筋疾患

ミトコンドリア異常症 診断

ガイドライン 2017
はじめに
ミトコンドリアとは細胞オルガネラの一つで、好気的代謝とエネルギー産生を司っています。このミトコンドリアの機能異常によって引き起こされる病態を総称してミトコンドリア病とされています。
欧米では10万人に5.7〜11.5人程度の発症率です。発症時期も出生時から成人期まで様々で、障害臓器も単なる糖尿病など単一のものから全身性のものまで多彩な疾患像となるため、診断が難しい面もありますので見逃されていることも多いかと思います。
エネルギー需要が多い神経系、心臓、骨格筋は障害されやすい臓器ですので、特徴的な病型を把握し神経内科医が見逃さないようにしなくてはなりません。

病態
ミトコンドリアでのエネルギー産生は、呼吸鎖(電子伝達過程)と呼ばれています。具体的には、ミトコンドリア内膜上にある酵素複合体I, II, III, IV, Vが重要で、以下のような働きがあります

    複合体I〜IV:電子伝達鎖の一部を司っています
    複合体 V:ATP合成の触媒

さらに、これらの複合体は補酵素Q(coenzyme Q)やcytochrome cなどの電子担体を介して電子を受け渡すことによって、最終的にATPを産生しています。
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ミトコンドリア病では、酵素複合体の欠損や、酵素複合体自体でなくcoenzyme Qなどの電子担体やシャペロンやタンパク分解酵素などの障害が見られます。
この呼吸鎖を構成する約100種類のタンパク質のうちおよそ85%が核DNAにコードされています。ミトコンドリアDNA(mtDNA)だけでなく核DNA(nDNA)の異常にもミトコンドリア病の原因になります。
mtDNAはnDNAの約10倍変異しやすいためか、mtDNAに変異を有する新生児は200人に1人とも言われていますが、ヘテロプラスミーの度合いや遺伝子変異の背景、感染症などの環境因子など複数の独立した因子が関連し発症するようです。

検査
ミトコンドリア異常症の以下のような検査で結果が出れば、ほぼ確定します

    1.血清、髄液の乳酸、ピルビン酸の上昇:特に髄液での上昇が重要
    2.好気性運動負荷試験
    3.筋生検
    4.遺伝子検査:最も重要
    その他:脳MRI、筋MRI、眼科受診、耳鼻科受診など様々な検査が必要になります

代表的な病型
様々な臨床型を来たしますが、比較的頻度の高い病型だけでもその病型間にoverlapがあるのも注意が必要です

Symptom KSS MERRF MELAS NARP MILS
Seizure + + +
Ataxia + + + + ±
Myoclonus + ±
Psychomotor retardation +
Psychomotor regression + ± +
Hemiparesis/Hemianopia +
Cortical blindness +
Migraine-like headache +
Dystonia + +
 
Peripheral neuropathy ± ± ± +
           
Muscle weakness/intolerance + + + + +
Opthalmoplegia +
Ptosis +
 
Pigmentary retinopathy + + ±
Optic atrophy ± ±
 
Sideroblastic anemia ±
 
Diabetic mellitus ± ±
Short stature + + +
Hypoparathyroidism ±
 
A-V block + ±
Cardiomuopathy ± ± ± ±
 
Exo-pancreatic dusfunction ±
Intestinal pseudoobstruction
 
Sensorineural hearing loss + + ±
 
Fanconi syndrome ± ±
 
Lactac acidosis + + + ±
Muscle biopsy RRF+ + + +
 
Maternal Inheritance + + + +
Sporadic +

筋強直性ジストロフィー 診断

はじめに
筋緊張性ジストロフィーは筋強直性ジストロフィーとも呼ばれています。
筋緊張症(筋強直症、ミオトニー)と、筋ジストロフィー症状を中心とするものの、多臓器が障害される多系統性遺伝性疾患で、筋緊張症候群(先天性緊張症(トムセン病)、パラミオトニア、その他)に属する疾患病型のうち最も頻度が高く決して稀な病気ではありません。筋疾患ですが、遠位筋優位の筋力低下が見られることも特徴的です。
筋緊張症は、一種の代謝性ミオパチーとしての病態で、手を握ったあと開きにくい、ハンマー等で叩打したあと筋収縮が盛り上がった形で持続することが特徴です。

遺伝形式
常染色体性優性遺伝で、一代下がるごとに発症年齢低下や重症化を伴う進行性遺伝を示します。

症状

遠位筋優位の筋力低下:胸鎖乳突筋、顔面筋、外眼筋も侵されます
ミオトニア(叩打性ミオトニア、把握性ミオトニア)
知能低下・性格変化(特に病職欠如)
心機能障害:A-V block、僧帽弁逸脱、Burgada症候群 など
白内障
早期前頭部脱毛
内分泌障害(男女性腺機能障害、不妊、糖尿病など糖代謝異常、甲状腺・副腎皮質機能障害など)
免疫異常(IgG低下など)



左:前頭部脱毛と斧状顔貌(hachetface)も特徴的です
右:手を強く握るとその後スムーズに開けません(把握性ミオトニア)

検査
臨床症状でほぼ診断は付きますが、確定診断は遺伝子検査です
針筋電図:スピーカーで聴取される急降下爆撃音(dive bomber sound)
筋MRI
脳MRI:側頭葉極など白質に異常信号を認めることもあります
心電図、内分泌検査、CK上昇の有無など
筋生検:ほとんど必要になることはありません

遺伝子検査
DM1遺伝子検査(SRLで施行可能です)
責任遺伝子は19番染色体上の蛋白キナーゼ遺伝子(dystrophia myotonica protein kinase gene)の3コ非翻訳領域にあるCTG反復配列が患者では異常に伸長していることが分かっています。
反復数は正常者で5-30、軽症者(成人発症型)で50-80、重症者(先天型)で2,000以上といわれ、反復数が多いほど重症化する傾向があります。さらに反復数は世代を経ると増加する傾向があり(Anticipation効果)、典型的な家族例は、まず母親が成人発症型に罹患し、卵子形成過程で反復数が増加し、それを受け継いだ児が先天型に罹患するというものがあります。筋緊張性ジストロフィー疾患は、父親より母親から遺伝した方がリスクが高いことは脆弱X症候群にも似ています.
DM2遺伝子検査
頻度は少ないのですが、上記の強直性筋ジストロフィー(DM1)に加えて、DM2も知られています。DM2は、第3遺伝子(3q21.3)の異常で(CCTG)n tetranucleotideを生じています。
DM2では、知能障害はないと言われています。

中心核ミオパチー

Phenotype of a patient with recessive centronuclear myopathy and a novel BIN1 mutation. Neurology 2010 74: 519-521.
amphiphysin-2 (BIN1)遺伝子の新規変異が同定された中心核病の男性例

A new centronuclear myopathy phenotype due to a novel dynamin 2 mutation. Neurology 2009 72: 93-95.
新たなDYNAMIN2遺伝子変異を認めた中心核ミオパチーの1例

Reducing body myopathy update

Clinical, histological and genetic characterization of reducing body myopathy caused by mutations in FHL1. Brain 2009 132: 452-464
FHL1遺伝子変異によるreducing body myopathyの臨床的、組織学的特徴

Novel FHL1 mutations in fatal and benign reducing body myopathy. Neurology 2009 72: 375-376.
Reducing body myopathyの新たなFHL1遺伝子変異

Limb girdle筋ジストロフィー update

Sustained alpha-sarcoglycan gene expression after gene transfer in limb-girdle muscular dystrophy, type 2D.Ann Neurol. 2010;68:629-38.
2D型肢帯型筋ジストロフィー患者の短指伸筋にアデノ随伴ウィルスで筋特異的なtMCKプロモーターを使用しSGCA遺伝子を導入したところ,3例中2例で6ヶ月後も導入遺伝子や筋組織構成分子の発現が認められた.

Correlation of enzyme activity and clinical phenotype in POMT1-associated dystroglycanopathies. Neurology 2010 74: 157-164.
POMT-1関連ジストログリカノパチーではマンノシルトランスフェラーゼ活性の低下が見られ、POMT1活性と逆相関しており、Walker-Warburg症候群及び 肢帯型筋ジストロフィーといった表現型の違いを説明できるかもしれない

Clinical and mutational spectrum of limb-girdle muscular dystrophy type 2I in 11 French patientsJ Neurol Neurosurg Psychiatry 2009;80:1405-1408フランス人の肢帯型筋ジストロフィー2I患者9家系11人についての筋力・心肺機能・脳MRI・神経心理的評価・遺伝子解析。

Limb-girdle muscular dystrophy type 2D gene therapy restores alpha-sarcoglycan and associated proteins.Ann Neurol. 2009;66:290-7.
LGMD2D患者に対して3日間の筋注でAAVによる遺伝子治療を行い,3ヶ月後でもSGCA遺伝子の発現増加やサルコグリカン複合体の形成,筋線維径の増大がみられ,目立った副反応も見られなかった.

Frequency of LGMD gene mutations in Italian patients with distinct clinical phenotypes. Neurology 2009 72: 1432-1435.
イタリアの家系で小児期発症の肢帯型筋ジストロフィーの77%、全体の60%でLGMD遺伝子変異を検出しえた

Cardiac Involvement in Patients With Limb-Girdle Muscular Dystrophy Type 2 and Becker Muscular Dystrophy. Arch Neurol. 2008;65:1196-1201.
肢帯型筋ジストロフィー2型(特にIとE)とベッカー型筋ジストロフィー(47%)は心機能障害の合併率が高い

Dysferlin-deficient muscular dystrophy features amyloidosis. Ann Neurol. 2008;63:323-8.
肢帯型筋ジストロフィー2B型のDysferlin遺伝子異常の家系において,筋繊維内や間質にdysferlinを構成成分としたアミロイドの沈着を認めた

Lack of toxicity of alpha-sarcoglycan overexpression supports clinical gene transfer trial in LGMD2D. Neurology 2008 71: 240-247.
Alpha-sarcoglycanノックアウトマウスの前脛骨筋に筋肉特異的プロモーター下に人型αサルコグリカン遺伝子を発現する工夫をしたアデノ随伴ウィルスを注射すると、細胞障害性の副作用は少なくαサルコグリカンの発現もよく持続する

myofibrillar myopathy(MFM) update

Distinct muscle imaging patterns in myofibrillar myopathies. Neurology 2008 71: 758-765.
筋CT,MRIによる検討でmyofibrillar myopathy(MFM)に含まれる、desminopathy、myotilinopathy、filaminopathy、αB-crystallinopathy、ZASPopathyには障害される筋の分布に特徴がある

Duchenne筋ジストロフィー update

Safety and efficacy of drisapersen for the treatment of Duchenne muscular dystrophy (DEMAND II): an exploratory, randomised, placebo-controlled phase 2 study. Lancet Neurol. 2014;13:987-96.
5歳以上のデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するエクソンスキッピングを利用した核酸医薬の投与は歩行能力改善効果などを認めなかった

Evidence-based path to newborn screening for duchenne muscular dystrophy.Ann Neurol. 2012;71:304.
CK高値と遺伝子検査の2段階のスクリーニング検査により,DMDを効率的にに診断できる.

Systemic Administration of PRO051 in Duchenne’s Muscular Dystrophy. N Engl J Med. 2011 Mar 23.
デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者への PRO051 (アンチセンスオリゴヌクレオチド) 全身投与により,用量依存的な分子的有効性が認められ,12 週間の延長治療後の 6 分間歩行試験でわずかな改善が得られた

Gentamicin-induced readthrough of stop codons in Duchenne muscular dystrophy.Ann Neurol. 2010;67:771.
変異により停止コドンの出現するDMD患者にゲンタマイシン投与を行い,血清CK値の低下や筋力の回復,ジストロフィン活性の増加が認められた.

Marked Hemiatrophy in Carriers of Duchenne Muscular Dystrophy. Arch Neurol. 2010;67(4):497-500.
著明な半身の萎縮と筋の脂肪化を認めたDuchenne型筋ジストロフィー症保因者の2例

Efficacy of systemic morpholino exon-skipping in duchenne dystrophy dogs.Ann Neurol. 2009 Mar 13. [Epub ahead of print]
デュシェンヌ型筋ジストロフィーのモデル犬に相補鎖薬の全身静脈投与によるエクソンスキッピング療法を行い,明らかな毒性を示さず,正常ジストロフィンの増加や症状の改善がみられた.

Disability and Survival in Duchenne Muscular Dystrophy. JNNP. 2008 Aug 19. [Epub ahead of print]
最近のドゥシャン型筋ジストロフィーの長期経過の観察では,歩行困難は平均9.4歳,電動車いすが14.6歳,呼吸補助が19.8歳で平均寿命は35歳.

ネマリン(nemaline rod)ミオパチー update

Stem cell transplantation in a patient with late-onset nemaline myopathy and gammopathy. Neurology 2008 71: 531-532.
メルファラン大量投与(140 mg/m2)後の自己幹細胞移植によりグロブリン血症と筋力低下が改善した孤発性晩発性ネマリンミオパチーの63歳女性例

Sporadic late-onset nemaline myopathy effectively treated by melphalan and stem cell transplant. Neurology 2008 71: 532-534.
メルファラン投与(70 mg/m2)後の自己幹細胞移植によりグロブリン血症と筋力低下が改善した孤発性晩発性ネマリンミオパチーの38歳男性例