後天性銅欠乏症(銅欠乏性脊髄神経障害)

銅欠乏症を検索(PubmedGoogle scholar)

はじめに
銅は生体内では鉄、亜鉛に次いで多い微量元素です。チトクロームCオキシダーゼ、チロシナーゼ、Cu/Znスーパーオキシドジスムターゼ (Superoxide dismutase; SOD)などの銅酵素の活性中心に結合することによって、エネルギー産生や細胞呼吸、鉄の代謝、活性酸素除去の抗酸化作用、神経伝達物質の産生、結合組織形成など生体の基本的な機能に関与すると言われています。
銅の吸収と排泄は、銅輸送システムによって厳密に管理されているため、ウィルソン病などの先天的な銅代謝異常がある場合を除いては銅過剰による組織への過剰沈着は非常に稀で、臨床的には欠乏症が問題となります。
銅欠乏症では、脊髄、末梢神経障害、特にVitB12欠乏による亜急性連合性脊髄変性症に類似した神経症状を来すことがあります。

銅の吸収と排泄
経口摂取した銅の一部は胃・十二指腸から、大部分は小腸近位部より吸収されます。以下のようなトランスポーターが有名です。

  • CTR1 (copper transporter 1):小腸絨毛の腸管細胞に存在する銅トランスポーター
  • ATP7A:銅輸送ATPase、メンケス病に関連した蛋白です
  • DMT1 (divalent metal transporter 1)

吸収された銅は門脈を介して肝臓に取り込まれ、血液中では90%以上がセルロプラスミンと結合して存在します。銅の体内貯蔵量は少ないようで、大部分は肝臓から胆汁を介して体外に、一部は腎臓から尿中に排泄されます。

銅欠乏症の原因
通常、成人では経口摂取が可能であれば銅欠乏症を呈することは極めて稀です。
  • 先天性銅代謝異常:メンケス病
  • 後天的な要因:上部消化管手術(最多)、亜鉛の過剰摂取、消化器疾患による吸収障害(セリアック病など)、薬剤性(銅キレート剤やノベルジン )
銅欠乏症による神経障害
脊髄症 (myelopathy)、脊髄神経症 (myeloneuropathy)、末梢神経障害 (neuropathy)が多く報告されています。ミトコンドリアの電子輸送に関わる酵素であるチトクロームCオキシダーゼやメチレーションに関わる銅依存性酵素の機能不全が神経障害の原因として推定されています。
  • 深部感覚障害:振動覚・位置覚低下、Romberg徴候陽性
  • 下肢痙性
  • 末梢神経障害:polyneuropathyパターンが多い
  • 後根神経節障害:報告はあるが非常にまれ
  • 視神経障害:霧視やVEPでのP100潜時の延長
  • その他:嗅覚異常、味覚異常、小脳失調、ミオパチー、認知機能障害
検査所見
  • 血液検査:血球減少、血清銅低下、血清セルロプラスミン低下、赤血球SOD活性低下、血清亜鉛値。(ただし、銅やセルロプラスミンは、妊娠、感染症、血液疾患、心疾患、悪性腫瘍、炎症性疾患や術後などの種々の要因で増加してしまい低下の度合いの評価が難しいこともあります)
  • 尿検査:尿中銅は血中のセルロプラスミン非結合銅を反映しますので、24時間蓄尿中の銅排泄量は銅欠乏症では低値のこともあれば、正常のこともあります(感度低い)
  • 髄液検査:正常から軽度の蛋白上昇
  • MRI:頸髄から胸髄にかけて後索にT2高信号が検出されることもあります
  • 骨量測定:骨粗鬆症の有無を確認する
  • NCS:CMAPやSNAPの振幅低下
  • SEP:中枢感覚伝導時間(central somatosensory conduction time; CSCT)延長、N9-N13潜時が延長
  • 腓腹神経生検:有髄線維密度減少、ミエリン球(myelin ovoid)や軸索の再生像と言った急性と慢性期の軸索変性の所見。稀に、神経周膜血管周囲に単核細胞の浸潤を認たという報告もあります。
頸髄MRI:治療前は脊髄後索中心にT2高信号がみられます(A, C、矢頭)。銅補充後は異常T2高信号が消失しています (B, D)
治療

銅欠乏症による神経症状は、VitB12欠乏による亜急性連合性脊髄変性症と比較すると、治療に対する反応性乏しく、後遺症が残存する症例が多い印象があります。早期に診断して、原因を取り除くことが重要です。
また、血清銅、セルロプラスミンの値をモニターしながら銅補充を行う必要があります。明確なガイドラインはありませんが、銅の吸収障害がある場合には経静脈的(エレメンミックなど)に、その他は経口での補充になるかと思います。厚生労働省の報告では、成人男性で0.9-1.0 mg/日、女性 0.7-0.8 mg/日が推奨量とされています。
その他、免疫抑制剤やステロイド、免疫グロブリン療法、血漿交換療法などの免疫療法をを行なった症例報告はありますが、有効性は明確ではありません。
治療開始より、1ヵ月で銅のバランスが正常化、約2ヵ月で血液像の改善、約10ヵ月で脊髄MRIでの異常信号が改善するようです。

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください