小脳梗塞 診断/治療

参考小脳の血管支配

はじめに
小脳の血管障害は脳血管障害全体のうち10%以下を占め、小脳の血管障害は約90%が脳梗塞、脳出血全体の約10%が小脳出血である。脳梗塞全体では小脳梗塞は約3%程度を占めるにすぎないが、後頭蓋窩はスペースが少なく、脳浮腫から容易に脳幹圧迫、水頭症をきたし致死的になり得る。一方、症候としてはめまいや頭痛、時には耳鳴りなどの非特異的症状が多く、まずは小脳の血管障害を疑うことが重要である。脳幹圧迫や水頭症からの意識障害は発症直後より数日後にピークがあるため、すみやかな入院管理のもと慎重に経過をみる必要がある。小脳梗塞では水頭症や脳幹圧迫による中等度以上の意識障害をきたしている場合は開頭減圧術、小脳出血では血腫3cm以上で進行性のものまたは脳幹を圧迫し水頭症をきたしているものは開頭血腫除去術の適応となる。

小脳梗塞
疫学
小脳梗塞はその血管支配からしばしば脳幹梗塞を合併するがここでは小脳の病変を主体とする場合について解説する。小脳梗塞の頻度は脳梗塞全体の2.3-5.8%程度と報告されており、患者の平均年齢は65-72歳、約3分の2は男性である。
リスクファクターは他の脳梗塞と同様、高血圧、糖尿病、喫煙、脂質異常症、心房細動、一過性脳虚血発作(Transient Ischemic Attack: TIA)の既往であり、年齢を重ねるごとに発症頻度は高まる。後下小脳動脈(Posterior Inferior Cerebellar Artery: PICA)支配領域の梗塞が上小脳動脈(Superior Cerebellar Artery: SCA)支配領域よりやや多く、前下小脳動脈(Anterior Inferior Cerebellar Artery)支配領域が最も少ない。片側の小脳梗塞が88%であるが、片側の小脳梗塞はしばしば1つ以上の血管支配領域(AICA領域とPICA領域など)に病変の広がりを持つ。PICA、AICA、SCAの典型的な支配領域の梗塞に加え、血管支配に一致せず主要血管の分水嶺領域に起こる梗塞も23〜31%あると報告されている。
小脳梗塞の病因は前方循環の脳梗塞と同様、アテローム性と心原性脳塞栓が最も多い。椎骨動脈解離も重要な原因であり、40歳以下の小脳梗塞患者では27%が椎骨動脈解離が原因であったとも報告され、いずれもPICA領域の梗塞であった。また、椎骨動脈解離だけでなく、PICAなどより末梢動脈の解離の症例も報告されており抗血栓療法を行う際には注意を要する。
一方、悪性腫瘍に伴う脳梗塞(Trousseau症候群)も重要な原因となり得る。また、特に若年の患者では、卵円孔開存、凝固異常、血管炎なども考える。主に横静脈洞の血栓症では小脳半球に静脈性の梗塞をきたしうる。
TIAは小脳梗塞の22%に先行し、前方循環と同程度に脳梗塞発症のリスクがある。年齢(Age; 60歳以上で+1点)、血圧(Blood Pressure;収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上で+1点)、臨床症状(Clinical features;一側の筋力低下で+2点、麻痺を伴わない構音障害で+1点)、持続時間(Duration;60分以上で+2点、10〜59分で+1点)、糖尿病(Diabetes;ありで+1点)の点数の合計で脳梗塞への移行のリスクを判定するABCD2スコアは、前方循環と同様に有用であり、めまいで救急外来を訪れた患者のうちABCD2スコアが3以下の患者では1%、4以上の患者では8.1%が脳血管障害を発症したと報告されている(4)。後方循環のTIAの症状として、前方循環と同様の運動症状(顔面、四肢の麻痺)、感覚症状、視野欠損の他に、めまい、バランスがとれない、複視などが挙げられる一方で、めまいや複視などの単独症状のみではTIAとは一般に判断しない(5)ことから、他の症状を合併していたかで慎重に判断する必要がある。

症状、神経学的所見 
小脳梗塞の症状では多い順に、めまい(73%)、嘔気・嘔吐(54%)、歩行障害(48%)、頭痛(37%)、構音障害(29%)が挙げられる。AICA梗塞ではめまい・嘔気などの前庭症状に加え耳鳴難聴などの特徴的な内耳の虚血を示唆する所見があり、末梢性めまい、内耳炎と混同しやすい。PICA内側梗塞でもAICA梗塞と同様の前庭障害のみの症例もあるため注意を要する。めまいは小脳梗塞患者のおよそ4分の3で見られる一方、外来受診する全患者の主訴の5%はめまいであるというほどに多い症状である。めまいを回転性(vertigo)、非回転性(dizziness)に分類しても、それぞれ同程度に脳血管障害を含んでいたとの報告もあり、脳血管障害の診断に必ずしも有用でない。頭痛は脳梗塞一般には少ないとされるが後方循環では前方循環に比較して多く、特に小脳梗塞では多い主訴である。椎骨動脈解離に由来する場合はそのための痛みを訴える場合もあるが、主に後頭部痛で、病変側に多いという報告もある。
診察所見では、四肢の運動失調(58%)、体幹失調(51%)、構音障害(46%)、眼振(44%)、意識障害(29%、うち26%が錯乱、3%が昏睡)が認められる。他に筋トーヌス低下やsaccadeの異常が起こりうるためこれを診察する。
SCA梗塞ではめまいは少なく構音障害、運動失調が起こりやすいとされる。約半数で認められる眼振については、末梢性めまい患者でも多く出現するが、主に垂直性眼振である場合や、水平注視によって誘発される注視方向性の眼振は中枢性を示唆する。脳幹梗塞に由来するホルネル症候群(片側の縮瞳、眼裂狭小化、発汗低下)や瞳孔異常、一側眼球が内下方へ、他側眼球が外上方へ向く斜偏視(skew deviation)の存在、錐体路徴候(運動麻痺、感覚障害など)、意識レベルの低下は脳血管障害を示唆する。前庭眼反射が正常であることを見るHead impulse test (HIT:このページの最下段参照)は、斜偏視や注視方向性眼振と合わせて感度、特異度共に高いとされるが、稀に小脳梗塞でも陽性となるため総合的な判断が必要である。

検査、診断

    頭部CT:簡便、迅速に行うことが可能で、小脳出血との鑑別にも役立つため、画像検査としてまず行う。脳浮腫の進行が予想される例では、3時間ごとなどに行うこともある。
    脳MRI:CTでは早期の脳梗塞診断が難しいことに加え、後頭蓋窩では骨によるアーチファクトなどからさらに感度が低下するため、疑われた場合は可能であれば脳MRIを撮影する。拡散強調画像(DWI)の高信号で新鮮梗塞を検出する他、MR angiography (MRA)により椎骨脳底動脈系の評価を行うことも重要である。BPAS(Basiparallel anatomical scanning)画像を追加して血管の外観を評価し、MRAのtime-of-flight画像では狭窄または閉塞している血管の外径が不整に拡張している時は、動脈解離を疑う。
    CT angiography (CTA):血管の評価には有用であり、また解離の診断のゴールドスタンダードは血管造影(Digital subtraction angiography: DSA)であるものの、その侵襲性からは適応を選ぶ必要がある。
    血液検査: 脳梗塞一般に出す検査と同様、一般の血算、脂質などを含む生化学、血糖、凝固検査に加え、若年患者ではプロテインS・C欠乏症、抗リン脂質抗体症候群などの凝固異常の検索、血管炎、膠原病関連自己抗体などを提出する。D-dimer、BNPの上昇は潜在的な心房細動の検出に有用である。
    経胸壁心エコー、頚部血管エコー:心弁膜症性疾患や血栓の有無、血管の動脈硬化性変化によるアテロームのリスク評価や解離の有無を見る。必要に応じて経食道エコーを考慮する。

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The radiology Assistantより引用:MRIで検出された病変から閉塞血管を同定することは、病態の把握、血管内治療の適応などにおいて非常に重要です。特に、小脳は簡単なので覚えてしまいましょう。

治療
他の部位の脳梗塞と同様、第一選択はrtPA療法であるが、小脳梗塞のみではNIHSSは高得点となり難く、一般にrtPAの適応とはなりにくい。出血の合併がなければ、脳卒中ガイドライン2015に従いアテローム性であればアスピリン(グレードA)、アルガトロバン(最大径1.5cmを超え発症48時間以内。グレードB)を投与し、心原性脳塞栓症であればヘパリンの投与(グレードC1)を行う。腎障害など禁忌がなければエダラボンを併用する。
小脳梗塞では脳浮腫から脳幹圧迫、閉塞性水頭症のリスクがあり、10-20%の患者に起こるとされる。この浮腫は3日目にピークとなるが、発症1週間以内であればいつでも起こりうるため注意が必要である。出血性梗塞ではそのリスクはさらに増加する。脳幹圧迫を示唆する外転神経麻痺、側方注視麻痺、末梢性顔面神経麻痺、意識障害が出現した場合はすみやかに外科的減圧術を検討する。脳卒中ガイドライン2015ではCT上、水頭症があり、水頭症による昏迷など中等度の意識障害がある症例には脳室ドレナージが考慮される(グレードC1)。CT所見上、脳幹部圧迫を認め、これにより昏睡など重度の意識障害をきたしている症例に対しては減圧開頭術が考慮される(グレードC1)。内科的に可能な脳浮腫への対応としては高張グリセオール(グレードC1)やマンニトール(グレードC1)の投与がある。

予後
小脳梗塞全体の死亡率は7%程度と報告されている。282人のフォローアップでは69%が3か月後に自立していた。めまい、頭痛、嘔気、失調のみで他の神経学的所見を呈さない患者では予後良好である。昏睡に至った患者では外科手術を行わなければ85%が死亡したと報告される一方、手術を行えば半数はmodified Rankin Scale (mRS)0〜2と予後良好であることから、発症早期におけるベッドサイドでの慎重な観察が重要である。

Appendix
Head impulse test
Head thrust testとも言う。前庭眼反射を見ることで末梢性の障害であるか中枢性かを見分けるのに役立つ。被検者は検者の前に座り検者の鼻をずっと見ているよう指示される。その上で、検者はすばやく被検者の頭を一方向に約20度回転させる。前庭眼反射が正常であれば被検者は検者の鼻をずっと見続けることができるが、前庭眼反射が障害されている場合は頭部と同じ方向へ眼が動き、その後検者の鼻へ戻るためのすばやい眼の動き(saccade)が生じる。これを陽性とする。小脳梗塞では通常、Head impulse testは陰性である。

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