はじめに
基本的には、今までCryptogenic stroke(潜因性脳梗塞)と呼ばれていた集団に対して、診断基準を設定し、必要最低限の検査によってESUS集団を分類し、最適な二次予防につなげるというpracticalな概念です。
神経内科医はESUSと診断して満足してはいけません。ESUSには、PAF、PFOなどの奇異性塞栓、大動脈原生塞栓など様々な病態が含まれています。理想的な二次予防とは、原因疾患を解明し、その原因疾患特異的な治療を行うことであり、従来となんら変わることはありません。
どうしてESUSという概念が作られたのか?
もともと脳梗塞の病系分類はTOAST分類が使用されます。この中で、心原性の原因疾患がなく、アテローム病変がなく、ラクナ梗塞でもないものを、「その他の原因」及び「分類不能」に分類します。この二つの分類の中で、「その他の原因」に分類される脳梗塞とは、凝固異常、血管攣縮、血管炎、動脈解離、薬剤性など特殊な原因による脳梗塞になります(「その他の原因」と「分類不能」の病型の違いは紛らわしいですね)。
ESUSが含まれるのは、上手の赤四角で囲った「分類不能」の集団です。TOAST分類では、この集団を以下の3つに分類しています。
- 1. 検査不完了
2. 2つ異常の原因
3. 異常所見なし:これが本当のcryptogenic strokeです
この分類不能の集団に対しては、二次予防として現段階の治療ガイドラインではアスピリンの使用が推奨されています。しかしながら、この「分類不能」の集団には、PAF、PFOなどの奇異性塞栓など、抗凝固療法が予防効果の高い基礎疾患が多く含まれていることがわかっています。
したがって、ESUSという集団を診断基準を作成して必要最低限の検査で積極的に診断し、抗凝固療法と抗血小板療法のどちらが二次予防効果が強いのか?ということを解明するために作られたと考えられます。
診断基準
診断には、必要な検査が定められていて、これらの検査結果から診断を満たすかどうかを判断します。
1. 診断基準
- 画像上非ラクナ梗塞である(病変の長径がCTで1.5cm以上 or MRIで2.0cm以上のもの)
脳梗塞の近位部の動脈が開存(50%以上)している
主要な心内塞栓源がない*
他の特殊な脳卒中の原因がない
(動脈炎、動脈解離、片頭痛/血管攣縮、薬剤)
2. 必要な検査
- 非ラクナ梗塞を証明するための頭部CTまたはMRI
経胸壁心エコー
心電図および24時間以上の心臓モニター
脳虚血領域を供給する頭蓋内外動脈の画像検査
3. 限界と問題点
- 経食道心エコーと大動脈弓の精査は要求しない
植込み型心電図記録計の精査ももちろん要求しない
Branch atheromatous diseaseが含まれてしまう
* ESUS診断において、主要な心内塞栓源とされているのは以下の心疾患です(TOAST分類の主要な心内塞栓源とは若干異なっていることに注意が必要です)
- Permanent or paroxysmal atrial fibrillation
Sustained atrial flutter
Intracardiac thrombus
Prosthetic cardiac valve
Atrial myxoma or other cardiac tumours
Mitral stenosis
Recent (<4 weeks) myocardial infarction Left ventricular ejection fraction less than 30% Valvular vegetations Infective endocarditis
疫学
上記の診断基準を満たしたESUS集団では、実際に将来的にどのような基礎疾患が見つかるのかは、それほど解明されていません。ESUSの概念を発表した論文(Lancet Neurol 2014)では、以下のような疾患が隠れている可能性が指摘/類推されています。
1. 潜在性発作性心房細動(PAF):おそらくこれがESUSの最多基礎疾患です
2. 動脈原性塞栓
- 大動脈弓部粥腫
脳動脈非狭窄性粥腫+潰瘍
3. 奇異性塞栓症
- 卵円孔開存
心房中隔欠損
肺AVM
4. 悪性腫瘍関連
- covert non-bacterial
tumor emboli from occult cancer
5. 低リスクの心内塞栓源
- 僧帽弁逸脱を伴った粘液腫性弁膜症
僧帽弁輪石灰化
非心房細動性心房性不整脈と鬱滞
- 心房性無収縮と洞不全症候群
心房性頻拍のエピソード
左心耳の血流低下を伴った鬱滞
左室
- 中等度収縮期・拡張期機能異常
心室性ノンコンパクション、心内膜線維化
大動脈弁
- 大動脈弁狭窄
石灰化大動脈弁
心房構造異常
- 心房中隔瘤
キアリネットワーク