末梢神経疾患

Paraproteinemiaに伴う末梢神経障害 診断

Classification of haematological conditions with a paraprotein
(1) Malignant monoclonal gammopathies

    (a) Multiple myeloma [overt, asymptomatic (smouldering), non-secretory, or osteosclerotic]

(b) Plasmacytoma (solitary, extramedullary, multiple solitary)
(c) Malignant lymphoproliferative disease:

(2) Monoclonal gammopathy of undetermined significance (MGUS)

上記疾患でよく末梢神経障害を来たすのは
1.多発性骨髄腫(MM):治療診断
2.MGUS:上記のMMと同様の症状を来します
です

M蛋白血症の原因となる疾患

    形質細胞障害:多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症、POEMS症候群、MGUS、ALアミロイドーシス
    その他のリンパ性腫瘍:CLL、悪性リンパ腫
    非リンパ腫性腫瘍:CML、乳癌、大腸癌など
    非腫瘍性疾患:肝硬変、サルコイドーシス、寄生虫疾患、Gaucher病、壊疽性膿皮症など
    自己免疫疾患:RA、MG、寒冷凝集素症など
    皮膚疾患:粘液水腫性苔癬、丘疹性ムチン沈着症
    など

神経生検(腓腹神経) 適応

Pureな感覚神経である腓腹神経は、生検後に脱力が生じることがないため生検に適しています。
生検により、確定診断がつく疾患は決して多くはないのですが以下のような疾患が適応になります。生検前に、末梢神経伝導速度検査を行いSural nerveの電気生理学的な異常の有無を判断してください
適応疾患

    血管炎に伴う末梢神経障害
    サルコイドーシスによる末梢神経障害
    アミロイドニューロパチー
    神経らい

相対的適応

    CIDP
    n-ヘキサン関連末梢神経障害
    Fabry病
    Paraproteinemiaに伴う末梢神経障害

    Krabbe病
    遺伝性末梢神経障害(PMP22を検索して陰性例でもよいかもしれません)
    HNPP
    巨大軸索性末梢神経障害

Fisher症候群, Bickerstaff脳幹脳炎 診断

概念
1956年、Fisherにより、Guillain Barré症候群の亜型として報告された疾患です。Guillain Barré症候群と同様に、上気道炎、下痢などの感染症状改善数週間後に症状が出現し、抗糖鎖抗体の関与が強く疑われますが、症状がGuillain Barré症候群とは全く異なります。
一般的に、呼吸筋麻痺は合併しないことが多いので、GBSよりも機能予後はよく、多くの場合完治します
再発はしないのですが、稀に再発例も報告されています

症状
以下の症状が、亜急性の経過で、つまり数日の単位で出現、進行します

    外眼筋麻痺(末梢性):すべての方向で障害されます
    運動失調:四肢より、体幹の失調が目立ちます
    四肢腱反射消失:入院し消失していなくても、翌日は消失しているかもしれません

以上が、3大徴候ですが、その他、以下のような症状も見られます

    対光反射消失、散瞳、眼瞼下垂
    末梢性顔面神経麻痺:なぜか、遅れて出現することが多い印象があります。両側が多い
    四肢末梢の異常感覚
    四肢よりむしろ体幹の振動覚の低下または消失
    筋力低下:GBSとの合併など
    軽度の頻脈など自律神経症状

検査

    脳MRI:脳幹脳炎、脳幹梗塞などの除外のため、Fisher症候群では脳MRIで陽性所見はありません
    髄液検査:蛋白細胞解離の有無、感染性疾患の除外
    血液検査:ビタミンB1測定はWernicke脳症との鑑別のため必須です
    抗糖鎖抗体測定(近畿大学神経内科などへ依頼):特にGQ1b抗体(GT1aと交叉反応を示す)が検出されます
    末梢神経伝導速度検査:GBS合併の除外のため
    感染症:サイトメガロウィルス、C jujuni感染の有無の検索

Bickerstaff型脳幹脳炎
Fisher症候群に、脳幹障害や意識障害を合併したような病態です
つまり、上部脳幹を主病変とし、急性の意識障害、眼筋麻痺、顔面神経麻痺、小脳性運動失調、錐体路症状などが亜急性の経過で進行します。
成因は免疫学的機序が考えられていて、Fisher症候群と同様の治療、あるいはステロイドを使用します

遺伝性末梢神経障害(CMT、HMSN) 治療

治療可能なCIDPとの鑑別が本疾患の具体的な治療に入る前に重要になります。髄液蛋白の上昇、神経根のMRIでの肥厚などCIDPで見られる所見が強ければ、ステロイドや免疫グロブリンの投与を試みる価値はあると考えられます。
CIDPでない場合、
主には、毎日の運動、整形外科的なアキレス腱延長術、あるいはPes cavusの治療が中心になります。薬物療法は、モデルマウスのレベルでは効果が実証されているものもありますので、特にVitCなどの投与も考慮されますが、実際に効果が証明された薬剤はありません。

1. 薬物療法:CMT1などの脱髄型(特にPMP22関連)

    ビタミンC
    抗プロゲスチン剤:onapristone
    NT-3

その他

    CoQ10など

2. 外科的治療

    アキレス腱延長術:尖足、下垂足に対して
    後脛骨筋腱背側移行術:尖足、下垂足に対して
    足底筋膜切離術
    中足骨骨切術:内反凹足に対して
    創外固定術(イリザロフ法):内反凹足に対して
    など
    その他、鷲手、股関節(臼蓋形成不全)、脊椎側湾・後彎に対する外科的治療も考慮します

3. 対症療法

    異常感覚に対する治療:リリカなど

4. リハビリテーション
足関節のストレッチによる拘縮予防や、軽度から中等度の運動負荷による歩行訓練が重要です

    装具:短下肢装具、長下肢装具
    HALなどのロボット技術

5. 社会福祉

    身体障害者手帳
    特定疾患申請による医療費補助
    など

注意事項

1. ビンクリスチンなどの抗癌剤を遺伝性末梢神経障害の方に使用すると、末梢神経障害が急速に悪化する可能性がありますので、注意が必要です。
その他、シスプラチン、タキソール、サリドマイド、ベルケード、アミオダロン(抗不整脈薬)、ジダノシン、サニルブジン、ダプソンなどなど

2. CMTの方への麻酔は、一般的に硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔を避けることが望まれます。また、嚥下反射の低下、声帯麻痺、側湾症による拘束性換気障害、悪性高熱症、不整脈へも注意が必要です

末梢神経(Sural nerve)病理所見

末梢神経標本内に存在するもの
神経細胞(軸索)、シュワン細胞(基底膜あり、ミエリン)、Fibroblast(基底膜なし)、血管(血管内皮細胞、Pericyte)、膠原線維、コラーゲンマトリックス

末梢神経障害の病的プロセス
 軸索障害

    急性:ミエリン球(Myelin ovoid)の多発と、有髄線維密度の減少
    慢性:有髄線維密度が減少し、ミエリン球は目立たず、再生神経線維を示唆するミエリンが菲薄化した小径有髄線維が2-3固まったClusteringの所見(thin myelinated cluster)

 脱髄

    急性:髄鞘を有しない軸索(Naked axon)やミエリンをマクロファージが貪食している像(軸索は保たれている点がミエリン球と異なる)
    慢性:髄鞘の菲薄な線維やオニオン バルブ(Onion bulb;有髄線維がシュワン細胞に囲まれたもの)

神経生検で診断可能な疾患
1.血管炎に伴う末梢神経障害

    血管炎の有無:症動脈周囲の血管に細胞浸潤がないか、血管がフィブリノイド変性を来たしていないかをチェックしてください。できれば、皮膚や短腓骨筋でもチェックし、末梢神経の標本もしばしば検索のために切り進むことがあります。
    神経線維脱落パターン:有髄線維の減少とミエリン球を認めますが、多くの場合神経束ごとに、有髄線維の脱落の程度に差があることがあり、血管炎性末梢神経障害を示唆する所見として重要です。

2.サルコイドーシス、アミロイドーシス

    神経周膜、神経上膜のサルコイド結節の有無、Congo red染色によるアミロイド物質の有無や電顕でのアミロイド細線維の確認が必要です。皮膚や短腓骨筋の標本もあること好ましいと考えられます。

3.CIDP

    ときほぐし標本では、絞輪間距離の短縮とミエリンの菲薄化が有名で、エポン標本では髄鞘を有しない軸索(Naked axon)、再髄鞘化したミエリンの菲薄化した有髄線維や、オニオンバルブが見られます
    また、神経内膜への細胞浸潤や、神経周膜下(あるいは神経内膜)の浮腫が見られ、神経束ごとに有髄線維密度に差がある(これは、血管炎性末梢神経障害で特徴的な所見ですが)こともよくあります

cidp edema

神経周膜下の浮腫

4.POEMS症候群
CIDPと同様に、脱髄性の変化を示しますが、Myelin ovoidなど軸索変性所見もまた示します

Non systemic vasculitic neuropathy 治療

はじめに
NSVNの治療に言及する論文は30以上あるが、これまでRCTは存在しません。Collinsらの2010年のNarrative reviewやCochraneの2011年のsystematic reviewが比較的まとまったデータを公表しています

多くの場合は、ステロイドパルス療法後に、比較的長期間ステロイドの内服を行います。
効果の乏しい場合には、エンドキサンパルス療法も考慮します。
その他、
エンドキサンやアザチオプリンの内服、MMF、PE、IVIgの報告がありますが、特にエンドキサン投与が再発率を減らす上で若干アドバンテージがあるようです。

Isolated (Nonsystemic) vasculitic neuropathy 診断

Systemicな炎症所見を伴わずに、末梢神経のみの血管炎を来たす疾患です(全身の炎症所見を伴う血管炎性末梢神経障害は>こちら)。
多くは亜急性から慢性あるいは階段状に進行して、

    多発単神経炎
    非対称性の多発神経炎
    遠位優位の対称性の多発神経炎

のいずれかの型を示します。
同様の臨床病型を示す全身性の血管炎症候群の存在が否定され、血管炎が末梢神経に限局しているのかどうかがポイントです。

臨床経過の特徴

    発症平均年齢 59.5歳
    やや女性に多い(5:4)
    約30%に体重減少、15%に発熱を認める
    ほとんどの症例で運動感覚障害型であるが、15%程度は純粋感覚型。純粋運動型はない
    神経症候は上肢よりも下肢に強く、また遠位優位。しかし近位に症状を認めることもある
    感覚障害はall modalityで、時に大径線維優位のこともある。80%程度の症例で有痛性。
    下肢では総腓骨神経が、上肢では尺骨神経がもっとも障害されやすい。
    ADLは半数が歩行自立、しかし35%は歩行に支持や装具を要し、15%は歩行不能

検査所見

    血液検査:約半数で軽度のESR亢進(>20mm/hr)、ANA陽性、貧血が25%程度、白血球増多15%、RF陽性10%、C3,C4低下5%程度
    髄液所見:CSFの軽度細胞数上昇は5%、CSF蛋白上昇 は30%。OCBを認める例もある。
    末梢神経伝導速度検査:基本的には運動感覚型の軸索障害の所見ですが、伝導速度、遠位潜時の軽度の延長が見られることがあり、13%で軸索障害/脱髄混合型の所見を示します
    腓腹神経、短腓骨筋生検:これで血管炎の所見を証明することが重要です

診断基準(Clin Exp Rheumatol 26(Supple 49) S118-S130; 2008)

    1. Clinical anda electrodiagnostic evidence of an axonal neuropathy
    2. Nerve or muscle biopsy diagnostic or suspicious for vasculitis
    3. No clinical, laboratory, or pathologic evidence of tissue involvement beyond nerve or muscles
    4. No identified etiology
    5. No systemic disease potentially predisposing to vasculitis (e.g. connective tissue disease, diabetes mellitus, malignancy, mixed cryoglobulinemia, and sarcoidosis)

病理

    Definite vasculitis:少なくとも一つ以上の血管に炎症細胞浸潤と、血管障害の所見を認める(フィブリノイド壊死、血管内皮障害、内弾性板の断片化、出血、急性期の血栓)
    probable vasculitis:血管内腔あるいは血管周囲の炎症細胞浸潤があり、必ずしも血管の破壊を伴わないが、血管壁の肥厚や、内腔閉塞、血栓の再開通、神経周囲の血管新生、ヘモジデリン沈着、非対称性の神経線維脱落、進行性のワーラー様変性、局所性の神経周囲の炎症や肥厚、筋繊維の壊死再生などの支持所見を伴う
    Possible vasculitis:明らかな炎症を伴わないが、軸索変性と支持所見(筋繊維の壊死再生、非対称性の神経線維脱落、進行性のワーラー様変性、血管へのimmune depositsの沈着)

なお炎症細胞浸潤はT細胞およびマクロファージ主体で、B細胞はまれのようです。また血管炎は主にepineuriumの20-300μm程度の細動脈に見られ、perineuriumやendoneuriumの血管炎(< 40μm)は稀です。
主な生検材料としては腓腹神経、浅腓骨神経(および短腓骨筋)が用いられ、診断のsensitivityはおおむね50%です
さらに、最近では皮膚もsubclinicalに所見が見られることがあるといわれており、皮膚所見がなくとも、皮膚の血管周囲へのT細胞、マクロファージの集簇像、leukocytoclastic vasculitisの所見が見られた例があります。

MAG抗体関連末梢神経障害 update

Placebo-controlled trial of rituximab in IgM anti-myelin-associated glycoprotein neuropathy. Neurology. 2013 Jun 11;80(24):2217-2225.
抗MAG抗体陽性脱髄性末梢神経障害に対するリツキシマブ治療のプラセボとの比較では、主要評価項目である神経症状に有意な改善を認めなかった

Clinical and pathological heterogeneity in a series of 31 patients with IgM-related neuropathy. J Neurol Sci. 2012;319:75-80.
MAG抗体関連末梢神経障害では多発単神経炎型など非典型的な病型を来すこともあるが、腓腹神経生検では典型的な所見を認め診断に有用である

Prognosis of polyneuropathy due to IgM monoclonal gammopathy: A prospective cohort study. Neurology 2010 74: 406-412.
IgMモノクローナルガンモパチーに伴う末梢神経障害では、高齢発症及び脱髄型は日常生活の障害の強さと関連し、MAG陽性は障害の低さと関連していた

Neurosurgical treatment of tremor in anti-myelin-associated glycoprotein neuropathy. Neurology 2009 73: 1707-1708.
MAGニューロパチーによる振戦に対して視床への深部脳刺激療法が効果のあった82歳女性例

Detection of anti-MAG antibodies in polyneuropathy associated with IgM monoclonal gammopathy. Neurology 2009 73: 688-695.
ELISA法はIgM型単クローン性γグロブリン血症を伴う脱髄性末梢神経障害の72%でMAG抗体を検出できウェスタンブロット法(40-50%)よりも感度が良いが、脱髄性でない末梢神経障害でも陽性になってしまうことがあるのが難点

Placebo-controlled trial of rituximab in igm anti-myelin-associated glycoprotein antibody demyelinating neuropathy.Ann Neurol. 2009 Mar 18;65:286-293. [Epub ahead of print]
抗MAG抗体陽性脱髄性末梢神経障害に対するリツキシマブ投与の少数のプラセボとの比較試験で,有意な症状の改善と血清抗体価の低下が見られた.

Peripheral Autoimmune Neuropathy Assessed Using Corneal In Vivo Confocal Microscopy. Arch Neurol. 2009;66:403-405.
角膜共焦点顕微鏡による角膜神経の評価が有用であったMAG関連末梢神経障害の56歳男性例

Long-term effect of rituximab in anti-mag polyneuropathy. Neurology 2008 71: 1742-1744.
MAG関連末梢神経障害に対してリツキシマブ静注(週に1回4週間投与)で改善効果を認めるが、治療1年後も治療効果が持続していた

糖尿病性神経叢障害 (Diabetic Plexopathy)

Diabetic cervical radiculoplexus neuropathy: a distinct syndrome expanding the spectrum of diabetic radiculoplexus neuropathies. Brain. 2012;135:3074-88.
糖尿病による腕神経叢障害は、腰神経叢障害と同様に疼痛発症後に筋力低下が出現する単相性の経過で、病態として細小動脈の炎症による虚血が原因となっている可能性が高い

MRI of diabetic lumbar plexopathy treated with local steroid injection. Neurology 2009 72: e32-e33.
ステロイドの局所注入によりMRIでの神経叢の造影効果が改善した糖尿病性腰神経叢障害の1例

血管炎性末梢神経障害 update

Rituximab versus Azathioprine for Maintenance in ANCA-Associated Vasculitis. N Eng J Med. 2014
リツキシマブには、アザチオプリンと比較して28ヵ月の時点において多くのANCA関連血管炎患者で寛解が維持された

Vasculitic neuropathies. Lancet Neurol. 2014;13:67-82.
Dyckらによる血管炎性末梢神経障害の総説

Efficacy of remission-induction regimens for ANCA-associated vasculitis. N Engl J Med. 2013;369:417-27.
ANCA関連血管炎患者197人を対象に、リツキシマブの1コース投与と従来の免疫抑制療法(シクロホスファミド+アザチオプリン)の有効性を無作為化試験で比較し、6カ月時の完全寛解率はリツキシマブ群64%、従来群53%、18カ月時の維持率は39%、33%で、リツキシマブの非劣性が認められた

2012 revised International Chapel Hill Consensus Conference Nomenclature of Vasculitides. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.
[総説] 全身性血管炎のカテゴリーの改訂

Systemic and non-systemic vasculitis affecting the peripheral nerves. Acta Neurol Belg. 2009;109:100-13.
血管炎性末梢神経障害に関する総説

The use of nerve and muscle biopsy in the diagnosis of vasculitis: A 5 year retrospective study. JNNP. 2008 Sep 26. [Epub ahead of print]
血管炎性末梢神経障害において,腓腹神経生検に加えて外側広筋の生検を行っても診断の感度は向上しない.