脊髄、脊椎疾患

脳腱黄色腫症(Cerebrotendinous xantomatosis; CTX) 診断

参考文献>臨床神経 2016;56

はじめに
コレスタノールが組織に沈着することで、多臓器の障害が起こる脂質代謝異常疾患です。27-hydroxylase活性が低く、肝における胆汁酸の生合成を障害します。
神経内科では、成人型CTXを、慢性進行性認知症、小脳失調症状、末梢神経障害として診療することが多いかと思いますが、早期治療により進行予防、症状改善を実現できますので見逃さないようにしましょう。
常染色体劣性遺伝(27-hydroxylaseをコードするCYP27A1遺伝子変異)です

症状
1. 古典型CTX

    多くは、学童期頃からゆっくりと症状が進行します。
    黄色腫:病名にあるものの必須ではありません。アキレス腱以外に膝蓋腱や手指の伸筋腱にも見られます
    若年性白内障
    若年性動脈硬化症
    骨粗鬆症
    難治性下痢
    進行性認知症、精神症状、てんかん
    小脳失調
    錐体外路症状
    痙性麻痺、後索性失調(下記)

脊髄型CTX
錐体路徴候と後索症状を主症状として、小脳失調は目立たない病型です。今まで20人弱の報告例がある程度の稀な表現型ですが、treatable spastic paraplegiaとして見逃さないようにしましょう。

検査
診断は病理検査は必須ではなく、コレスタノール値及び遺伝子検査で可能です。
血液検査:血清コレスタノール値測定(SRL)、リポプロテイン解析(黄色腫は、家族性高コレステロール血症やシトステロール血症でも出現するため鑑別が必要です)
脳MRI:特に小脳病変(特に歯状核)がこの疾患を疑うきっかけになることが多いと思います。その他、淡蒼球や錐体路、白質病変が代表的です
脊髄MRI:特に脊髄型では側索、後索にlong segmentに渡る異常信号を認めます
MRS:NAA低下?、Lactate peak上昇?
末梢神経伝導速度検査
神経病理:大脳、小脳、基底核に神経細胞脱落、マクロファージの出現、グリオーシスなどを認めますが、コレスタノールの沈着を反映する所見は、lipid crystal cleftであると考えられます。



[refより抜粋]
A(左上):古典型CTXの典型的な小脳病変です。小脳半球に広範な異常信号を認めます
B(右上):脊髄型CTXの小脳病変です。歯状核に比較的限局した小さな異常信号を認めます
C(左下)、D, E:脊髄型CTXでは、長い脊髄異常信号を認め、特に側索、後索に目立ちます

線維軟骨塞栓症(FCE, Fibrocartilaginous Embolism)診断

はじめに
椎間板の特にnucleus pulposus(髄核)を構成する成分(線維軟骨)が塞栓源となり、多くは脊髄梗塞、稀に椎骨嚢底動脈系の脳梗塞をきたす疾患です。人間より、犬など小動物の報告が多いのも特徴です。髄核が発達しているのでしょうか?同様に、髄核が発達している若者も比較的危険性は高いと想定されています。
線維軟骨が塞栓を引き起こすメカニズムは幾つかの仮説が提唱されています[ref]。

    1. latterally ruptured disk(椎間板が横方向に突出)がradicular arteryに到達する:この説は組織学的にはあまり支持する所見が得られていないようです
    2. 本来無血管のはずのdiskが変性とともに血管新生が生じることでリスクが上昇する
    3. 髄核の椎体への突出(Schmorl結節)が椎体内の類洞へ→髄腔への静脈叢→脊髄循環へとretrogradeに進む
    4. 髄核が類洞から直接vertebral arteryに到達しretrogradeに進む:下図論文はこの説を支持している。できればretrogradeに進むためには、Valsalva maneuverが必要か?



Refより抜粋

危険因子

労作時に腰痛を自覚して、急激に対麻痺を発症するなどが特徴的な病歴になります。

    背部痛
    Osteoporosis
    椎間板変性
    椎体骨折
    腰椎症の手術
    交通事故
    ステロイド長期投与
    落下事故
    重いものを持ち上げようとして力む
    過剰な運動
    Valsalva maneuverをきたすほどの強い咳
     など

診断
病理学的な診断は困難ですので、画像診断や臨床的な状況証拠(上記危険因子など)が重要です。画像的には、DWIが亢進するような脊髄梗塞病変に影響を与えることが可能な血管支配領域に、椎間板の変性やSchmorl’s nodes、時にAVFなどがあることが診断の根拠になります。
画像や病理の特徴は手始めに、AJNR 2005 26: 496-501を参照ください:頸髄病変の記載が乏しいですが

頸椎症性筋萎縮症(CSA) 診断

概念
病態としては頸椎症頸髄症(CSM)と同様ですが、神経内科医にとってはALS(特にFlail arm syndrome)との鑑別が必要かつ一筋縄では行かないため頭を悩ませることがしばしばあります。頸椎症により引き起こされる病態の中でもまれなタイプですが、大昔から知られています。

病態
脊髄前根もしくは前角が選択的に障害される病態と考えられていますが、その機序については未だ不明です。歴史としては、、、
1974年にKeeganが、剖検例をdissociated motor lossとして報告して、椎間板後側方部の骨棘が前根を硬膜内で圧迫することによると推定しました。
1976年に柳田が、脊髄前角は脊髄中心動脈の末梢に分布していることから脊髄前角の血流障害によると推定しました。
1980年に伊藤は、preforaminal partで前根を障害するものと、さらにparamedial partで脊髄前角を障害するものがあると推定しました。
などなど


とにかく、前根や前角障害が筋萎縮の原因になり得る訳ですから、前方からの圧迫や障害が引き起こされているものと考えられます。特に、C5前根糸は解剖学的に短く、圧迫・牽引に対して余裕がないため容易に障害をうける可能性があるようです(C5の場合は近位型)。

症状

    上肢の著明な筋萎縮と筋力低下:障害される筋の分布によって近位型と遠位型の2タイプに分類されます。片側性が多いのですが、両側性も報告されています。
    下肢症状は目立たない(陰性所見)
    脊髄症や知覚障害を認めない(陰性所見)

検査
とにかく、筋萎縮部位が頸椎の病変で説明が可能か、あるいは頸椎の病変では説明が不可能な筋萎縮が存在するか、ALSとの鑑別の場合には脳神経症状など頸椎病変で説明が不可能な症状が存在するかを正確に判定する必要があります。病変の広がりに関しては、針筋電図による脱神経所見の検索が、筋力低下の分布よりも役立つと考えられます(無症候性の変化をもとらえられるため)。

    血液検査:筋萎縮を来す疾患の鑑別
    頸椎MRI
    ミエログラフィー
    電気生理学検査:nEMG、NCV、MEPなど

症状との対比に必要な図(脊椎脊髄ジャーナル 2002 vol15より抜粋)
紛らわしいのですが、脊髄前角の障害部位はその前方に位置する椎体の位置よりも一髄節下になります(下図)。従って、例えばC4/5に強い前方からの突出がある場合に、神経根が障害される場合はC5が障害されますが、前角のレベルですとC5が障害されます。画像と、障害部位、障害筋、腱反射の変化から、頸椎病変によってすべての症状が説明しうるのかを評価しなければなりません。上肢筋の髄節に関しても報告により少しvariantがあります。また、神経根の走行に関しても1髄節程度ずれることも稀にあります。

免疫性脊髄炎 (症) 診断

以下の様な疾患が、脊髄炎、脊髄症を来します。鑑別が必要な感染性脊髄炎の一覧は>こちら

自己免疫性

膠原病に伴う脊髄炎

傍腫瘍性

    CRMP-5関連脊髄炎

その他

感染性脊髄炎 診断

以下の様なagentが原因になりますが、最近は梅毒性はあまりなく、ウィルス性が多い印象があります
ウィルス性

    単純ヘルペス脊髄炎:特にHSV-2
    帯状疱疹ウィルス脊髄炎:帯状疱疹出現後に多い
    HTLV-I脊髄症
    HIV-1関連脊髄症
    ポリオウィルス:急性灰白質炎
    エンテロウィルス

細菌性

    リステリアなど

結核性:radiculopathyを伴うことも多い
梅毒性:後索障害やArgyll Robertson瞳孔(縮瞳、対光反射の消失、近見反射正常)
寄生虫性

    ブタ蛔虫:レバ刺し
    イヌ蛔虫
    ライム病

アトピー性脊髄炎 診断

概念
アトピー性皮膚炎との関連が示唆されている脊髄炎です。以下のような特徴が報告されていますが、確立された概念ではないと考える方も多く、今後の症例の集積が必要です。

疫学
アトピー性皮膚炎が先行してから脊髄炎を発症(多くが皮膚炎増悪時)することがほとんどで、20-50歳が好発年齢です。経過は、急性〜亜急性に進行して、1週間以内にピークへ達しますが、発症以降は慢性に経過します。
症状

    四肢遠位部の頑固な異常感覚(83.5%)
    四肢腱反射亢進
    筋萎縮:脊髄炎ですので筋萎縮は目立たないと思われがちですが、比較的局所的な筋萎縮をともなった例の報告があります

検査

    血液:ダニ(ヤケヒョウダニやコナヒョウダニ)特異的IgE抗体が高率に陽性(90%)、高IgE血症(88.2%)、末梢血好酸球増多(60%)
    髄液:細胞・蛋白ともに正常のことが多いですが、髄液中IgEが高値(42.9%)、好酸球上昇。その他、IL-9、CCL-11(Eotaxin)、IL1ra上昇の報告があります
    MRI:MRIでの病変が検出できない例も稀ではないですが、頚髄が大部分で特に後方に多い。また、病変の経時的な変動が少ない特徴があるようです
    SEP/MEP:MRI異常がなくてもSEPやMEPでの異常認められることがあります

病理
様々な程度の好酸球浸潤を伴う炎症性病巣。軸索・髄鞘ともに脱落、グリオーシスやマクロファージ浸潤が見られる。病巣にはT細胞がB細胞よりも優位に浸潤し、T細胞の中ではCD8+細胞がCD4+T細胞より優位。血管周囲のCD8+T細胞、CD4+T細胞・B細胞の浸潤、脊髄実質内のCD8+T細胞の浸潤(MSとの違い)。Eosinophil cationic protein(活性化好酸球の産物)の沈着 など

Topic
免疫学的に、アトピー性脊髄炎においてはIL-5などのアレルギーに関連するサイトカインを産生するTh2へのシフトが起こっていると考えられており、Th1病(IFN-γを産生してMφを活性化させる、主に自己免疫疾患)とされる多発性硬化症やHTLV-1関連脊髄炎との大きな違いである。その例として、多発性硬化症では、Th2優位になるような病態(アレルギー疾患や妊娠)では病勢が寛解することが知られている。
しかし最近では、Th2から分化するTh9という新しいエフェクターT細胞が発見され、このTh9がIl-9を産生していると考えられており、アトピー性脊髄炎はTh2病であるアレルギー性疾患の中でも、さらに分化したTh9病といえるのではないかという説が出てきている。

頚椎症(性神経根症)update

Comparison of randomized treatments for late whiplash. Neurology 2010 74: 1223-1230.
頚椎障害の後遺症に対してブピバカイン筋注、flurbiprophen内服、理学療法の3群に分けて治療を行い女性優位に症状の改善を認めたが、治療の種類による効果の差はなく、その後に認知行動療法を追加することでさらなる改善効果が得られるようだ

HTLV-I関連脊髄症 診断

概念
西日本を中心に特に九州・四国,沖縄に多く分布するHTVL-Iキャリアーの1000人に一人、痙性対麻痺を来たすことがあり、HTLV-Iによる脊髄障害の可能性が示唆されている疾患です

症状
緩徐進行性の

    両下肢痙性不全麻痺:感覚障害は運動障害よりも軽度で、しびれ感や痛みなど自覚的なものが多い
    自律神経症状:膀胱直腸障害(病初期より),下半身の発汗障害、起立性低血圧、インポテンツなど
    その他:手指振戦、運動失調、眼球運動障害、軽度の痴呆

検査

    抗 HTLV-I 抗体:血清,髄液共に陽性
    末梢血所見:白血球数は軽度減少、核の分葉化を示すリンパ球が散見、ATL でみられるフラワー細胞は稀
    髄液:軽度の蛋白、細胞数の増加(核の分葉化したリンパ球がみられる例もある)
    髄液ネオプテリン:活動性炎症を反映していると考えられているため、病勢の把握に重要です。SRLで測定可能です
    脊髄MRI:脊髄に局所的な病変を指摘できる例はほとんどないですが、長期経過例では胸髄全体が萎縮している場合もあります
    頭部MRI:大脳白質や橋に T2強調画像で高信号域が散在してみられる例があります
    SEP:特に下肢で中枢伝導障害の所見
    針筋電図:傍脊柱筋で軽度の脱神経所見がみられ特徴

病理と病態
病理所見
慢性炎症過程が脊髄,特に胸髄中・下部に強調されて起こっています。
つまり、小血管周囲から脊髄実質に浸潤する T細胞主体の炎症細胞浸潤があり,周囲の脊髄実質(髄鞘や軸索)の変性脱落を伴います
一方で、炎症が終息した部では強いグリオーシスと血管周囲の線維性肥厚が見られます
炎症細胞浸潤は広く大脳を含めて全中枢神経系に広がっていますが、常に脊髄中・下部に強調されていて、生理的に血流の停滞しやすい部位により強い炎症が見られるのかもしれません
病態
もう一つの特徴は非常に長期間にわたって炎症が持続しているにもかかわらず、組織の破壊は緩徐です。HTLV-I のプロウイルスは血管周囲に浸潤している T リンパ球のみに局在していて、神経細胞やグリア細胞など神経組織自体に感染しているわけではありません
つまり、本来の宿主細胞であるヘルパーT 細胞に感染しているだけで、接着因子やメタロプロテイナーゼなどを介しての組織浸潤という形で脊髄に持ち込まれていることが推定されていますが、、、

脊髄梗塞 診断

概念
脊髄梗塞は、脳梗塞の脊髄版のようなものですので、もちろん多くは急性発症で、脊髄障害を起こす疾患です。脳梗塞と比較すると、頻度は低いのですが、その理由として、脊髄動脈波脳動脈と比較してアテローム硬化が少なく、また脊髄の血管は動脈間の吻合が豊富で、これが側副血行路として働くためとされています。

原因
脳梗塞と同様に、アテローム硬化/血栓症などによる脊髄動脈の閉塞が原因となりますが、大動脈解離、大動脈の手術など大動脈疾患に関連するものの頻度が高いようです。また、原因がはっきりしない場合もよく見られます

    Syphilis
    Hypercoagulability
    Giant cell arteritis、Polyarteritis
    Sickle cell anemia
    Intervertebral disc herniation
    Temporary cervical subluxation
    Mitral valve disease and multiple emboli
    Atherosclerosis of aortic vessels and branches
    Hypotension
    Cardiac arrest
    Traumatic rupture of aorta
    Fibrocartilaginous embolism
    Dissection of ascending aorta
    Angiography
    Therapeutic renal artery embolization
    Surgery for aortoiliac occlusive disease

症状
とにかく、急性発症であることが重要です。しかし、5%程度は進行が数日単位で見られることもあり、その場合は脊髄炎やDural AVMなどとの鑑別をしっかり行わなくてはなりません。また、脳梗塞と同様に虚血部位により症状がことなります

    前脊髄動脈症候群
     対麻痺:もちろん錐体路症状は陽性ですが、急性期は深部腱反射が低下する場合もあります
     解離性感覚障害:深部感覚が保たれます
     膀胱直腸障害
     背中の痛み:椎体梗塞による??
    後脊髄動脈症候群
     病巣部以下の深部感覚優位の障害
     深部反射の低下/消失
     膀胱直腸障害
    分水嶺領域
     これは、脊髄中心部に虚血が出現します

検査

    血液検査:凝固能、梅毒、炎症所見など
    胸腹部造影CT:解離性大動脈瘤の検索
    脊髄造影MRI:T1、T2、脂肪抑制T2、可能ならDWI、Dural AVMとの鑑別のため造影T1も。また、線維軟骨塞栓症の可能性を考えて、椎体や椎間板をしっかりと観察することは非常に重要です。

spinal-cord
左:下部胸髄から円錐部にかけて腹側(前脊髄動脈領域)に高信号をみとめます。時々、椎体の梗塞のためか、椎体の異常信号を認めることもありますが、本例では認めません
右:脊髄腹側に高信号を認めます。赤い矢印は大動脈ですが、本例では異常を認めません

脊髄梗塞 治療

決まった治療法がなく、リハビリテーションが中心となりますが、脊髄梗塞以外の脊髄炎などの疾患の鑑別、及び脊髄梗塞の原因検索及び原因疾患の治療が重要です
脊髄炎などTreatableな疾患が本当に存在しないかどうかはしっかり検討しましょう

1.抗血栓療法
抗血小板療法、抗凝固療法共に治療効果を証明した研究はありません。しかし、アテローム硬化が原因と考えられる場合には、抗血小板薬の投与をしてもよいと思われます

2.リハビリテーション
運動機能回復のため最も重要で、かつ肺塞栓の予防にもなります。時間をかけて徐々にADLが上アップする症例も多くあります

3.原因疾患の治療
動脈解離、血管炎、梅毒、凝固機能異常などなどアテローム硬化以外の治療可能な原因疾患が存在すれば、その治療を行います

4.その他
浮腫の強い例では、ステロイド、ラジカット、グリセオールなどの投与が経験的に行われることもありますが、有効性は証明されていません

5.合併症予防

    肺塞栓
    膀胱直腸障害に伴う尿路感染症
    褥創
    呼吸機能低下による肺炎や気管支炎