Patent Foramen Ovale Closure or Antiplatelet Therapy for Cryptogenic Stroke. N Engl J Med. 2017 Sep 14;377(11):1033-1042.
中等度以上のシャントを有するPFOを有する潜因性脳梗塞では抗血小板薬単独よりもPFO閉鎖術を加えたほうが脳卒中再発率が低かったが、心房細動の発症は多かった
脳血管障害
脳灌流画像 診断
はじめに
脳の灌流状態の評価は、脳血管障害(CAS, CEA, バイパスなど)だけでなく代謝性疾患、変性疾患など様々な病態で重要と考えられますが、「脳血流が、、、」という曖昧なセリフを吐く神経内科医が多くいますし、そもそもCBFとCBVの日本語が同一であることも問題かも知れません。
まず、脳灌流関連パラメーターは代表的なものでは以下のものが知られています。
- Cerebral perfusion pressure (CPP:脳灌流圧):脳は自動調節能があるため、ある程度のCPPの低下があってもCBFは保たれます
Cerebral Blood Flow (CBF:脳血流量): 脳組織の毛細血管の血流で、脳組織単位重量(100g)あたりの毎分流量としてmL/100g/分という単位を使うことが多いと思います
Cerebral Blood Volume (CBV:脳血流量): 脳組織の毛細血管、細小静脈の体積で、脳組織単位重量(100g)あたりの血管容積として、mL/100gという単位を使うことが多いと思います
Mean Transit Time (MTT): 脳毛細血管に血液が留まる時間で、単位は秒、CBV/CBFで求められます。この値の上昇は脳循環予備能の低下時にみられます。
Oxygen extraction fraction(OEF:酸素摂取率)
Cerebral metabolic rate for oxygen(CMRO2:脳酸素消費量):脳血流 x 脳酸素摂取率 x 動脈血酸素含量 で求められます
これらのパラメーターは脳虚血では、虚血の軽い状態(右)から脳梗塞(左)の状態に向けて、以下のように変化します。
検査
- 脳CT:Perfusion CT、Xenon CTは比較的定量性に優れています
脳MRI:ASL(造影剤不要)はCBFしかわかりませんが、perfusion-weighted MRI(PWI:造影剤が必要)であればCBF, CBV, MTTが測定可能です。MRIは利便性は高いのですが定量性は優れません
脳SPECT:CBFの測定と、SPECT特有の検査としてダイアモックスSPECTによる脳血流予備能の評価が可能です。動脈採血も加えると、comparableな値を得ることが出来ます
脳PET:最も定量性に優れます。CBFに加えて、OEF, CMRO2の測定が可能ですが、測定可能施設が限られています
血管造影検査:CBF(に近似した)が測定できます
高リポプロテイン(a)血症 [Lp(a)] update
Emerging Therapeutic Options for Lowering of Lipoprotein(a): Implications for Prevention of Cardiovascular Disease. Curr Atheroscler Rep. 2016;18:69.
高Lp(a)血症に対する治療戦略[総説]
高リポプロテイン(a)血症 [Lp(a)] 治療
はじめに
強力なLDL低下作用を有するスタチン系薬剤やフィブラート系薬剤では、Lp(a)の低下はほとんど期待できず、上昇してしまうこともあるようです。現在は、ニコチン酸摂取でLp(a)を低下させたとの報告があることから第一選択薬とされています。しかしながら、有効性の証明はしっかりとされていません。
近年使用可能となったPCSK9阻害薬は、Lp(a)の低下が見られたとの報告があります[ref]
ニコチン酸系薬(beyond plasma lipid modification)が基本
ペリシット(ニセリトロール) 250mg×3、 1日3回食直後
ユベラN/ユベラニコチネート(ニコチン酸トコフェロール) 100-200mg×3、1日3回
コレキサミン(ニコモール) 200-400mg×3、1日3回食後
抗血栓療法
脳梗塞発症後は、やはり抗血小板薬の処方が望まれます
食餌療法
パーム油などの摂取がLp(a)を軽度ながら低下させることが知られています
その他
血漿交換療法、CETP阻害薬、ApoBに対する核酸医薬(ASO)
高リポプロテイン(a)血症 [Lp(a)] 診断
構造と動態
リポ蛋白(a)[Lp(a)]は、動脈硬化の独立した危険因子であることから神経内科領域では脳梗塞の原因がはっきりしない場合に測定することがあります。
リポ蛋白(a)の構造は、LDLを中心としてその周辺のApo B100にApo(a)と呼ばれる糖蛋白がSS結合してできた脂質高分子複合体です。
分子の大きさはLDLとVLDLの中間で、半減期は約3.3日のようです。リポ蛋白(a)は、LDLと同様にコレステロールを多く含むリポ蛋白ですので、動脈壁へのコレステロールの沈着に直接関与しています。しかしながら、妊娠、閉経、手術、外傷などにより増加するものの、運動や食事の影響は受けないという特徴があります(血中濃度は遺伝的に決定され、環境因子による影響は少ない)。つまり、家族歴の聴取も重要です。
LDL値との相関はないことが多く、LDL値正常であってもLp(a)が高値であることもありますので個別の測定が必要です。
作用機序
線溶作用:Lp(a)のplasminogen受容体拮抗作用によって線溶抑制状態となります
動脈硬化促進作用:TGF-βの活性抑制による中膜平滑筋細胞の増殖促進作用や、酸化リン脂質に対するスカベンジャー作用がストレス増大時に過負荷状態となり、血管壁マトリックスに蓄積する
合併疾患
血中Lp(a)濃度が25-40 mg/dlを超えると動脈硬化、血栓症、慢性腎不全、虚血性心疾患、虚血性脳血管障害の合併が増加します。また、抗線溶作用もあることから、肺塞栓(PE)、深部静脈血栓症(DVT)の危険因子としても知られています。
脳梗塞との関連
Lp(a) >30mg/dlで脳梗塞が2.23倍となる報告があります。主にはアテローム血栓性脳梗塞や若年性脳梗塞と関連して報告されていますが、脳小血管の虚血病巣を見ることもあります(その場合も微小脳出血は少ない印象があります)。
レジデントのためのNIHSS score calculator
リストの順にラジオボタンにチェックを入れて、合計ボタンを押して下さい。決して逆に行ったり評点を変更してはなりません。
分枝粥腫型梗塞 (Branch atheromatous disease: BAD) 診断
はじめに
分枝粥腫型梗塞は、Branch atheromatous disease (branch occlusive disease)という英語病名を割り当てて、略してBAD、BODなどと呼ばれています。参考サイト>こちら
1本の穿通枝の梗塞であるラクナ梗塞と区別が難しい面もありますが、lipohyalinosisなど高血圧症性の小血管病変による梗塞(ラクナ梗塞)とは異なって、比較的大径の穿通枝が母動脈から分岐する近傍でアテローム性病変により狭窄あるいは閉塞して、比較的広い範囲の穿通枝梗塞(ラクナ梗塞のサイズを超える >2.0cm on MRI)をきたすもので、主にはレンズ核線条体動脈(lenticulostriate artery; LSA)や傍正中橋動脈(Pontine paramedian artery; PPA)領域で見られます。

診断
現段階では、穿通枝の分岐部の粥腫を検出する画像がないため本当に病理学的に検討されたようなBADなのかどうか確認する手段がありません。したがって、明確な診断基準がなく、現段階では以下のような基準を満たすものに、BADが多く含まれるのではないかと考えられています。しかし、この基準はTOAST分類では原因不明(その他の不確定な原因: Undetermined)、あるいは最近の概念ではESUSに含まれてしまう病型です。特にESUSは塞栓性の病態を念頭に置いているにもかかわらず、BADが含まれてしまうのは大問題です。
- 病変長径 >2.0cm
- MRA:50%以上の狭窄病変なし
- 心原性の高リスク疾患なし
- 凝固異常などなし
しかし、将来的にはMRI技術の発達により、下図(high resolution MRI)のようにDWIで病変が2cm以上の穿通枝梗塞例において、脳底動脈でも中大脳動脈でも、eccentricな分枝部の粥腫が積極的に証明できるようになると思われます。もう少しの辛抱です。

Long Insular artery infarction
M1から分枝したレンズ核線条体動脈(lenticulostriate artery; LSA)のBADでは上記のような放線冠部位に縦長の脳梗塞を生じます。一方で、似てはいるのですがもう少し背側寄りに側脳室からやや横長に梗塞病変が見られる例が存在します。それらは、以下のようにレンズ核線条体動脈ではなく、M2からの分枝のLong Insular artery還流領域と考えられていて、その原因として塞栓性の病態が見るかることが多いとされているため、心原性の原因の有無の検索がより重要になります。


線維軟骨塞栓症(FCE, Fibrocartilaginous Embolism)診断
はじめに
椎間板の特にnucleus pulposus(髄核)を構成する成分(線維軟骨)が塞栓源となり、多くは脊髄梗塞、稀に椎骨嚢底動脈系の脳梗塞をきたす疾患です。人間より、犬など小動物の報告が多いのも特徴です。髄核が発達しているのでしょうか?同様に、髄核が発達している若者も比較的危険性は高いと想定されています。
線維軟骨が塞栓を引き起こすメカニズムは幾つかの仮説が提唱されています[ref]。
- 1. latterally ruptured disk(椎間板が横方向に突出)がradicular arteryに到達する:この説は組織学的にはあまり支持する所見が得られていないようです
2. 本来無血管のはずのdiskが変性とともに血管新生が生じることでリスクが上昇する
3. 髄核の椎体への突出(Schmorl結節)が椎体内の類洞へ→髄腔への静脈叢→脊髄循環へとretrogradeに進む
4. 髄核が類洞から直接vertebral arteryに到達しretrogradeに進む:下図論文はこの説を支持している。できればretrogradeに進むためには、Valsalva maneuverが必要か?
Refより抜粋
危険因子
労作時に腰痛を自覚して、急激に対麻痺を発症するなどが特徴的な病歴になります。
- 背部痛
Osteoporosis
椎間板変性
椎体骨折
腰椎症の手術
交通事故
ステロイド長期投与
落下事故
重いものを持ち上げようとして力む
過剰な運動
Valsalva maneuverをきたすほどの強い咳
など
診断
病理学的な診断は困難ですので、画像診断や臨床的な状況証拠(上記危険因子など)が重要です。画像的には、DWIが亢進するような脊髄梗塞病変に影響を与えることが可能な血管支配領域に、椎間板の変性やSchmorl’s nodes、時にAVFなどがあることが診断の根拠になります。
画像や病理の特徴は手始めに、AJNR 2005 26: 496-501を参照ください:頸髄病変の記載が乏しいですが
脳空気塞栓症(cerebral air embolism) 診断
はじめに
最近では、中心静脈カテーテルの損傷、座位で引き抜くなどでの報告が多いかと思います。動脈に侵入した空気が脳梗塞のように脳動脈を多発性に閉塞する場合(動脈系)、静脈に空気が入り、侵入した空気が逆行性に脳静脈に侵入してうっ血を起こす場合(静脈系)、があるかと思います。
稀な疾患ですが、時に重篤な症状をきたしますし、この疾患の特徴を知らないと見逃されることもあることから、病態の理解は重要です。
原因
- 手術:脳外科/耳鼻科/整形外科/心臓血管外科/婦人科など
静脈へのカテーテル挿入
胸腔ドレーン:IPなどの変化が強い場合
放射線手技:造影剤注入や関節造影など
外傷
陽圧換気
減圧症
症状
閉塞血管により様々ですが、意識障害、巣症状、痙攣発作など
検査
- 脳CT:小さな気泡は瞬時に吸収されます。発症後速やかに施行し、点状に真っ黒に抜ける空気塞栓サインを見逃さないことが重要です。一つでも発見することが確定診断につながります。
脳MRI:急性期は脳梗塞と異なり、しばしば痙攣発作による画像所見と類似したDWI皮質高信号を認めます。亜急性期は、白質FLAIR高信号、皮質T1WI高信号(laminar necrosis?)、Hyperperfusionなどの報告があります
急性期脳空気塞栓症の画像所見[ref]。上段脳CT:点状の黒く抜ける異常陰影が皮質に沿って見られます。軟膜動脈でしょうか?このような点状のサインは脳実質内(白質など)に出現することも多いです。見逃さないように!!!
下段脳MRI(DWI):急性期は皮質優位にDWI高信号が見られることが多いです。
病態
空気が血管を閉塞させるのですから、脳梗塞と同様の病態が引き起こされるはずです。しかしながら、画像所見は全くことなります。皮質の画像所見は、蘇生後脳症や痙攣発作に類似します。
単なる血管閉塞による低酸素/低グルコースによる病態のみならず、gas bubbleと血管内皮細胞のinteraction(凝固系や補体・キニンを含む様々な血漿蛋白が活性化、凝固活性の亢進、多核球の活性化と接着)などが併発する病態であろうと類推されています。
治療
高圧酸素療法(Hyperbaric oxygen: HBO)
特に動脈系の塞栓をきたした重症例で考慮されます。発症数時間以内に導入が望まれます。一方で、HBOには無治療の気胸など禁忌が存在しますので、施行前に確認下さい。
HBO禁忌
- 気胸(未治療)
眼科治療・術後(網膜はく離などで眼内ガスC3F8、SF6を使用した場合)
未熟児(満期新生児は治療可能)
妊娠(緊急の場合は治療)
注意すべき薬剤
- 塩酸ドキソルビジン(アドリアマイシンなど):抗癌剤
シス-ジアミンジクロロ白金(シスプラチンなど):抗癌剤
二酸化テトラエチルチウラム(ジスルフィラムなど):禁酒剤
相対的禁忌:禁忌ではないですが、risk-benefitを換算してください
- ブレブ、ブラ
COPD
上気道/副鼻腔感染
最近の耳や胸部の手術
制御できていない発熱
ESUS or Cryptogenic stroke update
Nonstenotic carotid plaque on CT angiography in patients with cryptogenic stroke. Neurology. 2016 Aug 16;87(7):665-72.
潜因性脳梗塞に対してCTAで頸動脈を評価した所、病変部の同側は反対側と比較して有意に多くのプラークが検出された
Embolic strokes of undetermined source: the case for a new clinical construct. Lancet Neurol. 2014 Apr;13(4):429-38.
ESUSの定義やetiologyに関するランドマーク的総説