末梢神経疾患

遺伝性末梢神経障害(CMT、HMSN) 診断

概念
緩徐に進行する四肢遠位筋の神経原性萎縮を主徴とする遺伝性変性疾患です。多くの場合、末梢神経を構成する蛋白質の遺伝子に異常があります。様々な原因遺伝子が同定されていて、現在30種類以上あるかと思います。
生命予後は良好です。

特徴的な臨床徴候

    末梢神経障害の原則に則って、遠位有意の運動・感覚障害になります。進行例では、希に遠位ミオパチーとの鑑別が臨床的に紛らわしいこともありますので、電気生理検査による末梢神経障害の証明は必須です。
    四肢遠位有意の筋萎縮:逆シャンペンボトル足
    四肢深部腱反射消失
    四肢遠位有意の感覚障害
    足の変形:凹足、ハンマー趾、足関節の変形
    脊椎後彎・側湾
    その他:手指新鮮、筋痙攣、下肢皮膚温低下(cold feet)など

分類
正中神経運動神経伝導速度 38m/sec以下を脱髄型、38m/sec以上を軸索型に分類します。詳しい分類は最新の総説を参考にして下さい。
脱髄型

    CMT1 (AD)
    CMT3 (AD or AR、severe, child-onset)
    CMT4 (AR)

軸索型

    CMT2

その他

    HNPP(hereditary neuropathy with liability to pressure palsies)、Wiki
    など

検査

    血液検査:鑑別診断のためM蛋白の検索MAG抗体など必要に応じて提出
    髄液検査:髄液蛋白が上昇している場合、CIDP(の亜型)との鑑別が重要です
    腰椎MRI:CIDPとの鑑別のため神経根の肥厚や造影効果の有無の検索が必要です
    末梢神経伝導速度検査
    神経生検:脱髄の有無はときほぐし標本も必須となります
    遺伝子検査:まず頻度の最も高いPMP22遺伝子異常をSRLで測定します。陰性の場合は、鹿児島大学神経内科と相談します。

鑑別診断
FAP、MND、CIDP、MAGニューロパチー、中毒性・代謝性疾患、白質ジストロフィーなどなど

原因遺伝子について
様々な原因遺伝子が明らかとなっていますが、頻度の高いものは以下の3つです

    CMT1A:PMP22遺伝子(PMP-22蛋白)、Wiki
    CMT1B:MPZ遺伝子(P0蛋白)
    CMTX1:GJB1(Connexin32蛋白)

この中で最も頻度の高い、PMP22遺伝子はCMT1AだけでなくHNPPの原因になりますが変異の様式が違います。
PMP22遺伝子異常と病型

    duplication (PMP-22が3copy)では、CMT1A
    deletion (PMP-22が1copy)では、HNPP
    point mutationでは、一般的に重症になります

三叉神経痛 (trigeminal neuralgia) 診断

はじめに
主には、SCA, AICA, PICAなどの脳底動脈から分岐した動脈が三叉神経のrootを圧迫することにより生じることが知られています。40-60歳に後発して、女性に多いようです。

症状
顔面の数秒から数十秒続く激痛が症状で、睡眠中に痛みを感じることは少ないようです

    突発的激痛:片側三叉神経領域、特にV2, V3領域
    誘発因子:洗顔、会話、咀嚼、歯磨き、冷風など
    Trigger zone:触れると痛みを誘発するポイントが主に顔面に存在します

分類

    1. 原発性:血管圧迫(SCA > AICA > Vein > PICA > BA)によるもの
    2. 2次性:膠原病、MS、髄膜腫、聴神経鞘腫、類上皮腫、AVM、歯髄炎など

検査
血液検査:膠原病の検索など
脳MRI:特にMRA, 脳幹のHeavy T2画像(FIESTA or CISS)及び三次元再構成による圧迫血管の同定が重要です

Sjogren (シェーグレン)症候群 末梢神経障害

はじめに
Sjogren (シェーグレン)症候群による神経系合併症の一つに末梢神経障害があります。自己免疫的なメカニズムによる後根神経節神経細胞障害、血管炎による二次的な末梢神経障害などが有名です。各種免疫治療に反応しますが、難治例が多い印象があります。

末梢神経障害のタイプ
以下の様な末梢神経障害が代表的なものですが、これらのいくつかを同時に来す場合もあります

  • Small fiber sensory neuropathy(20%)
  • 感覚失調性ニューロパチー(39%):後根神経節障害によるneuronopathy
  • 多発単神経炎型(6-12%):vasculitisによる
  • Sensorimotor polyneuropathy(6-68%)
  • Polyradiculopathy(4-15%)
  • Autonomic neuropathy:よく見られる症状は、発汗障害、下痢、起立性低血圧、Adie瞳孔で、もちろん節後性の障害です。抗gAChR抗体が陽性となって、AAGが合併することがあります
  • Trigeminal and cranial neuropathies

POEMS症候群 診断

概念
神経内科では、末梢神経障害の治療で関わることが多いと思われます。
Crow‐Fukase症候群、POEMS症候群、高月病、PEP症候群などの名称で呼ばれていて、confusingですが現在はPOEMS症候群が最も一般的な名称と思われます。POEMSは以下の頭文字になります。キーワードとしては、VEGFの異常高値と形質細胞腫です。

    多発性神経炎(polyneuropathy)
    臓器腫大(organomegaly):肝脾腫
    内分泌異常(endocrinopathy):女性化乳房、甲状腺機能異常
    M蛋白(M‐protein)
    皮膚症状(skin changes):色素沈着、剛毛、血管腫

その他、浮腫、胸・腹水、糖尿病などなど

病態
形質細胞から分泌されるVEGFが原因と考えられています。
VEGFは強力な血管透過性亢進および血管新生作用を有するため、浮腫、胸・腹水、皮膚血管腫、臓器腫大などの臨床症状との関連が想像できます。一方で、全例に認められる末梢神経障害(多発ニューロパチー)の発症機序については不明の点が多いようです。

検査
血液検査:蛋白分画、免疫電気泳動、VEGF、Flow cytometry、糖鎖抗体は殆どの例で陰性です
骨髄穿刺・生検
末梢神経伝導速度検査:下記の論文を参照
神経生検:病理学的変化は脱髄ですが、軸索変性も見られます

CIDPとの違い
POEMSの70%が電気生理学的にCIDPの診断基準を満たすようで、時に鑑別に苦慮する場合もあります。
POEMSは、CIDPと比較して、重度の下肢疼痛(76% vs. 7%)、筋萎縮(52% vs 24%)が多く見られるようです[ref]。
電気生理学的には、POEMSでは以下の特徴があります[ref]。

    CMAP低下やMCV, SCV低下が多い
    TL延長やTD, CBは少ない
    Sural sparingはない
    Terminal latency indexが高い

多巣性運動ニューロパチー(Multifocal Motor Neuropathy: MMN) 診断

慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン〈2013〉

概念
臨床的に慢性進行性で左右非対称性の遠位優位の筋力低下、筋萎縮を来し、感覚障害はないかあっても軽微のため、まずは下位運動ニューロン障害がメインのALSとの鑑別が最も重要です。
上位運動ニューロン障害の目立たないALSを疑った場合には、本疾患の場合は治療の余地があるので近位部を含め伝導ブロックを丹念に検索する必要があります。しかしながら、MMN without conduction blockという病態も知られていてconfusingです。
もう一つはCIDPの亜型という考え方もありますが、不思議なことにステロイドや血漿交換の効果がほどんどなく、免疫グロブリンあるいはエンドキサンなどが治療の中心となる点で異なった病態の可能性も高いと考えられています。
また、マニアックなことであまり気にしなくても良いと思うのですが、Lewis-Sumner症候群(multifocal acquired demyelinating sensory and motor neuropathy: MADSAM)と呼ばれていて、多巣性の伝導ブロックと感覚障害を認めGM1抗体が陰性の病態もあります。

検査

    血液検査:糖鎖抗体(特にGM1抗体)、他疾患の除外(免疫グロブリン、VEGFなど)
    髄液検査:CIDPと異なり、ほとんど異常は検出されません
    電気生理学的検査:CB検索に適宜MEP、デジタイマーも
    造影脊髄MRI:馬尾、神経根、神経叢の造影効果

抗糖脂質抗体、抗ガングリオシド抗体

参考サイトWiki

はじめに
ガングリオシドは糖鎖部分にシアル酸を含む酸性糖脂質で神経組織の細胞表面に豊富に存在していて、その糖鎖構造の配列に基づいて分類されています。このガングリオシドに対する抗体(抗ガングリオシド抗体)は、Guillan-Barré症候群Fisher症候群などの自己免疫性末梢神経障害の診断マーカーとして有用で、さらにGuillan-Barré症候群の臨床型との関連も少なからずあるようです。
これらの自己抗体が抗原の局在する部位に結合し、補体の活性化やマクロファージなどの炎症細胞浸潤により障害をきたすという免疫学的な発症機序に関与している可能性があります。
また、ガングリオシドは細胞膜でラフトを形成していますが、それぞれのガングリオシドが複合体を形成することがあるようで、その複合体を認識する抗体が病態に関与している可能性も指摘されています。

色々なガングリオシド抗体の構造

Guillan-Barré症候群の臨床型とガングリオシド抗体の関連
上記の参考サイトに詳しく書かれています

代表的なガングリオシド抗体の臨床像
1. 抗GM1抗体:保険適応あり

    Guillan-Barré症候群の中でも、日本や中国に多い急性運動軸索型ニューロパチー(AMAN)でよく見られます。IgG抗GM1抗体の陽性率が高く、Campylobacter jejuniの先行感染が多いことから、Campylobacter菌体外膜のリポオリゴ糖(LOS)とGM1の間の分子相同性が自己抗体産生の機序と考えられています。抗GM1抗体陽性のC. jejuni腸炎後AMANは重篤で後遺症を残しやすいため、抗体の結果を待たずに早期の治療導入が不可欠です。

2. 抗GQ1b抗体:保険適応あり

    Fisher症候群の80~90%に出現して、GQ1bが動眼・滑車・外転神経の傍絞輪部に局在することから、抗原分布と症状の関連性が示唆されています。IgG抗GQ1b抗体は特異性も高いのですが、GT1aと交叉反応する抗体が多いという特徴があります。このGT1aに対する抗GT1a抗体は咽頭・頸部・上腕の筋力低下を特徴とするGBSのサブタイプとの関連があり、ときにFSの3徴候にこれらの筋力低下の合併がみられることがあります。

3. 抗GD1b IgG抗体近畿大学神経内科などで測定可能

    特にDRGの大型神経細胞は、GD1bへの特異性が高いことが証明されてます。そのため、感覚性失調性ニューロパチーを来すことが多いようです。

4. 抗GalNAc-GD1a抗体近畿大学神経内科などで測定可能

    軸索障害型GBS、Amyotrophyなどの臨床型を来します。

5. 抗MAG/SGPG抗体近畿大学神経内科などで測定可能

    抗MAG/SGPG抗体は、IgMパラプロテイン血症に伴うニューロパチーの50%以上で陽性と言われていて、抗MAG抗体陽性例のほとんどは抗SGPG抗体が陽性となります。MAG抗体による末梢神経障害はCIDPと同様に伝導速度の低下が目立つことから、時にCIDPとの鑑別が問題となりますが、CIDPで効果のあるステロイドや免疫抑制剤の効果が乏しく、リツキシマブなどの効果が知られています。鑑別をしっかりしましょう。

Autonomic neuropathy (自律神経性末梢神経障害)

総説:Autonomic peripheral neuropathy. Lancet. 20058;365:1259-70.

概念
自律神経は末梢神経内で運動神経、感覚神経とともに対称的に四肢に分布しますが、小径、無髄神経で、神経伝導速度も遅いことが特徴で、これらの無髄線維を中心に傷害する疾患は比較的限られています。似た病態のsmall fiber neuropathyも参考にしてください。

原因
以下の原因以外にもありますが、頻度の高いものをリストします。

1. Diabetic autonomic neuropathy
2. Amyloid neuropathy
3. Acute and subacute autonomic neuropathies
Guillain-Barré syndromeやAIDP

4. Immune-mediated and paraneoplastic neuropathies
Paraneoplastic autonomic neuropathy
Sjögren’s syndrome
Lambert-Eaton

5. Hereditary autonomic neuropathies
Hereditary sensory and autonomic neuropathies
Fabry’s disease
Triple A (Allgrove’s) syndrome
Navajo Indian neuropathy
Tangier disease
Multiple endocrine neoplasia, type 2b

6. Autonomic neuropathy due to infectious diseases
Chagas’ disease
HIV neuropathy
Botulism
Leprosy
Diphtheria

7. Toxic neuropathies
Organic solvents
Marine toxins
Acrylamide
Heavy metals
Vacor
Vincristine
Cisplatin
Paclitaxel
Perhexiline maleate
Amiodarone
Pentamidine

アミロイドーシス 診断

アミロイドーシスガイドライン

概念
アミロイドーシス(Amyloidosis)とは「アミロイド」と呼ばれる蛋白が全身の臓器の細胞外に沈着する疾患です。大きく分けて、全身性と限局性に分類されます。また、比較的頻度の高い軽鎖(light chain)がアミロイドとなって沈着するALアミロイドーシスには、原発性のものと、MMやMGUSに伴う続発性のものがあります。

分類
全身性アミロイドーシス:AL、遺伝性ATTR、老人性ATTRが有名でしょうか

    非遺伝性:AL (light chainの沈着)、AA (血清アミロイドA沈着)、野生型ATTR(老人性)、Aβ2Mなど
    遺伝性(家族性):ATTR、ゲルソリンなど

限局性アミロイドーシス

    脳アミロイドーシス:AD、CAAなど
    内分泌アミロイドーシス
    限局性結節性アミロイドーシス
    角膜ほかのアミロイドーシス

ATTR関連アミロイドーシスの分類:新たな治療法が開発されているため上記分類とoverlapしますがまとめておきます

    遺伝性ATTRアミロイドーシス:変異ATTRの沈着によるものです(以下のtableの3型が有名です)
    野生型ATTRアミロイドーシス:野生型TTRの沈着によるもので、老人性全身性アミロイドーシスという旧名があります

attr3
JNNP 2015;86:136より引用

全身性アミロイドーシスの症状

    心症状:うっ血性心不全、不整脈
    腎症状:ネフローゼ症候群、腎不全
    消化器症状:吸収不良症候群、巨舌、肝腫大など
    末梢神経症状:sensory > motor polyneuropathy、自律神経障害、手根管症候群
    出血症状:皮膚や消化管から
    内分泌系:甲状腺や、唾液腺の腫大

検査

    心電図:低電位、V1-V3 QS pattern、伝導ブロック、不整脈(下図)
    心エコー:心筋肥厚、高輝度エコー
    血液:血清M蛋白や血清遊離軽鎖(FLC)(AL型の場合)、関節リウマチなどの検索、CRP、SAA、BNPやBT-proBNP(予後予測に使用されることもあります)、トロポニンT
    尿:Bence Jones蛋白(AL型の場合)、蛋白尿定量
    骨髄:骨髄生検像、骨髄のFlow cytometoryによる形質細胞(CD38陽性細胞)の割合や、κ、λ鎖の比なども有力な検索方法です
    自律神経:Head up tilt、ピロリン酸心筋シンチ、MIBG心筋シンチ、SSR、CV-RRなどで、節後性の障害であることを確認する
    電気生理:末梢神経伝導速度検査、針筋電図
    組織診断:消化管、皮膚、腹壁脂肪、腎臓、腓腹神経など症状に応じて、また採取しやすいところから優先的に行いアミロイドの沈着を確認。Congo red染色の他に、DFS(ダイレクトファーストスカーレット)染色も
    骨病変:AL型でMMやMGUSの合併が疑われる場合、骨シンチやCT、MRIなど
    遺伝子診断:遺伝性ATTRアミロイドーシス(FAP)はADですので、通常家族歴が認められるのですが、孤発例も少なくないため注意が必要です
    その他:舌や筋肉のエコーなど?

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心アミロイドーシスの心電図:四肢誘導の低電位、V1,2のQS patternを認めます
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上記症例の心エコー:壁肥厚著明でGranular sparkling echoを認め、心嚢水が全周性に検出されます。

MAG抗体関連末梢神経障害 診断

概念
IgMパラプロテイン血症に伴うニューロパチーは、比較的高齢発症で慢性進行性のポリニューロパチーを呈する疾患です。抗MAG抗体が約50-70%程度で陽性になるといわれ、同時にMAG抗体陽性例のほとんどは抗SGPG抗体陽性でのようです。
本疾患は、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)と臨床所見、電気生理学的所見が類似します。しかしながら、治療反応性が異なるため、本疾患をCIDPと区別することは臨床上とても重要です。

MAGとSGPGについて
sulfate-3-glucuronyl paragloboside (SGPG) は硫酸化グルクロン酸を有する酸性糖脂質で、myelin-associated glycoprotein(MAG)はSGPGを含む末梢神経の複合糖質に存在しています。それらに対する自己抗体はIgMであることが多く、IgMパラプロテイン血症が検出された末梢神経障害症例では、抗MAG/SGPG抗体の測定が必須です。

疫学
65%が男性で、平均発症年齢は59歳。90%は緩徐進行性で、10%は急性から亜急性の発症

症状

    四肢遠位優位の感覚障害:表在覚及び深部覚低下
    痛み、異常感覚
    四肢遠位優位の筋力低下
    失調症状
    姿勢時振戦

検査

    血液検査:免疫グロブリンの測定や、免疫電気泳動など
    髄液検査:あまり特異的な所見はありません
    MAG/SGPG抗体:海外検査機関や近畿大学神経内科へ相談
    骨髄検査:IgM量が多い場合
    電気生理学的検査:感覚優位の脱随型ポリニューロパチーの所見ですが、Conduction blockは通常見られません。遠位潜時の強い延長と、common entrapment siteでの伝導遅延が特徴です

    腓腹神経生検
    脱随所見が主体で、Thin myelinが多く見られ、再生像やOvoidはほとんど見られません。また、HNPPなどでも見られるredundant myelination (hypermyelination)の所見がsemithinで見られます。電顕では、widely spaced myelinというintermediate lineやdense lineを認めるミエリンのほぐれを認めます。POEMSなどでは、uncompacted myelinというintermediate lineの目立たないほつれが見られ鑑別に少し役立ちます。J Neurol Sci. 2012;319:75-80に良く記載されています。

    また、凍結切片などでIgMの沈着を免疫染色にて確認する報告もあります。