脱髄、炎症性疾患

テクフィデラ(フマル酸ジメチル) 治療

概要
テクフィデラ(フマル酸ジメチル)は、多発性硬化症の再発予防薬です。
主に細胞保護機構であるNrf2経路の活性化を介して、抗炎症作用と神経保護作用を発揮すると考えられています。抗炎症作用としては、Nrf2がIL-6やIL-1β遺伝子の発現を阻害することで炎症を抑制するなどの知見が知られています。

用法
1回120mg 1日2回から投与を開始し、1 週間後に1回240mg 1日2回に増量。朝・夕食後に経口投与
注意:主な副作用である潮紅、消化器系副作用等が認められた場合には、状態を慎重に観察しながら1ヵ月程度の期間 1回120mg 1日2回投与に減量することができる。

甲状腺眼症 診断、治療

はじめに
甲状腺眼症とはTSH受容体や外眼筋に対する自己免疫機序によって生じると考えられている眼窩内(炎症性)疾患です。橋本病よりもBasedow病を基礎疾患とすることが圧倒的に多いと思われます。
眼窩内脂肪織に炎症を起こし、眼窩内の脂肪や筋肉中の線維芽細胞を活性化し脂肪織、外眼筋の腫大、グリコサミノグリカンの産生を起こします。
後眼窩組織の容積が増大することで眼球が突出したり、外眼筋の腫大によって外眼筋の円滑な動作が困難となり複視を生じます。これらの炎症が眼窩周囲にも波及して角膜炎、結膜炎をおこしたり視神経、網膜にも波及すれば、眼窩内組織の腫大による圧迫などにより視力低下、失明を起こすこともあります。
最も鑑別が難しい疾患として、外眼筋炎やIgG4関連眼窩内疾患などがあります。IgG4関連眼窩内疾患は涙腺の腫大が目立つことが特徴です。外眼筋炎と甲状腺眼症に関しては、臨床的には、以下のような腫大する外眼筋の部位の違いがあるようです。

    外眼筋炎:LR>SR>MR>IR
    甲状腺眼症:IR>LR
    (LR;外転筋 SR;上転筋 MR;内転筋 IR;下直筋

症状

    眼球突出
    眼の奥の痛み、違和感
    上方視、側方視時の痛みや違和感
    複視
    視力障害
    眼瞼の発赤、腫脹
    結膜の充血、浮腫
    涙丘の発赤

ocular
眼窩脂肪抑制T2強調画像:左眼窩内の外眼筋の肥厚を認めますが、特に下直筋(IR)、内直筋、上直筋に強く認めます。また、眼窩内のintensityも左で全体的に更新していると思われます。

治療
軽症例は経過観察することもありますが、外眼筋や眼窩内の炎症がある場合には、ステロイドパルス療法。ステロイドパルス療法が奏功しない場合は免疫抑制剤や減圧術が行われています[甲状腺疾患診療パーフェクトガイド改訂第3版]。IVIgも効果はあるようです。

CLIPPERS update

CLIPPERS: chronic lymphocytic inflammation with pontine perivascular enhancement responsive to steroids. Review of an increasingly recognized entity within the spectrum of inflammatory central nervous system disorders. Clin Exp Immunol. 2014;175:385-96
CLIPPERSの病態、治療に関する総説

CLIPPERS 治療

CLIPPERS (chronic lymphocytic inflammation with pontine perivascular enhancement responsive to steroid)

1. ステロイドパルス療法+ステロイド後療法
初回治療にはステロイドパルスが低用量内服より優れています。また、既報告ではほぼ全例でステロイド後療法を追加しています。

その他

     エンドキサン
     アザチオプリン
     メトトレキセート
     ミトキサントロン
     リツキサン
     など

予後
ステロイドの漸減中に再発/再燃する例が多く、ステロイド依存症例が多いようです
また,コントロール良好に経過しても,長期的には小脳や小脳脚の萎縮を認める例や、大脳皮質の萎縮を認める例も報告されています

CLIPPERS 診断

CLIPPERS (chronic lymphocytic inflammation with pontine perivascular enhancement responsive to steroid)

概念
脳MRI造影画像が非常に特徴的です。
2010年に、Pittockらが提唱した「脳幹の小血管周辺の炎症」を病変の主座とする炎症性中枢神経疾患です。CD4有意の炎症細胞が見られますし、制御性T細胞(Treg)も頻度高く検出されるようです。

疫学
発症年齢は16歳から86歳と幅広く、平均45歳程度で性差はあまりありません

症状
亜急性進行性に以下のような脳幹症状が出現します

     複視
     失調
     構音障害
     片麻痺,感覚障害,嘔気や浮動感など

検査
血液検査:特異的所見はありませんが、他疾患の鑑別に重要
髄液検査:軽度の細胞数、蛋白上昇、OCB陽性は半数以下、CD4/CD8比の上昇
電気生理検査:VEP、ABR、SEPなど
脳MRI:以下のような特徴があります

     橋,小脳脚,小脳などの脳幹に点状結節状の「造影増強病変」が両側に広がる
     個々の病変は小さいが癒合することもある.Mass effectは伴わない
     病変は脊髄や基底核や小脳白質にも出現しうるが,脳幹から離れるほど密度が薄くなる
     DWI高信号や,著明なT2WI高信号や,血管造影での異常を認めない
     髄膜の造影増強効果はない

clippers

鑑別
特に脳幹病変の頻度が高い神経ベーチェットは重要な鑑別診断だと思われます

     感染性疾患
     多発性硬化症:似た疾患概念かも知れませんが、、、
     血管炎(ベーチェット病、膠原病など)
     リンパ腫様肉芽腫症LYG(lymphomatoid granulomatosis)
     悪性リンパ腫:当初CLIPPERSと考えられていたものの過中に悪性リンパ腫と診断された報告もあります[ref]

病理学的所見
多発性硬化症と同様に血管周囲のリンパ球浸潤が見られますが、脱髄が目立たず、CD4陽性細胞が優位な点が特に異なると思われます。以下のような特徴が知られています

     生検組織で脳幹の小動脈・静脈周囲を中心にリンパ球浸潤を認め,間質組織まで進展することもある.
     浸潤細胞はCD4+ T cellの割合が多く,ミクログリアの浸潤もある.
     軸索障害が主で、脱髄は少ない.
     明らかな血管炎の所見はない

IgG4関連疾患 治療

おもには、ステロイド治療が用いられ治療反応性も見られます。難治例には、他の免疫疾患と同様に免疫抑制剤、リツキサンなどの分子標的薬、腫大臓器の摘出などを行います。

1. 経口ステロイド
プレドニン(0.6mg/kg)/日を2~4週、その後5mg/日 2~3ヶ月

IgG4関連疾患 診断

はじめに
IgG4関連疾患IgG4-related disease)は、血清IgG4高値と罹患臓器への著明なIgG4陽性形質細胞浸潤を特徴とする全身性、慢性炎症性疾患です。組織学的には、periaqueductal inflammationと管構造の周辺の炎症が目立つようです。
血清IgG4は稀に上昇を認めないことがあり、病理学的にCD138陽性の形質細胞の増加と、IgG陽性形質細胞の中に占める、IgG4陽性形質細胞の増加を証明するべきと考えられます。
神経系では、眼窩内炎症による涙腺/外眼筋肥厚、肥厚性硬膜炎、末梢神経障害などで関わることが多いと考えられます。
症状

    リンパ節腫脹:最も出現頻度が高く8割で見られます
    涙腺炎:涙腺の腫大など
    慢性硬化性唾液腺炎
    自己免疫性膵炎
    硬化性胆管炎
    肺病変
    甲状腺病変による低下症:22%
    尿細管間質性腎炎
    後腹膜線維症:13%
    炎症性動脈瘤
    前立腺炎

神経系

    肥厚性硬膜炎
    下垂体炎
    外眼筋肥厚
    炎症性偽腫瘍
    末梢神経障害

検査

    血液検査:多クローン性高γグロブリン血症、IgG4測定、鑑別としてsIL-2R、SS-A/B、Castleman病と鑑別のためIL-6測定
    シルマーテスト:涙腺分泌機能低下の有無(肥厚していても必ずしも障害されるわけではない)
    ガムテスト:唾液腺分泌機能低下の有無
    生検:リンパ節や唾液腺などまずはアプローチしやすい場所で
    全身CT:IgG4関連疾患で変化が出る候補となる臓器の肥厚/腫題の有無
    MRI:神経系の場合は、造影脳MRI、造影眼窩MRIなど

病態
1. IgG4について
IgG4は健常人ではIgGの5%以下で、IgG1-IgG3と比べると最も少ないのですが、IgG4のFc領域は、補体(C1q)やFcγ受容体への結合が弱いため、免疫活性化における役割は少ないと考えられていいます。そのため、IgG4関連疾患にて産生されるIgG4の病原性に関してはまだ解明されていません。
その他の特徴として、IgG4は形質細胞より分泌された後、他のIgGと異なり、F(ab)領域が他のF(ab)と交換され、1分子で異なった2つの抗原を認識(bispecific Ab)できるようになりますので、このような特徴が自己免疫的な反応に関連している可能性もあります。
2. 免疫反応について
IgG4産生は抗原刺激下で、Th2サイトカイン(IL-4, IL-13など)によって産生誘導されますが、実際に組織学的にもTh2優位な免疫反応が見られ、制御性細胞が多く誘導されているなどの特徴があります。つまり、Th2優位な免疫反応において、さらにregT(IL-10を産生する)が活性化された状況のときにIgG4が産生誘導されると考えられています。一方で、Th2サイトカインはIgEや好酸球浸潤も誘導、TregはTGF-βも産生し線維化を促進しますので、この「線維化」促進が肥厚性硬膜炎の形成に関わっているのかもしれません。

Balo病 治療

非常に発症頻度が少ない疾患ですので、治療法に関して明らかな効果の検討は行われていませんが、多発性硬化症に準じた治療を行うことが多いようです。
予後不良で死亡例も多く報告されていますが、早期治療により最近は死亡率は低下していると考えられますが、後遺症が強く残ることはしばしばあります。

    1. ステロイド:急性期のステロイドパルス療法後、内服療法
    2. 免疫グロブリン大量静注療法:ステロイドで再発した例で有効との報告例あり
    3. 単純血漿交換:ステロイドで再発した症例で有効との報告あり
    4. アザチオプリン
    経静脈的にステロイドと免疫グロブリン投与し、無効だった症例でアザチオプリンとステロイドパルス療法で一時的な効果を認めた報告あり
    5. ミトキサントロン
    症例報告でステロイド抵抗性もしくは再発の2例で有効との報告あり
    6. インターフェロンβ
    文献1例でのみ報告があり、投与後2年間で1回の再発を認めている
    7. 抗酸化ストレス療法
    報告はありません

Balo病 診断

はじめに
1927年、ハンガリーの病理学者Balo Jozesfにより初めて報告されました。同心円状の非常に特徴的な病変をもつ、(炎症性)脱髄性疾患です。多発性硬化症と異なって、多くは単相性の経過を取りますが、再発・寛解の経過を呈するものも報告されています。つまり、多発性硬化症やADEM(急性散在性脳脊髄炎)との異動が問題となります。
約70%がアジアで報告されていますので、発症地域に偏りが強いようです

症状
しばしば発熱、頭痛、倦怠感などの前駆症状が見られることがあります。症状は病変により様々です。

    頭痛、意識障害、無言無道:皮質症状を認めることもあります
    片麻痺、錐体路症状
    感覚障害
    など

検査
血液検査:HHV-6感染との関連も疑われているので、念のためHHV-6抗体など
髄液検査:髄液細胞数増多、蛋白増加、OCBの出現、抗AQP4抗体は多くの例で陰性
MRI:病変は一つのこともあれば、複数のこともあります。稀に脊髄病変の報告もあります。同心円状の病変が見られますが、発症初期は同心円がはっきりしないこともあります。一部のlayerでは造影増強効果やADC低下を認めます
MRS:Lactate peakの上昇が見られます
FDG-PET:病変部位を中心に、その周辺まで比較的広範囲にFDG集積低下病変を認めます


脳MRI(T2強調画像):左頭頂葉に1つの同心円状病変を認めます。脱髄変化の強いT2高信号が強いlayerと、髄鞘が比較的保たれているか考えられるT2高信号が淡いlayerが交互に並んでいます。DWIや造影MRIを施行すると、このlayerは3種類に分類出来ると個人的には考えています。
病態
病理学的には脱髄が目立つlayerと髄鞘が保たれたlayerが同心円状に見られます。本疾患では、MRSで乳酸ピークが目立つことから、虚血やミトコンドリア機能異常がその病態として疑われています。また、FDGの低下を認めることからenergy failureが存在する可能性もあります。
なぜ、同心円状になるのかはよく分かっていませんが、ischemic preconditioning説は同心円病変の説明には都合が良く、報告があります[ref]