI、VII、XIIで、その中でも最多は顔面神経(VII)です
    脳神経型破傷風の症例数は全破傷風症例の1〜3%と稀で、約60%が全身型破傷風へ移行します
    脳神経型破傷風に特異的な治療法はないので、一般的な破傷風の治療を行います
    抗毒素による特異的治療は必須ですが、いったん毒素が末梢性運動ニューロン内に取り込まれると免疫グロブリンでは中和できないため、症状は長期間持続します

破傷風におけるhyperexplexia
破傷風では音の刺激や、顔面・前胸部のtappingにより全身性のミオクローヌスが生じることが知られています。吻側から尾側にかけて全身性に生じるミオクローヌスは、脳幹レベルにおけるグリシン作動性抑制性シナプスの障害によると考えられていますので、PERMと同様の病態が考えられます(脳幹ミオクローヌス

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