小脳出血 診断/治療

参考小脳の血管支配

疫学
小脳出血は頭蓋内出血全体の9-10%を占める。50歳以上の中年~高齢者に多く、男性に多い。病因としては高血圧とその持続による細動脈病変が約80%で、脳内微小動脈瘤の破綻によると考えられており、過剰飲酒も危険因子となる。上小脳動脈分枝の破綻が大多数だが、後下小脳動脈分枝の破綻の場合もある。その他の原因として、脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻、海綿状血管腫、動脈瘤、凝固異常、抗血栓薬(抗血小板薬および抗凝固薬)内服、アミロイドアンギオパチー、腫瘍、コカインなどの薬剤使用がある。テント上の脳外科手術の後に起こるremote cerebellar hemorrhageと呼ばれる稀な病態もある。高血圧に関連した小脳出血はそのほとんどが歯状核に始まり、同側の小脳半球に広がる。虫部を越えて対側の小脳半球へ広がることもあるが、直接脳幹まで出血が広がることは稀である。浮腫によって脳幹や第4脳室が圧排され、脳幹圧迫による呼吸障害、意識障害が起こるほか、第4脳室を経て他の脳室まで広がると水頭症をさらに増悪させる。

症状、神経学的所見
小脳出血の症状としては、小脳梗塞と同様に急性発症のめまい、嘔気・嘔吐、頭痛、歩行時のふらつきや立っていられないといった主訴が多い。診察所見では、発症早期には四肢、体幹の運動失調、眼振、構音障害が見られ、発症時の意識消失もあり得る。持続する出血や出血周囲の浮腫により脳幹が前方へ圧迫されると、意識障害と共に病側注視麻痺、斜偏視、Ocular bobbing(両側眼球が間欠的に急速に下方へ偏倚し、ゆっくり水平位に戻ることを繰り返す)、瞳孔不同、対光反射の減弱または消失、末梢性顔面神経麻痺、ホルネル徴候、錐体路徴候、呼吸障害が出現する。意識障害は、小脳出血全体の50%までに出現すると報告され、発症数時間後から5日までの間にいつでも起こり得るが、最初の2-3日までに最も多い。

検査、診断
頭部CTが迅速かつ早期からの出血同定に有用である。より微小な出血の検索には、MRIのT2*画像やSusceptibility Weighted Imaging (SWI)が有用である。また、高血圧の既往がなく、出血の位置が典型的でないもの、異常血管の石灰化のあるもの(脳動静脈奇形)、くも膜下出血を合併しているもの(脳動静脈奇形、アミロイドアンギオパチー、動脈瘤)、癌の既往があり出血の大きさに比して浮腫が強いもの(原発性または転移性脳腫瘍)、出血性梗塞が疑われるもの、テント上や他の部位にも出血があるものなどは、高血圧性の出血ではない可能性を考え、CTA、MRA、DSAを追加する。血液検査では一般の血算、生化学、血糖、PT、APTT、フィブリノゲンなどの凝固検査に加えて、必要に応じて凝固異常の原因となる疾患の検索を行う。

治療
通常の高血圧性脳出血では凝固系に異常がない場合血液製剤の投与は行わない。血管強化薬(アドナ)、抗プラスミン薬(トランサミン)は考慮してもよい(グレードC1)。
急性期の血圧は、できるだけ早期に収縮期血圧140mmHg未満に降下させ、7日間維持する(グレードC1)。使用する降圧薬としてはCa拮抗薬あるいは硝酸薬の微量点滴静注が進められ、Ca拮抗薬のうちニカルジピンを使用してよい(グレードC1)。
抗血栓療法中の脳出血であれば抗血栓薬は原則としてすみやかに中止する。
脳浮腫、頭蓋内圧亢進に対して高張グリセオール投与は考慮され(グレードC1)、マンニトール投与は進行性に臨床所見が増悪した場合は考慮して良い(C1)。
外科手術の適応については、小脳出血では最大径が3cm以上で神経学的症候が増悪している場合、または小脳出血が脳幹を圧迫し脳室閉塞による水頭症をきたしている場合には手術の適応となる(グレードC1)。一般に開頭血腫除去術および脳室ドレナージ留置を行う。94人の小脳出血患者では手術適応となったのは33%であったという報告がある

予後
小脳出血の死亡率は25%-38%と報告されている。術後の予後は、半数以上は機能的に自立すると考えられるが、予後不良と関連する因子として術前の意識障害(Glasgow Coma Scale: GCSが低い)、血腫径が3cm以上であること、第四脳室の圧排の程度が高度であることなどがしばしば挙げられてきた。一方、術前の意識障害が高度であることは長期予後とは関連しなかったという報告もあり、脳幹梗塞が広範であったり、多数の合併疾患がある患者でなければ術前の意識障害が強くても手術の適応を検討すべきであるという意見もある。

Appendix
Head impulse test
Head thrust testとも言う。前庭眼反射を見ることで末梢性の障害であるか中枢性かを見分けるのに役立つ。被検者は検者の前に座り検者の鼻をずっと見ているよう指示される。その上で、検者はすばやく被検者の頭を一方向に約20度回転させる。前庭眼反射が正常であれば被検者は検者の鼻をずっと見続けることができるが、前庭眼反射が障害されている場合は頭部と同じ方向へ眼が動き、その後検者の鼻へ戻るためのすばやい眼の動き(saccade)が生じる。これを陽性とする。小脳梗塞では通常、Head impulse testは陰性である。

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