小脳の血管支配

はじめに
小脳に分布する血管は椎骨脳底動脈とそこから分岐する左右の上小脳動脈、前下小脳動脈、後下小脳動脈の3種類の小脳動脈より構成されます。

1. 椎骨動脈 (vertebral artery; VA)
椎骨動脈は鎖骨下動脈に起始したあと、上行し、第六頸椎横突孔に入る。各頸椎横突孔を通り上行し、環椎レベルで横突孔を通ったあと、後方に屈曲し、環椎後頭膜を貫通し、大後頭孔を通り、硬膜を貫いて頭蓋内に入る。環椎後頭膜を貫通してから大後頭孔の硬膜を貫く間の椎骨動脈周囲には静脈叢が取り巻いており,海綿静脈洞との類似性から suboccipital cavernous sinusといわれる。 頭蓋内に入った椎骨動脈は後下小脳動を分枝した後に延髄・橋移行部レベルで左右が合流して脳底動脈を形成する。
 椎骨動脈の左右差は多くの症例でみられ,後下小脳脈分岐後の椎骨動脈低形成や欠損もしばしばみられる。頭蓋底部の椎骨動脈からは前髄膜動脈(anterior meningeal artery)や後髄膜動脈(posterior meningeal artery)が分岐する。前髄膜動脈は頚椎レベルの硬膜を栄養するとともに軸椎歯突起周囲で、上行因頭動脈や対側の前髄膜動脈と吻合odontoid arch を形成する。後髄膜動脈は後頭蓋窩を背側正中方向に走行し後頭動脈や中硬膜動脈後方枝などの外頚動脈系末梢枝と吻合する。頭蓋内椎骨動脈からは前脊髄動脈 (anterior spinal artery) や後脊髄動脈 (posterior spinal artery) が分枝し、各々延髄の前部 ・後部を栄養する。前脊髄動脈は しばしば左右の椎骨動脈遠位部から起始し,左右合流する。これら椎骨動脈分枝は硬膜動静脈瘻の経動脈的塞栓術や椎骨動脈解離によるクモ膜下出血時の椎骨動脈閉塞術などを行う際に重要である。

cerebellum

2. 後下小脳動脈 (posterior inferior cerebellar artery; PICA)
 後下小脳動脈(PICA)は解剖学的に延髄と小脳の位置関係から5つのsegmentと2つのloopに分けることができる。通常頭蓋内の推骨動脈V4 segmentから分岐し、延髄の表面を下降しながらまわり、外側に至り(anterior medullary segment)、延髄小脳裂を後方に向かい(lateral medullary segment)、迷走神経および副神経と交叉する。ここで延髄の背外側を栄養する穿通枝を分枝しながら、上方に反転し(caudal loop)、第四脳室後壁に沿って上行し小脳扇桃上局に達し(posterior medullary segment)、小脳扇桃内側上面に沿って後方へ向かう(supra-tonsilar segmentおよびcranial loop)。同部で外側(tonsilohemispheric branch)と 内側 (vermian branch) に分かれ, tonsilohemispheric branch は小脳扇桃や小脳半球下面に分布し、vermian branch は小脳半球間隙から背側小脳中部と小脳半球内側面を栄養する。末梢側 では上小脳動脈と潜在的な吻合を有する。後下小脳動脈の起始には変異が多く,AICAと共通幹を形成するものや、一部がAICAから起始するもの、頭蓋外から起始するもの、duplication, double origin,後髄膜動脈と共通幹を形成するものなど正常変異が多く見られる。

3. 脳底動脈 (basilar artery; BA)
 脳底動脈は左右の椎骨動脈が合流 して始まり橋前面から脚間叢を上行し左右の後大脳動脈に分かれる。途中傍正中動脈(paramedian artery) や短回旋動脈(short circumflex artery)、長回旋動脈(long circumflex artery) など脳幹への穿通枝を出すとともに、前下小脳動脈や上小脳動脈を分枝する。

4. 前下小脳動脈 (anterior inferior cerebellar artery; AICA)
脳底動脈近位部から分岐し,橋前面を外側やや下方に走行橋被蓋外側や中小脳脚を栄養しながら小脳橋角部に至り第VII,VIII脳神経およびLushuka孔域と近接する。内耳孔後方にてループ(meatal loop)を形成しながら走行し、尾内側幹(caudomedial trunk)と吻外側幹(rostrolateral trunk)に分かれる。前者は中小脳脚および小脳前下面に分布し、後者は大水平裂に沿って外方に進み上下半月小葉に分布し発達が良い場合には小脳延髄裂の外側部から後方に走行して、PICAが低形成な場合には、PICA域を代償することがある。またmeatal loop近傍から内耳や顔面神経管に分布する内耳動脈(internal auditory artery)や第4脳室脈絡叢外側部への脈絡動脈、弓状動脈(subarcuate artery)などが分枝する。subarcuate artery はPICAの硬膜枝として、錐体部にて中硬膜動脈のpetrosal branch や後頭動脈のmastoid branchなどとの潜在的な吻合を有する。

5. 上小脳動脈 (superior cerebellar artery; SCA)
上小脳動脈(SCA)は通常脳底動脈末端より数ミリ近位側から側方に起始するが、後大脳動脈との共通幹形成がみられる場合がある。またSCAが複数存在する場合も約30% の頻度でみられる。脳底動脈から分岐後大脳脚の周りを脚間槽から迂回槽、四丘体槽内を進み中脳被蓋背側に達する。迂回漕部から外側辺縁動脈 (lateral marginal artery) や半球枝が分枝し、各々小脳半球前面と上面に分布する。またこの付近から小脳中心前動脈(precentral cerebellar artery)が分岐し上小脳脚に沿って小脳中脳裂に深く入って小脳白質・歯状核を栄養する。lateral marginal arteryなどはAICA と相補的な関係にあり、lteteral marginal arteryが発達している場合にはAICAは小さい場合が多い。上虫部枝 (superior vermian branch)はSCAの終末枝であり、後上方に走行し、山頂を越えて虫部に分布する。SCAからも硬膜枝の分岐はあり、テント外側下面に分布し、横-S状動脈動部の硬膜動静脈瘻などの際にfeederとして認識される時がある。

小脳動脈の発生
前下小脳動脈(AICA)と後下小脳動脈(PICA)は系統発生学的には内頸動脈のcaudal divisionには属さない椎骨脳底動脈系のpial arteryである。発生初期の両動脈は第四脳室内の大きな脈絡叢を栄養する分岐(choroidal brunch)を出す。その後も両動脈は小さなchoroidal brunchを出し、脈絡叢からの血流はlateral recess veinに導出される。特にPICAは発生学的には新しい脊髄の動脈であるが、小脳の発達と共にヒトでは小脳を栄養するようになった。このためPICAおよびAICAの椎骨動脈および脳底動脈からの分岐位置は症例によって異なる場合がしばしばみられ、PICAが無形成(agenesis、15-20%)の場合や同側から複数起始する場合もある。無形成の場合は同じ側のAICAがその領域の灌流を担う(AICA-PICA)が、対側PICAからの灌流はみられないのが通常である。
前述の2つの下小脳動脈に対して、上小脳動脈(SCA)は発生学的には本来小脳を栄養する動脈であり、内頸動脈のcaudal divisionに属し、発生過程で必ず存在する動脈で、下小脳動脈の分枝位置が色々あるのに反してSCAの分岐位置は一定している。つまり脳底動脈からの小脳動脈の分岐点は尾側に向かうほどvariationが多くなるということになる。
古い上SCAと新しいAICA・PICAの間には吻合が豊富にあり、PICAの末梢部(teloverotonsiler segment)での意図的閉塞において梗塞にならないことが多いのはこの発生学的背景があると考えられる

小脳動脈の灌流分水嶺域
3つの小脳動脈の末梢枝間には、大脳の動脈と同様の脳軟膜血管血管吻合があり、側副血行路として機能しうる。小脳動脈間にも境界域があり、PICA-SCA皮質境界領域は小脳水平裂から上半月小葉付近である。このためPICA-SCA皮質境界領域の梗塞巣は横断像では拡大した水平裂のpertial volume effectと鑑別がしにくい。後者は両側対称性にかつ境界不明瞭で、上下の隣接する断面の観察あるいは矢状断や冠状断の併用によって鑑別する。小脳の深部白質領域にもPICA、AICA、SCAの穿通枝間の境界域があると考えられる。

小脳の静脈解剖と静脈環流
上虫部静脈(Superior vein of vermis)は小脳虫部の上方部分とそれに隣接する小脳よりの還流をうけ、大大脳静脈(vein of Galenに注ぐ)。大大脳静脈に還流する前に、小脳中心前静脈よりも鮮明に造影される場合が多く、また側面像においては小脳中心前静脈の前方より大大脳静脈に流入する。
下虫部静脈(Inferior vein of vermis)は天幕静脈洞還流群でもっとも重要な静脈で、小脳虫部下部、その近傍の小脳半球と小脳扇桃部分を還流する。この静脈は左右対をなして正中部を走行し、静脈洞突会、横静脈洞あるいは直静脈洞に、直接または天幕静脈洞(tentorial sinus)を介して流入する。稀に、この静脈が走行中に相互に吻合し、1本の下虫部静脈となることがある。
下小脳半球静脈(Inferior veins of cerebellar hemisphere)は小脳半球の下部の血液を還流し、上方に走行し、おもに横静脈洞に直接または天幕静脈洞を介して流入する。この静脈は小脳後下面の上内側面で最も発達しており、それらは静脈交会洞、天幕静脈洞、または下虫部静脈に合流している
小脳中心前静脈(Precentral cerebellar vein)は中脳背面と小脳前面で、小舌と中心小葉の聞にある小脳中心前裂内を走行し、その近傍より血液を受ける。この裂内では第四脳室上部(屋根)と平行して前方に走行し、その後、下丘の下縁で後上方に転じ、虫部山頂の前に出て、さらに上方に走行し、大大脳静脈槽にはいり、大大脳静脈に合流する。
錐体静脈(Petrosal vein)は小脳脳幹部前面(錐体面)における最大の静脈で、小脳半球の前面又は外側部にある静脈群のほとんどの静脈群より血流を受けている。長さは2-2.5cmで、片葉(flocculus)近傍より三文神経の背側にそって前上方に走行し、 上または下錐体静脈洞に還流する。この静脈は後頭下関頭による手術の際に損傷する危険性があり、注意が必要である。また三叉神経を圧迫し、三叉神経痛の責任血管となることがある。

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