感染性疾患

ノカルジア 診断

はじめに
放線菌群に属する偏性好気性菌(グラム陽性でフィラメントのような形)で、土壌や汚水、海水など自然環境に広く生息します。形態学的性状や生化学的性状から10種類程度に分類されていましたが、16S rDNAの塩基配列解析により1998年以降、Nocardia属の分類が細分化され、現在80種類以上にに分類分類されています。最多の感染部位は肺で、脳・皮膚が続きます。免疫抑制者に好発しますが、ST合剤での予防困難例が報告されており、臓器移植者などの増加に伴って本疾患の増加が危惧されます。
nocardia2
放線状の黒い菌体を多数認めます

Nocardia脳膿瘍
脳膿瘍の1-2%と脳膿瘍の起炎菌としては稀ですが、致死率 31%と他の脳膿瘍の致死率(10%未満)よりも著しく高い点が特徴です。
播種性に広がる傾向と、ST合剤耐性菌が多いことが原因かもしれません
肺Nocardiaの20-30%に合併します
菌株は、千葉大学真菌医学研究センターで解析いただける可能性があります
基礎疾患:臓器移植13%、長期ステロイド12%、白血病・リンパ腫6%、HIV感染5%

nocardia

ノカルジア脳膿瘍のMRI:左前頭葉にDWI高信号病変を認め、リング状造影効果も伴います

sCJD (Sporadic Creutzfeldt-Jacob disease) MM2型

はじめに
sCJDの6型の中でもMM2型に特徴的なのは、皮質型と視床型の2つのタイプがあることです。全く臨床病型はことなるのですが、PrPのwestern blotting解析の結果は差はありませんので、いまだ同定されていない病型の規定因子があるものと推定されています。
また、PSDが出現することが少ないのも特徴です。

MM2皮質型
60歳代以降に認知機能障害で発症することが多いのですが、他のsCJDと比較して進行も遅く、病初期にはその他の神経症状も目立たないため時にアルツハイマー病と診断されていることもあります。
しかしながら、経過中に、失認、失行、ミオクローヌス、小脳失調などが出現します。
脳波でのPSD出現頻度は低いですが、髄液14-3-3はしばしば上昇し、脳MRIでは、DWIで大脳皮質の高信号病変を認めますので、他疾患の鑑別に有用です。

cjdmm2
sCJD MM2 皮質型の脳MRI
拡散強調画像:両側前頭頭頂側頭葉の大脳皮質に高信号変化が見られますが、この症例では基底核の信号変化は見られません

MM2視床型
30歳から70歳代で発症します。症状は、認知機能障害の他に、不眠、歩行失調、精神症状、自律神経症状、錐体外路症状などで、特に不眠を認め病理学的に家族性致死性不眠症(FFI)と病変分布が類似することから、孤発性致死性不眠症(FFIの孤発型と考えた上での命名)とも呼ばれています。しかしながら、日本では致死性不眠症の病型を取らないことも多いようです。
進行は比較的緩徐で、実際に罹病期間は平均15.6か月と、sCJDの典型例(3.9か月)と比較して長いようです。
やはりPSDの出現頻度は低いのですが、髄液14-3-3蛋白もしばしば陰性、QUICKの陽性率も低いなど診断に難渋します。
脳MRIでは異常が検出されない場合であっても、SPECTやFDG-PETで視床の血流及び代謝低下が検出されることがあって、診断に重要です[ref]。


sCJD MM2 視床型 3症例の脳SPECCT:すべての症例(A, B, C)で視床の血流の経時的低下がみられます。[refより抜粋]

sCJD (Sporadic Creutzfeldt-Jacob disease) MV2型

はじめに
sCJD MV2はsCJDの6型の中で欧米ではMM1、VV2に次いで多い亜型(3番目)で[ref]、変異型CJDのpulvinar signに類似した視床病変を特徴とします。
本邦では非常に稀な病型です。

疫学
平均発症年齢は62歳(40-81歳)、罹病期間は17ヶ月程度 (4-43ヶ月)と言われています。

症状
緩徐進行性の失調症状、認知機能障害を特徴とします

検査
髄液:14-3-3の増加は見られないことが多いようです
脳波:PSDはあまり見られません
MRI:変異型CJDのpulvinar signに類似した視床内側から視床枕にかけての高信号域が特徴的です [ref]

sCJD (Sporadic Creutzfeldt-Jacob disease) VV2型

はじめに
sCJD VV2はsCJDの6型の中で欧米ではMM1型に次いで多い亜型で、病初期には「視床の病変」を特徴としますが、本邦では非常に稀で2014年現在までに2報の報告があるのみです(そのうち1報はwestern blotting dataなくVVが確認されているのみ)[ref 1, 2]。

疫学
平均発症年齢は64歳(41-83歳)、罹病期間は6ヶ月程度(3-18ヶ月)と言われています。

症状
初発時症候は四肢体幹失調を認めることが多く、引き続き認知機能障害、眼球運動障害、構音障害、感覚障害、精神症状などが出現します。不眠を認めることもある
CJDに特徴的なミオクローヌスも出現しますが病初期には目立たない印象があります。

検査
髄液:14-3-3蛋白と総Tau蛋白陽性率はほぼ100%です
MRI:拡散強調画像で視床前方から視床枕にかけての経時的に広がる高信号域が特徴的です。変異型CJDのpulvinar signとは逆で視床前方から始まることが多いようです。その後、大脳皮質、基底核、小脳などに異常信号が広がります。
cjd-vv22

病初期(左)には視床前方に高信号が見られますが、その後、視床全体に異常信号が拡大するとともに、基底核や大脳皮質にも高信号が出現しています 
[ref2より引用]

破傷風(テタヌス) 治療

治療
残念ながらあまり有効な治療法はありません
1. 暗所・遮音環境にて安静

2. 洗浄・デブリードマン
感染創が分かっている場合は感染創の十分な洗浄・デブリードマンを行い開放創とする(嫌気性菌です)

3. 抗菌剤投与
PCG 2400万単位を7日〜14日間 点滴静注
ただし βラクタム系はGABA と構造が似ているため、高濃度では中枢神経系の興奮が助長される可能性が示唆されており、海外ではメトロニダゾールを推奨している例もあります

4. 破傷風毒素の中和
抗破傷風ヒト免疫グロブリン(TIG)を3,000〜5,000単位 静注または筋注
TIGは神経に結合していない血中の遊離毒素にしか効果を持たないことから、破傷風の診断に至った場合は可能な限り早急に投与を行うべきです。しかし、いったん神経細胞に入った毒素は中和できません。

5. 全身管理

    破傷風では呼吸筋の硬直・痙攣、また嚥下障害による誤嚥などから呼吸状態の悪化を来すため、気道確保が重要となります
    気管内挿管は筋緊張が亢進しているため、難しいこともしばしばあります
    交感神経過緊張により致死的な頻脈や不整脈、血圧の変動などを来すため注意深い観察と連続的なモニタリングが必要で、場合によってはリドカインやβ-blockerなどを用いた制御が必要となります
    痙攣や硬直症状に関しては、ミダゾラムなどの鎮静・抗けいれん薬の使用や症状に合わせて筋弛緩薬の使用を行います
    筋硬直と交感神経症状の亢進に関して、硫酸マグネシウムの持続静注療法の有効性が報告されています

破傷風(テタヌス) 診断

はじめに
破傷風(Clostridium tetani)は偏性嫌気性のグラム陰性桿菌に属する芽胞形成菌で、土壌中や汚泥中に芽胞形成した状態で広く分布しています。
通常人への感染は、挫滅創などの創傷部位から侵入し嫌気状態で発芽したあとに、以下の二種類のtetanus toxinを産生します。

    tetanospasmin:抑制性シナプスにおけるAchの遊離を抑制して、牙関緊急、後弓反張、呼吸筋の痙攣などの破傷風症状の原因になります
    tetanolysin:組織壊死により嫌気性の環境を作り出し、貪食作用を抑制して菌の発育を促進します

疫学
破傷風の年間発症件数はおよそ100件前後で、DPT(百日咳・ジフテリア・破傷風)の摂取と破傷風トキソイドの普及で比較的稀な疾患となっています。しかしながら国立感染症研究所によれば、24歳以下では90%以上が防御に有効な抗体価を持っているものの、30歳以上では20%程度に低下すると言われています。
感染した場合の死亡率は15〜40%と高く、呼吸筋の麻痺や循環動態の悪化が主な原因とされています。

症状・経過
潜伏期は3〜14日間で、病期は以下の4期に分けられます。開口障害などの症状が出現してから全身の痙攣を来す第3期までの時間をonset timeと呼ますが、これが48時間以内であると予後不良といわれているようです。
神経内科では上記の典型的な破傷風症状以外に、脳幹ミオクローヌスあるいは多発脳神経麻痺の症状を来した場合(脳神経型破傷風)に本疾患を疑うことがあります(下記)

    第1期
    牙関緊急と呼ばれる開口障害や頸の張りなどの軽度の症状が出現するまでの前駆期
    第2期
    上記症状悪化と顔面筋の緊張・硬直により苦笑のような破傷風に特徴的な症状である「痙笑」が現れます
    第3期
    全身の硬直性痙攣、頻脈や血圧の変動など自律神経の活動亢進などのため、生命に最も危険な時期で1〜3週間程度持続します。
    第4期
    回復期

検査

    培養検査:明らかな感染創などがあれば、そこから破傷風菌の証明にtryしますが必ずしも検出率は高くありません
    血液検査:破傷風抗体測定(ワクチンにより産生された感染防御抗体が残っているかどうかの検査であって、直接的な診断にはなり得ません)
    毒素検査
    髄液検査:脳神経型を含め、細胞増加などの異常は検出されないようです
    脳MRI:基本的には異常は検出されません

脳神経型破傷風の特徴
体内で産生されたテタノスパスミンは、末梢性運動ニューロン内に取り込まれて軸索を逆行性に輸送されて、その後抑制性の介在ニューロンに乗り換えてGABAやグリシン作動性の抑制性シナプスを遮断、運動系の最終経路に脱抑制をきたすと考えられています。局所の運動ニューロンで留まれば限局型破傷風や脳神経型破傷風となるのですが、血行性にテタノスパスミンが散布されると全身型破傷風となって、顔面や頸部付近の筋緊張から始まり、全身強直性痙攣となって自律神経障害を合併し重症全身型破傷風となります。多発脳神経麻痺を生じる、脳幹型テタヌスの特徴は以下の通りです

    開口障害に1つ以上の脳神経麻痺を来した破傷風と定義されます
    麻痺を来す脳神経はIII、IV、VI、VII、XIIで、その中でも最多は顔面神経(VII)です
    脳神経型破傷風の症例数は全破傷風症例の1〜3%と稀で、約60%が全身型破傷風へ移行します
    脳神経型破傷風に特異的な治療法はないので、一般的な破傷風の治療を行います
    抗毒素による特異的治療は必須ですが、いったん毒素が末梢性運動ニューロン内に取り込まれると免疫グロブリンでは中和できないため、症状は長期間持続します

破傷風におけるhyperexplexia
破傷風では音の刺激や、顔面・前胸部のtappingにより全身性のミオクローヌスが生じることが知られています。吻側から尾側にかけて全身性に生じるミオクローヌスは、脳幹レベルにおけるグリシン作動性抑制性シナプスの障害によると考えられていますので、PERMと同様の病態が考えられます(脳幹ミオクローヌス

エンテロウィルス 診断

はじめに
エンテロウイルスは、ピコルナウイルス科エンテロウイルス属に属するエンベロープを持たない直径約28?30nmの1本鎖RNAウイルスです。
特に神経内科では、肺水腫を合併した脳幹脳炎の原因となるEnterovirus 71が有名と思われます。小児疾患である手足口病やヘルパンギーナの起因ウィルスの一つです。
脳幹脳炎に関しては、画像的に橋・延髄の背側、中脳被蓋、歯状核にT2高信号を呈することがあり、ときに脊髄前角付近や視床・被殻にも病変をきたすことがあるようです。
病態の主座は、ウィルスそのものの障害というよりも、過剰な免疫応答による全身性の炎症と考えられています。

診断
病原診断としては水疱内容物、咽頭拭い液、便、直腸拭い液などからのウイルス分離を行います。
血清診断は補助的所見ですが、急性期と回復期の血清で4倍以上の抗体価上昇の有無を確認します。

治療
基本的には対症療法ですが、ピコルナウイルスのカプシド蛋白に結合し、ウイルスの吸着を抑制するpleconarilが将来は使えるようになると思われます。
また、重症例に対してはステロイドやIVIgなどの免疫療法が行われることもあります。

感染性脳幹脳炎(infectious brainstem encephalitis) 診断

はじめに
ウィルスや細菌などの感染性の病原体により主に脳幹が障害された病態で、脳幹を主な障害部位とすることの多い病原体がいくつかあります。用語として、brainstem encephalitisあるいはrhombencephalitisが混在しています。
鑑別としては、以下のような病態が上げられます

原因

    細菌性:リステリアが最多
    ウィルス性:HSV-1/-2、Enterovirus 71 > VZV、EBV、CMV、HHV-6、日本脳炎など
    その他:結核性、真菌性、マイコプラズマ

検査

    血液検査:抗糖鎖抗体、抗神経抗体など
    髄液検査:病原体の検索のため最も重要です
    脳MRI:出来れば造影MRIを
    Blink reflex:V, VIIに関しては、核下性/核上性のどちらの障害なのかを類推できます

進行性多巣性白質脳症(PML) 診断

PML診療ガイドライン2017
PML診療ガイドライン2020

はじめに
進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy: PML)は特に免疫抑制状態にある場合に、ポリオーマウイルス属二重鎖環状DNAウイルスであるJCウイルスが変異型になり、脳のオリゴデンドロサイトに感染し、多巣性の脱髄病変を呈する感染性中枢神経脱髄疾患です。なかなかよい治療法が開発されていません。

疫学
本邦での発症頻度は人口1000万人に約0.9人
普通は小児期にJCVに感染するため、成人健常人の70-80%が抗体を持ちます
大脳白質が病変の主座ですが、小脳や脳幹といったテント下病変もあります
HIV感染症、血液系悪性腫瘍疾患、自己免疫疾患、生物学的製剤による治療などが原因になります

発症メカニズム
JCVは腎臓、脾臓、骨髄、リンパ組織や脳に持続感染しています。普通は、archetypeのJCVで存在しますが、これがPML型JCVに変異することによりPMLを引き起こします。
pml

検査

脳MRI:脳室周囲白質・半卵円中心・皮質下白質などの白質病変が主体です。T1低信号、T2高信号、DWIは新しい病変のみ高信号、造影効果はほとんど見られませんが、生物製剤に伴うPMLでは時に造影効果を伴います。特に小さな造影病変が多発するpunctate patternは特徴的です。
また、U-fiberにも病変が及んだ場合、scalloped appearance(帆立貝状)という名称が皮質下病変に用いられることもあります。
FDG-PET:FDGは低下します。悪性リンパ腫などとの鑑別のため。
髄液検査:JC virus PCRが確定診断に必要です
脳生検:JC virus PCRが陰性の場合には必要になります

PMLのテント下病変
基本的には大脳白質

PML診断基準

  • 1.成人発症の数カ月で無動無言状態に至る亜急性進行性の脳症
    2. 脳MRI/CTで、白質に脳浮腫を伴わない大小不同融合性の病変が散在
    3. 白質脳症をきたす他疾患を臨床的に除外できる
    4. 脳脊髄液からPCRでJCウイルスDNA検出
    5. 剖検または生検で脳に特異的な病理所見とJCウイルス感染の証明