Pafのバイオマーカー(脳塞栓症) 診断

脳梗塞症例に置いて、発作性心房細動(paf)が後に検出される可能性が高いマーカーは以下の通りです。塞栓性脳梗塞を疑った場合、施行すべきは植込み型心電計です。しかし、高齢などその施行が難しい場合には、以下のマーカーを測定してみましょう。特に、血清BNP値は重要です。

    iPAB score:Yoshioka K et al., JSCVD. 2015, 2263-2269
    血清BNP/proBNP値Shibazaki K et al., Am J Cardiol 2012;109:1303-1307
    QTc(補正QT時間)Hoshino T et al., Stroke 2015;46:71-76
    RR間隔Vincent NT et al., Neurology 2016;86:261-269.
    左房径の拡大(>40 mm):Fujii S, Clin Neurol, 2009, 49: 629-633
    心房粗動:Vadmann H et al., Heart. 2015 ;101:1446-55
    発作性上室性頻拍(PSVT):Chang SL et al., J Cardiovasc Electrophysiol. 2008;4:367-73
    Supraventricular ectopic activity (SVE):Larsen LS et al., J Am Coll Cardiol. 2015 ;66:232-4

BNPと脳梗塞
脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide; BNP)は主に心室筋細胞から合成・分泌されるホルモンで、1988年に松尾・寒川らによって豚の脳から単離、同定された[1]。その名の通り利尿作用を有し、心臓の負荷が増加したり、心筋の肥大が起こると壁応力(伸展ストレス)に応じて遺伝子発現が亢進し、速やかに生成・分泌される。主には心筋を保護するように働くホルモンで、循環器疾患領域では主に心不全の程度を反映するバイオマーカーとして用いられている。BNP遺伝子よりBNPとNT-proBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント)が等モル比で分泌され、双方ともに心不全マーカーとして測定可能である。

<BNP値と脳卒中の病型診断、重症度>
循環器疾患と密接に関連する脳卒中では、脳出血と比較して脳梗塞が、なかでも心房細動を有する脳梗塞において血漿BNP値が有意に上昇するという本邦からの報告以降[2]、病型/予後予測因子としての役割も検討され、脳卒中診療における有用なバイオマーカーと認識されつつある。血漿BNP値は急性期脳梗塞で上昇し、亜急性期にかけて低下することが知られており[2]、急性期脳梗塞のバイオマーカーとして評価する場合には、発症24時間以内に測定されることが望まれる。
急性期脳梗塞においてBNP値上昇は心原性脳塞栓症との関連が強く、入院時BNP値が140.0pg/mL以上の場合には、心原性脳塞栓症の陽性適中率72.8%、陰性的中率 87.9%と報告されている[3]。したがって、急性期脳梗塞では入院時BNP値が上昇していた場合には心原性脳塞栓症を強く疑うべきである。

<原因不明の脳梗塞症例における心房細動の検出>
脳卒中診療では、突発発症、主幹動脈狭窄病変なし、皮質領域梗塞など心原性塞栓症の要素を満たしながらも、心機能評価で明らかな異常がとらえられずにその他の脳梗塞に分類されることがしばしばある。このような潜在性脳卒中(cryptogenic stroke)の原因として、発作性心房細動(Paf: paroxysmal atrial fibrillation)が占めている割合は多いと考えられ、実際に55歳以上の潜在性脳卒中症例で30日間の非侵襲的携帯型心電図モニターの使用により約16%でPafが検出された(EMBRACE試験)[4]。EMBRACE試験では24時間ホルター心電図での検出率はわずか3.2%と検出効率は低かった。心原性塞栓症は再発リスクも高く、出来るだけ発症早期にPaf出現を予測し抗凝固療法を開始することが望まれるため、バイオマーカーを用いた非侵襲的かつ簡便な検出法も有用と考えられ、近年、発作性心房細動の独立した危険因子に基づいて簡便に算出できるPaf予測スコア(iPAB: identified by Past history of arrhythmia or antiarrtythmic agent use, Atrial dilation, and BNP elevation)スコアが報告された[5]。
このスコアは、既知の心房細動がなく入院時の心電図でも心房細動が検出されなかった急性期脳梗塞患者を前向きに検証し、多変量解析により同定したPafの独立した3つの危険因子、「不整脈の既往および抗不整脈薬服薬歴」(3点)、「左房径拡大 (40mm以上)」(1点)、「血漿BNP値の上昇」(150pg/ml以上3点、90pg/ml以上2点、50pg/ml以上1点)に基づいてスコア(合計7点)を算出し、Pafの高リスク患者を予測するというもので、スコアが高くなるほど罹患率が上昇する傾向が認められた。また、iPABスコアにおけるPaf予測の精度についてROC解析を行い、曲面下面積(AUC)は0.91となり、同スコアを構成するBNPや左房径拡大を単独で用いるよりも予測能が有意に高いことがわかった。さらに、既報告のSTAF(AUC 0.77, 95% CI 0.66〜0.88, P < 0.001)よりも予測能が有意に高いことも判明した。

<BNP値測定の注意点>
BNPの半減期は約20分と短く、病態の変化により変動が強いため脳梗塞発症早期に測定する必要がある。また、血漿濃度は腎機能の低下により排泄能が低下し上昇するため、eGFR 30ml/min/1.73m2未満の症例では増加の程度が大きくなる。高齢者、急性炎症などでも高い値を示すことが知られている。そのため、このような症例ではBNP値による予測能は限定的である。

    1. T Sudoh et al. A new natriuretic peptide in porcine brain. Nature 332, 78-81.
    2. Nakagawa K, et al. Plasma Concentrations of Brain Natriuretic Peptide in Patients with Acute Ischemic Stroke. Cerebrovasc Dis 2005;19:157-164
    3. Sakai K, et al. Brain natriuretic peptide as a predictor of cardioembolism in acute ischemic stroke patients: brain natriuretic peptide stroke prospective study.Eur Neurol. 2013;69:246-51.
    4. Gladstone DJ, et al. Atrial fibrillation in patients with cryptogenic stroke. N Engl J Med. 2014;370:2467-77.
    5. Yoshioka K et al. : A Score for Predicting Paroxysmal Atrial Fibrillation in Acute Stroke Patients: iPAB Score. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2015;24:2263-9.

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