ミトコンドリア病とてんかん

てんかんとは
「種々の原因により引き起こされる慢性の脳疾患で、大脳の神経細胞が過剰興奮による反復性の発作を主体とするもの」と定義されている。
いずれの年齢層においても生じる疾患であり、患者数は全国で約5千万人、本邦でも60-100万人と言われている。原因疾患もさることながら症状・重症度も多岐にわたり幼少期に発症し成長とともに自然消失するものから難治性で頻回に発作を繰り返すものまである。てんかん診断は大きく情報聴取と脳波検査から成されるが、多彩な臨床像を呈する故に診断が困難な例もあり、特に発作の情報から既往歴、生活歴などの十分な聴取が重要である。治療開始にあたり診断に続いて重要なのはてんかん病型診断であり、これに準じて治療薬を選択する。
「てんかん発作型分類」における背景病因の分類は、「素因性(genetic)」「構造性・代謝性(structural-metabolic)」「原因不明(unknown)」となる。「素因性」は一部のてんかん病型における遺伝学的基盤の存在が明らかになった事により設定された概念で、てんかん診療の進歩が反映されている。「構造性・代謝性」は遺伝子異常に起因するものと区別するために分類された概念である。ミトコンドリア病のてんかん発症機序は未だ不明な点が多数あるが「素因性」「構造性・代謝性」両者の背景を有し、今後その解明に伴いより詳細な分類群の作成が期待される。

ミトコンドリア病とてんかん
ミトコンドリア病はてんかんの合併率が高く、ミトコンドリア機能異常が確認された症例のうち約35%〜60%でてんかんが認められたと報告されている。ミトコンドリア病におけるてんかん発作型は全般発作が多いが、純粋な全般発作だけではなく同一症例でも複数の発作が混在している場合がしばしばある。基本的に特異的な脳波所見や臨床症状はない。また80%以上の頻度で発達障害、失調症状などの他の症状が痙攣に先行して生じる点も診断を困難にしている理由の一つである。
中にはミトコンドリア病の一つAHS(Alpers Huttenlocher Syndrome)のように難治性・持続性部分てんかんなどの臨床症状や後頭葉優位てんかん性放電の脳波所見といった特徴を有するものもある。AHSはmtDNAの複製をコードするPOLG遺伝子(POLG: Polymerase DNA gamma)が責任遺伝子である事が判明しており、他にいくつかの病型を含みPOLG関連疾患と呼ばれている。POLG関連疾患はてんかんを合併するものが多く、またバルプロ酸の導入による悪化が顕著であるという特徴がある12)。てんかん合併が高率なMELASやLSで酵素複合体?の異常が多く確認され、てんかんとの関連が疑われている。しかしながら、ミトコンドリア病は特定の病型に分類できない例も多く、臨床像に加え遺伝子と生化学的異常の把握の蓄積が今後の病態解明、最適な治療法の開発に重要である。

ミトコンドリア病におけるてんかん治療
ミトコンドリア病におけるてんかんは薬剤抵抗性を呈す場合が多く、複数の抗てんかん薬にて治療されていることが多い。他の原因によるてんかん治療と同様、てんかん型に準じ薬剤選択を行うが、一部の抗てんかん薬は症状を悪化させる可能性があり注意が必要である。例えば、バルプロ酸は治療スペクトラムが広く多く用いられる薬剤であるが、ミトコンドリア病においてはクエン酸回路や酸化的リン酸化を阻害しミトコンドリアの構造変異やCOX阻害を来たす事により症状を悪化させ得るため、使用は避けるべきとされている。
一方、比較的安全に使用できミトコンドリア病のてんかんで最も多く使用されていたのは新規抗てんかん薬のラモトリギンやレベチラセタムで単剤治療例も多数見られる。動物モデルでは、てんかん発作後に抗酸化作用を有するグルタチオンや酵素複合体?活性が低下したが、ラモトリギンやレベチラセタムは活性の低下を防ぐと報告されており、ミトコンドリアの機能障害に伴うてんかん発作に対し保護的に作用している可能性がある。てんかんとミトコンドリアの機能異常は互いに悪影響を及ぼす関係にあると考えられている。呼吸鎖の障害により細胞ホメオスタシスの障害やエネルギーの不均衡などによりてんかんが誘発される。てんかん発作は神経細胞の過剰な興奮であり、多量のエネルギーを消費から活性酸素を生成する事により再びミトコンドリア機能異常を引き起こす。この間にも神経細胞の障害は徐々に進行し細胞死を招く。
この悪循環を断ち切る事がてんかんだけでなくミトコンドリア病の進行抑制においても重要であり、抗てんかん薬以外に、ミトコンドリア機能異常の補助(呼吸鎖構成要素の補給)、抗酸化療法、食事療法が行われている。

1.呼吸鎖構成要素の補給
呼吸鎖の構成要素であるcoenzyme Q、L-carnitine、ビタミンB群などの補充療法が行われており、特にこれらの併用を「ミトコンドリアカクテル療法」と呼ぶ。中でも特に重要なのは酵素複合体?,?から?への電子担体のcoenzyme Qである。頻度は低いものの、生化学的にcoenzyme Q減少が証明されたてんかん症例はcoenzyme Q補充により比較的良好な治療反応性を得られる。また抗酸化作用も併せ持つ点、副作用が少ないという点も使用しやすい理由である。てんかんだけでなく、中には血清の乳酸濃度の低下や骨格筋の労作耐久性を改善させたという報告もある。

2.抗酸化療法
抗酸化作用を有する薬剤として、アスコルビン酸(ビタミンC)、α-tocopherol(ビタミンE)、free radical scavengerがある。他薬剤と併用し使用される事が多いが、有効性については明らかでない。

3.ケトン誘発食
高脂肪、低炭水化物食により生成されたケトン体の代謝の過程で生じるacethyl-CoAがKrebs回路を介しエネルギー産生を促進する。実際にはケトン誘発食の導入により、てんかんを抑制させたという報告がある一方で、重大な副作用として代謝性アシドーシスや低血糖を生じた症例もあり、現時点ではミトコンドリア病における有効性は不明である。

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