その他

Foix-Chavany-Marie症候群 (Opercular Syndrome:前部弁蓋部症候群)

前方弁蓋部の 損傷によって、顔面ー咽頭ー舌ー咀嚼筋の麻痺を呈する皮質型の偽性球麻痺です。皮質型の偽性球麻痺という聞きなれない状態ですが、本症候群では口、舌、顔面の自動運動を随意運動の乖離(automatic-voluntary motor dissociation)と、さらに進行すると重度の発語障害(anarthria; 失構音など)や嚥下障害が見られます。
例えば、嚥下や顔面の表情筋は意識して随意には動かせなくとも、自然な状況下では可能な状態です。

原因
血管性、感染症、てんかん、変性疾患など多岐にわたます。前部弁蓋部の機能障害が原因と考えられています。

味覚障害(神経学的な側面)

はじめに
COVID-19の初期症状としても注目された味覚障害は、なかなか病態把握が難しいですが、しっかりとした神経診察とともに、電気味覚検査、濾紙ディスク法、舌乳頭の観察、唾液量の検査、抑うつ尺度などが客観的検査として用いられます。以下のような原因が想定されます。

舌の前2/3の味覚を支配する三叉神経(V)のV3と顔面神経(VII)の両方の分枝であるLingual nerve(LN)と、図にはありませんが舌の奥を支配する 舌咽神経(IX)と迷走神経(X)が味覚を司ります。LNは、延髄孤束核(NST)から中心被蓋路(CTT: central tegmental tract)を介して上行し視床を通って大脳皮質(一次味覚野、眼窩前頭皮質(第二次味覚野)、海馬や扁桃体)へ到達します。Arch Neurol. 2003;60(5):667-671.より抜粋

1. 薬剤性/微量元素低下
イオンチャンネルの変化や、Zn欠乏、プロスタグランジンやブラディキニンの変化などが薬剤によって生じます。具体的には、抗てんかん薬、バクロフェン、L-dopa、アセタゾラミド、トリプタン製剤、グリピジド、カプトプリル、ロサルタン、亜鉛キレート剤など

2. 局所異常(受容器障害)
mGluR1抗体脳炎、舌炎、Hunter舌炎(VitB12、葉酸欠乏)、Plummer Vinson症候群(Fe欠乏)、口腔内真菌症、外傷、唾液量低下

3. 末梢神経障害
顔面神経、舌咽神経、迷走神経の障害ですので、Bell麻痺、小脳橋角部腫瘍、HSVなどのウィルス感染、ボレリア感染、外傷、など様々です

4. 中枢神経障害
図の経路の障害ですので、脳幹、視床、大脳皮質のレベルに分けられます。原因疾患は多岐に渡ります。

5. 全身性疾患や障害部位が不明
脊髄小脳変性症、ギランバレー症候群、CJD、ラビウィルス、コロナウィルス、SLE、アミロイドーシス、肥厚性硬膜炎、感冒後、心因性、加齢?など

治療
原因がわかっていれば原因の除去や治療。心因性ではNaSSAなど。
亜鉛、ビタミンA、ビタミンB12、人口唾液、八味地黄丸など、臨床研究はありませんが時に効果あるかもしれません

Vertebral artery stump syndrome(VASS)

はじめに
内頸動脈や椎骨動脈などの主幹動脈が閉塞すると順行性の血流が途絶えて、場合によっては脳梗塞を発症します。その際に、内頸動脈は外頸動脈から、椎骨動脈は深頚部動脈,後頭動脈,上咽頭動脈などから閉塞した部位より遠位側に側副血行路が流入して順行性の血流を保とうとする反応が見られることがあります。
そのような場合、元々の主幹動脈と比較すると血流が弱いため、さらに血栓を形成させてしまい、形成した血栓が飛び脳梗塞を再発させることがあると考えられています。
以下のに内頸動脈と椎骨動脈のstepを示しますが、VASSよりもcarotid stump syndromeの報告がはるかに先です。artery stump syndromeでは、頭蓋内MRAでは閉塞側のICやVAの描出は非常に弱く描出されます。エコーを当てて、flowがあるのか順行なのかしっかりとした確認が必要です。

Carotid stump syndrome

  1. 内頸動脈が閉塞する
  2. 外頸動脈から側副血行路が流入してゆっくりとした順行性血流を流す
  3. 側副血行路流入部を中心に血栓が形成される
  4. 閉塞側IC領域を中心に多発する脳梗塞が発症

Vertebral artery stump syndrome(VASS)

  1. 椎骨動脈起始部閉塞(初回脳梗塞発作、ない場合もある)
  2. 同様に側副血行が閉塞側のVAに流入してゆっくりとした順行性血流を流す
  3. 側副血行路流入部を中心に血栓が形成される
  4. 数日〜数ヶ月間の経過を経て椎骨脳底動脈領域に多発する脳梗塞を発症

わかりづらいので、下の図を使います。まず、VA origin occlusionと記載されているVA近位部が血栓で切り株(stump)のように閉塞します。
次に切り株のような黒く表示された血栓の遠位部VAにはcollateralが流入して、順行性の血流を保とうとします
ただしその血流は弱いため、その部位に血栓が形成されます(灰色表示の血栓)
これが塞栓子となって遠位部に飛び、多発する小脳、脳幹、PCA領域の脳梗塞を引き起こします。

VASSの発生メカニズム J Neurol Sci 2013;324: 74-79より抜粋

VASSの診断基準
後方循環系の急性脳梗塞
椎骨動脈の閉塞が検出されている
椎骨動脈閉塞部遠位での順行性血流の存在
側副血行路:深頚部動脈,後頭動脈,上咽頭動脈
他の脳梗塞の原因がない(やはりVA解離の鑑別が重要でしょうか)

治療
本疾患では、側副血行路流入部の血流が遅いため抗血小板薬よりも抗凝固薬(ヘパリンやワルファリン)が良いのではないかと言う仮説から、ヘパリンやワルファリン単独、ヘパリン+アスピリン or ワルファリン + アスピリンのような初期治療が多くなされています。
また、血管内治療による血栓除去も試みられています

中枢神経胚細胞腫瘍(intracranial germ cell tumor)

はじめに
胚細胞は、成長すると精巣内の精子や卵巣内の非受精卵になりますが、時に、胚細胞が体内で移動して胚細胞腫瘍になることがあります。脳や脊髄にできた胚細胞腫瘍は、中枢神経系胚細胞腫瘍と呼ばれます。
成人前に見られることが多いため、小児脳腫瘍の15%、全脳腫瘍の2.7%程度の頻度ですが、欧米に比べると日本の発生頻度は2-3倍と高いようです。平均診断年齢は18才前後で、男性に多いのですが、鞍上部は男女差はありません。

発生部位
松果体部:60%、水頭症(複視、Parinaud症候群)の合併がしばしば見られます
トルコ鞍上:20-30%、中枢性尿崩症などの内分泌障害
基底核:5-10%
脳室上衣に沿った浸潤/播種:sugar-coated appearance

症状
頭痛、多飲多尿、複視、視野障害、倦怠感、体重減少、成長障害、思春期早発症、精神症状、食思不振

組織型
Pure germinoma:50-60%
Pure yolk sac tumor
Chriocarcinoma
Pure embryonal caricinoma
Teratoma
混合型

診断
血液検査:AFP、hCG上昇
脳MRI:発生部位により様々ですが、intensityとしてはT1 iso、T2 isoのようです。ADCはpineoblastomaほどではなくとも低下するようです(参考サイト
生検:組織型によって、放射線/化学療法の内容が異なります

Progressive ataxia and palatal tremor(PAPT)

はじめに
PAPTは律動的な1~3Hzの口蓋振戦(口蓋ミオクローヌスとも呼ばれる)に進行性小脳性運動失調を呈する稀な症候です。主には昔からGuillain-Morallet三角を形成する小脳歯状核-対側赤核-下オリーブ核経路の障害に関連すると考えられている延髄下オリーブ核(ION)に頭部MRI異常信号や肥大(olivary hypertrophy, OH)がみられます。しかしながら、OHが見られながらもGuillain-Morallet三角に病変が、少なくとも画像上は捉えられない例がPAPTには多く存在します。
逆に、OHが画像で検出された場合でも無症状であったり、口蓋振戦のみであったりしますので、PAPTの症状をきたすことは半分未満と思われます。

原因疾患
下オリーブ核腫大のみであれば多くの疾患が原因になりますが、以下はPAPT症状を伴う場合の原因疾患になります
特発性:原因がわからず特発性に分類されることが現状では最も多い
炎症性(神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、CLIPPERS)
血管性:dAVFの報告もあります
腫瘍性、傍腫瘍性
変性疾患:Alexander病、tauopathy、POLG関連疾患
薬剤性:メトロニダゾール

下オリーブ核肥大(olivary hypertrophy, OH)について

赤核(RN)とION(下オリーブ核)と反対側のDN(歯状核)を頂点とする三角形が、Guillain-Morallet三角と呼ばれています。このループのどこかが障害を受けるとIONの腫大が引き起こされます。J Neuroimaging. 2015;25(5):813-7.より抜粋
このようにIONがT2高信号に変化し、また腫大を伴うこともあります。

OHのMRIの経時変化 (AJNR 2000, 21 (6): 1073-1077より抜粋)
下オリーブ核のMRIの経時的な変化は、以下のような3 stepと考えられています

  1. hypertrophyを伴わないT2高信号域
  2. hypertrophyを伴うT2高信号域
  3. hypertrophyは消退し、T2高信号域が永久に残存する

左右差の強い神経筋疾患

神経筋疾患には、左右の病態の差が見られることが多くあります。脳卒中はもちろん多くは半身の症状ですし、顔面痙攣、眼瞼痙攣なども左右差の原因が病変の左右差に由来すると考えられます。
一方で、以下の様な疾患は、どうして左右差が目立つのか?その原因がよくわかっておりません。

筋萎縮の左右差
進行性顔面半側萎縮症(Parry-Romberg症候群)
良性一側下腿筋萎縮症(benign monomelic atrophy of lower limb)
神経痛性筋萎縮症(neuralgic amyotrophy; Parsonage-Turner症候群)
若年性一側上肢筋萎縮症(平山病)
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー
女性ジストロフィン症
肢体型筋ジストロフィー(LGMD2L)
還元小体ミオパチー

中枢神経系の左右差
Rasmussen脳症
SESA症候群(subacute encephalopathy with seizures in alcoholics)
皮質基底核変性症(Corticobasal syndrome: CBS)
Dyke-Davidoff-mansson症候群
Basal ganglia germinoma without a mass

自律神経障害の左右差
ハーレクイン症候群(Harlequin syndrome)
Ross症候群

全生活史健忘(Generalized Amnesia)

はじめに
ドラマなどでもよく見ますが、多くは著しい心理的ストレスを契機に発症する記憶障害で、発症以前の自分に関する記憶が思い出せない状態です。好発年齢は20歳前後で男子に多く、2ヶ月以内に生活史健忘を回復することが多い様ですが、長期に遷延する報告も少なくありません。
頭部外傷後にも同様の症状が見られることがあります。
エピソード記憶に関する逆行性健忘で、記憶の想起に関する可逆性の障害と考えられています。脳波や心理検査は正常であることが多い様です。

脳画像
PET、SPECT、fMRIによる検討はなされていますが、報告によって一貫した責任病巣は明らかでありません。
FDG-PETでは、右下外側前頭前野、左辺縁上回、両側眼窩前頭野、左島、左海馬などの糖代謝低下がとらえられた例が報告されています。

振戦(tremor)診断

はじめに
振戦とは、体の一部に起こる不随意運動ですが、律動的で拮抗筋が交互に収縮するという特徴があります。この拮抗筋収縮の交互性を表面筋電図で示せれば証明できます。

分類
以下の4つに分けられますが、企図振戦、動作時振戦はオーバーラップすることがあります。

  安静時振戦(resting tremor)
  姿勢時振戦(postural tremor)
  企図振戦(intention tremor)
  動作時振戦(action tremor)

姿勢時振戦
例えば両上肢を前方に挙上して保持したり、肘を曲げて胸の前で両示指を付き合わせる様に保持させるなど、重力に抗する程度の姿勢で、よく見られます、。筋肉の長さを変えない収縮(等尺性収縮)による振戦です。上肢に多く、休息中や運動中はあまり見られません。
Hyperkinesies volitionnelles(意図動作時運動過多)という特殊な激しい振戦も、姿勢時振戦の1つの様です。
原因となりうる疾患:本態性振戦、生理的振戦、甲状腺機能亢進症、慢性アルコール中毒、Wilson病、尿毒症など

企図振戦
例えば、指鼻試験などで人指し指が目標に近ずいた時に見られる測定障害による小脳性の揺れが有名です。その他、何か運動をしようとすると実際に運動が始まる前から始まる企図・動作時ミオクローヌス、Charcotの記載した遅い姿勢時振戦が含まれる様です。