脳血管障害

直接トロンビン阻害薬(プラザキサ) 治療

参照>Xa阻害薬

特性
凝固カスケードのIIaを阻害します。
非弁膜症性心房細動患者の脳卒中及び全身塞栓症の発症抑制において、ワーファリンと同等の効果が認められ、特に低容量投与では、出血の副作用も少ないことが証明されています。
VitKを介さず直接トロンビンを阻害するため、納豆の摂取も可能です。

注意点

    機械弁置換患者に対するダビガトラン投与はほぼ禁忌ですので、ワルファリンを使用して下さい
    高齢者や腎機能障害症例では消化管出血をはじめとした重篤な出血が報告されていますので、投与前に必ずCcrを測定し、さらにあまりに高齢者は投与禁忌と考えてもよいと思われます。
    さらに、ワーファリンと異なり効果発現は非常に早いため、脳塞栓症の再発予防時にワルファリンのように見切り発車で投与を開始すると、頭蓋内出血が起こりやすいと考えられます。ワーファリンよりも投与タイミングを遅らせてください。

プラザキサ投与法

    1. 通常容量
    300mg/日内服(朝75mgカプセル 2錠、夕75mgカプセル 2錠)
    2. 低容量を考慮した場合
    220mg/日(朝110mgカプセル 1錠、夕110mgカプセル 1錠)
    以下の場合に低容量を考慮する
     I. ダビガトランの血中濃度が上昇するおそれがある患者
     中等度の腎障害(クレアチニンクリアランス 30-50mL/min)のある患者
     P糖蛋白阻害剤(経口剤)を併用している患者
     II. 出血の危険性が高いと判断される患者
     70歳以上の患者
     消化管出血の既往を有する患者等

薬剤の変更

    1. プラザキサからヘパリンへの切り替え
    プラザキサ最終投与から12時間後にヘパリン投与を開始する
    2. ヘパリン持続静注からプラザキサへの切り替え
    持続静注中止と同時にプラザキサ投与開始
    3. ワーファリンからプラザキサへの切り替え
    INR<2.0: 当日にそのままプラザキサ投与開始 INR>2.0: INR<2.0未満を確認後にプラザキサ投与開始

侵襲的手技時におけるプラザキサ投与中止期間


プラザキサ投与中の出血における対処法と注意点
2016年にプラザキサ中和抗体が発売されました。>プリズバインド静注液2.5g
発売以前は、以下のような対処法が推奨されていました。
出血性合併症に関しては、以下の点に留意してください。

    1. 出血性合併症時には、一般の救急処置を実施してください
    2. 出血性合併症の重症度に応じてプラザキサを一時的に中止し、出血の原因を確認し、止血してください
    3. 緊急の止血を要する場合は、第II因子によって止血機能を改善させるという観点から新鮮凍結血漿注、第IX因子複合体注の投与、止血機能全般を改善させる観点から遺伝子組み換え第VII因子製剤注の投与による是正を考慮してください
    4. プラザキサは透析で除去されるため、透析を行うことも考慮してください
    5. 内服後2時間以内の場合は胃洗浄や活性炭への吸着注も考慮してください
    6. プラザキサは大部分が腎臓から排泄されるため、適切な輸液等で循環血液量や血圧を確保し、適切な利尿処置を行ってください

アルテプラーゼによる血栓溶解療法 (脳梗塞)

脳卒中治療ガイドライン 2015:書籍
AHAによる脳梗塞急性期の治療ガイドライン(2013年版)
日本語版NIHSS、modified Rankin Scale、Barthel Index>こちら
日本脳卒中学会:rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針
アクチバシン添付文書グルドパ添付文書

1.来院まで
4.5時間以内の治療が現実的か:脳梗塞を疑った場合、発症時刻(発見時刻でなく)が正確に判断できるか救急隊からの連絡の時点で確認、可能性がありそうであれば放射線技師にも連絡
2.病歴、診察
患者が来院したらvital signの確認、モニター装着、救急隊、家族からの病歴聴取、採血、静脈路確保、NIHSS、胸部Xp(縦隔の拡大所見チェック)、心電図、頭部CTあるいはMRIの順に行う。最初の収縮期血圧が185mmHg以上あるいは拡張期血圧が110mmHg以上の場合はMRI前にペルジピン2mg ivを考慮してもよい(5分で効果が発現し4時間持続する)。
特に、急性大動脈解離の有無に関しては、胸部X線以外に、四肢の脈拍触知、病歴(直前の胸痛や背部痛)、身体所見(血圧低下、末梢動脈拍動の減弱や左右差、大動脈弁逆流性雑音)などにより疑う姿勢が必要で、疑いがあれば胸部造影CT、頚部、心臓エコーを考慮します

    脳梗塞以外の疾患の可能性はないか?
    NIHSSを使用した神経学的評価(自動計算NIHSS日本語版
    出血に関連する事項の評価

3.画像診断、適応の判定
CTあるいはMRI:出血の除外と、Early CT signの有無(有なら慎重投与)。MRI DWIで大梗塞(MCA領域の50%以上が目安)でないことを確認。

4.投与へ
インフォームド・コンセント:インフォームド・コンセント用紙
投与直前:投与前に尿意がある場合には尿器での排尿を促す。収縮期血圧 185以上あるいは拡張期血圧 110以上の場合はペルジピン2ml ivし、それぞれ185かつ110未満となるのを待つ。これでコントロールがつかなければtPAの投与は断念する。投与直前にNIHSSも確認し、4点以上の改善があれば投与は見送る。

    投与:アルテプラーゼ 0.6mg(34.8万国際単位)/kg (最大60mg 3480万国際単位)+生理的食塩水
    メインラインは生食500mlを50ml/h程度でキープ。まず10%急速静注し、一時的に生食を全開にして後押しする。残りの90%を1時間かけてシリンジポンプで静注。
    膀胱カテーテル、経鼻胃管、Aラインなどは投与終了30分後までは留置しない

5.投与後の管理

    ICU、SCUへ
    神経症状:NIHSSを1時間以内は15分毎、1〜7時間は30分毎、7〜24時間は1時間毎にチェック。
    血圧:血圧は2時間以内は15分毎、2〜8時間は30分毎、8〜24時間は1時間毎にチェック。収縮期血圧 180以上あるいは拡張期血圧 105以上の場合はペルジピン2ml ivし2ml/h(最大20ml/h)。
    脳内出血:頭痛、悪心、嘔吐、急激な血圧上昇、神経所見の悪化があればtPA投与を中止し、CTで出血の有無をチェックする。出血があれば血圧を140/90以下に下げ、脳神経外科にコンサルトする。

6.超急性期以降

    脳CT(投与24時間後):出血がないことを確認し、アスピリンや抗凝固療法薬を投与する。
    出血性梗塞のriskが高いと判断される場合には発症1週後のCTで出血がなければヘパリンや抗凝固療法薬による再発予防を検討する。

アルテプラーゼ治療に必要なPDFファイル集
NIHSS日本語版
アルテプラーゼ適応チェックリスト
インフォームド・コンセント用紙
アルテプラーゼ投与後管理用紙

脳梗塞 update 2

バックナンバー:

Thrombectomy 6 to 24 Hours after Stroke with a Mismatch between Deficit and Infarct. N Engl J Med. 2017 Nov 11.
急性内頚動脈閉塞あるいは中大脳動脈近位部閉塞による脳梗塞症例において臨床症状と梗塞体積にミスマッチを認める例では、発症6-24時間後であっても血管内治療による有益性が認められた

Clinical Imaging Factors Associated With Infarct Progression in Patients With Ischemic Stroke During Transfer for Mechanical Thrombectomy. JAMA Neurol. 2017 Sep 25
血管内血栓除去術を施行した脳梗塞症例の解析において、側副血行路不良と重症脳卒中が、脳卒中センターに移送時の脳梗塞領域の拡大に関連した因子であった

Time elapsed after ischemic stroke and risk of adverse cardiovascular events and mortality following elective noncardiac surgery. JAMA. 2014;312:269-77.
脳卒中の既往がある場合、心臓手術以外の予定手術での有害心血管イベントや死亡率は脳卒中発症から手術までの期間が短いと高くなり、発症後9ヶ月を越えるとリスクの増加は強くはなくなるが既往のない集団と比較すると有意に高い

Guidelines for the Prevention of Stroke in Patients With Stroke and Transient Ischemic Attack: A Guideline for Healthcare Professionals From the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke. 2014 May 1.
脳梗塞、一過性脳虚血発作の二次予防に関するガイドライン 2014年度版

Effects of Immediate Blood Pressure Reduction on Death and Major Disability in Patients With Acute Ischemic Stroke: The CATIS Randomized Clinical Trial. JAMA. 2013 Nov 17.
急性期脳梗塞において、発症24時間以内に140/90mmHgを目標に降圧治療を行った群は、対象群と比較して14日目の死亡あるいはmRS 3点以上の重度な障害に有意な差はなかった

The THRombolysis and STatins (THRaST) study. Neurology. 2013;80:655-661.
脳梗塞に対するrt-PA静注治療において、スタチンを早期から併用することで短期及び長期の神経学的予後が改善するかもしれない

A trial of imaging selection and endovascular treatment for ischemic stroke. N Engl J Med. 2013;368:914-23.
発症8時間以内の急性期脳梗塞に対して、CTやMRIでの救済可能領域の大きさによる予後の差や、血管内治療による予後改善効果は得られなかった

Endovascular treatment for acute ischemic stroke. N Engl J Med. 2013;368:904-13.
発症4.5時間以内の急性期脳梗塞に対して、rt-PA静注単独療法群と血管内治療群では機能的自立に有意な差はない

Endovascular therapy after intravenous t-PA versus t-PA alone for stroke. N Engl J Med. 2013;368:893-903.
発症3時間以内の急性期脳梗塞に対して、rt-PA静注単独療法群とrt-PA静注+血管内治療群では安全性は同等であるが機能的自立に有意な改善は見られない

Posterior Cerebral Artery Laterality on Magnetic Resonance Angiography Predicts Long-Term Functional Outcome in Middle Cerebral Artery Occlusion. Stroke. 2012 Nov 27.
中大脳動脈閉塞による脳梗塞に対するrt-PAによる再灌流療法時に、MRAで閉塞側のPCA延長を認める群は長期予後が良い

Inpatient statin use predicts improved ischemic stroke discharge disposition. Neurology. 2012;78:1678-83.
脳梗塞による入院前または入院中にstatinを服用していた患者では、自宅退院(補正オッズ比[adjusted odds ratio:AOR]1.38)、または自宅退院もしくはリハビリ施設への退院の確率が高かった(AOR 2.08)

Evolving role of biomarkers in acute cerebrovascular disease. Ann Neurol.2012;71:289.
急性期脳梗塞におけるバイオマーカについてのレヴュー

Trans fat, aspirin, and ischemic stroke in postmenopausal women.Ann Neurol. 2012 Mar 1
閉経後の女性ではトランス脂肪摂取が虚血性脳卒中の危険と相関しているが,アスピリン内服により軽減される.

Predicting outcome of IV thrombolysis-treated ischemic stroke patients: The DRAGON score. Neurology. 2012;78:427-32.
DRAGON(CT所見、発症前mRS、年齢、血糖、投与までの時間、NIHSSS)スコアにより発症4.5時間以内の脳梗塞に対するi.v. rt-PA療法の機能予後の判定が可能である

Predictors of tissue-type plasminogen activator nonresponders according to location of vessel occlusion. Stroke. 2012;43:417-21.
閉塞血管が確認できた症例でのi.v. rt-PA療法の予後は、MCA近位部閉塞では年齢、ICの高度狭窄、IC分岐部では高血圧、心房細動がないこと、脳底動脈では心房細動がないことがそれぞれ予後不良因子であった

Level of systolic blood pressure within the normal range and risk of recurrent stroke. JAMA. 2011;306:2137-44.
非心原性脳梗塞の発症180日以内での検討では、SBP 130-139mmHgの集団が最も血管イベントが低く、Jカーブ現象が認められた

Level of systolic blood pressure within the normal range and risk of recurrent stroke. JAMA. 2011;306:2137-44.
非心原性虚血性脳卒中患者の脳卒中再発リスクは、収縮期血圧値が130-140mmHgで最も低く、低過ぎても(120mmHg未満)、高過ぎても(140mmHg以上)、再発リスクは増大する

Is the maximum dose of 90 mg alteplase sufficient for patients with ischemic stroke weighing >100 kg? Stroke. 2011;42:1615-20.
脳梗塞に対する血栓溶解療法において、体重が100kgを超える場合は1kgあたりの投与量が少なくなるにもかかわらず、症候性脳出血、死亡のオッズ比は体重>100kgの方が高く、現在認可されているアルテプラーゼ最大投与量は妥当と考えられる

Signatures of cardioembolic and large-vessel ischemic stroke. Ann Neurol. 2010;68:681-92.
血液RNAの遺伝子発現の解析により,90%以上の感度と特異度で心原性塞栓と大血管病変による梗塞とを区別できる.

Elevated plasma YKL-40 levels and ischemic stroke in the general population.Ann Neurol. 2010;68:672-80.
血管壁内の脂質を持ったマクロファージから産生されるYKL-40の血漿濃度は,脳梗塞の危険因子である.

Noradrenergic enhancement improves motor network connectivity in stroke patients.Ann Neurol. 2010 Dec 28.
中等度までの手の麻痺のある脳梗塞患者にSNRIを投与すると,脳梗塞による同側の腹側運動前野と補足運動野の連絡性低下が改善し,筋力が向上した.

Recurrent ischemic events in young adults after first-ever ischemic stroke.Ann Neurol. 2010;68:661-71.
50歳未満の初発の若年脳梗塞でも5年での再発率は9.4%と高く,1型糖尿病や主要血管動脈硬化などが危険因子である.

Prediction of malignant middle cerebral artery infarction by magnetic resonance imaging within 6 hours of symptom onset: A prospective multicenter observational study.Ann Neurol. 2010;68:435.
減圧手術が必要となるような”悪性”の中大脳動脈領域の梗塞への進展は,発症時のMRIでの82ml以上のDWI高信号や内頚動脈の閉塞などにより予測ができる.

Pretreatment ASPECTS on DWI predicts 3-month outcome following rt-PA: SAMURAI rt-PA Registry. Neurology 2010 75:555-561
脳梗塞に対するrt-PA治療前のASPECTスコアは発症3ヶ月後の神経機能の独立した予測因子であり、7点以上の場合mRS 0-2(完全自立)の割合が高い

Coagulopathy and embolic signal in cancer patients with ischemic stroke.Ann Neurol. 2010;68:213.
急性期脳卒中の癌患者では,経頭蓋ドップラーによる塞栓信号が血清D-dimer高値と相関して認められる.

Cerebral beta-amyloid detected by pittsburgh compound B positron emission topography predisposes to recombinant tissue plasminogen activator-related hemorrhage.Ann Neurol. 2010 Jul 26.
tr-PAによる血栓溶解後の出血は,PiBの集積が見られるアミロイド血管症で多い.

Fluoxetine for motor recovery after acute ischaemic stroke (FLAME): a randomised placebo-controlled trial. Lancet Neurol. 2011 Feb;10(2):123-30.
脳梗塞発症早期からのフルオキセチン (プロザック; SSRI) の内服により、有意な運動機能の改善が得られた

Very Early Neurologic Improvement After Intravenous Thrombolysis. Arch Neurol. 2010;67(11):1323-1328.
脳梗塞へのt-PA投与後1時間以内に、症状が急速に改善する例は18%程度に認められ3ヶ月後の機能予後良好と関連していた

Insulin Resistance and Risk of Ischemic Stroke Among Nondiabetic Individuals From the Northern Manhattan Study. Arch Neurol. 2010;67(10):1195-1200.
非糖尿病集団において、Homeostasis Model Assessment指数でのインスリン抵抗性の存在は脳梗塞発症の2.8倍の増加と関連していた(Northern Manhattan Study)

Cilostazol for prevention of secondary stroke (CSPS 2): an aspirin-controlled, double-blind, randomised non-inferiority trial. Lancet Neurol. 2010 Oct;9(10):959-68.
日本で実施された、企業の資金提供を受けた二重盲検ランダム化試験では平均29ヵ月のフォローアップ 期間中、主要エンドポイント(脳梗塞再発、脳出血、またはクモ膜下出血)の発生及び出血イベントは、シロスタゾール群のほうがアスピリン群よりも少ないが、副作用は、シロスタゾール群で多かった

抗リン脂質抗体症候群(APS) 診断

はじめに
抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome:APS)は、血液中にループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant:LA)や抗カルジオリピン抗体(anticardiolipin antibodies:aCLs) といった抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibodies:aPLs)が検出される疾患で、動静脈血栓症、習慣流産(不育症)や胎児死亡などの様々な臨床症状を生じる自己免疫疾患です。抗リン脂質抗体に関しては、測定可能なもの以外にも沢山の抗体が存在します。
自己抗体が検出されることから、血栓症以外に自己免疫性疾患としての病態が加わります。原発性APSと全身性エリテマトーデス(SLE)に合併する2次性APSに分類しますが、2次性の原因疾患に関してはSLE以外は非常に稀です。

疫学
APSは後天性の血栓性疾患の中では最も頻度が高く静脈(約35%)にも動脈(約65%)にも血栓症を起こしますが、一過性脳虚血発作(transientischemicatack:TIA)や脳梗塞などの脳血管障害が90%以上を占め、虚血性心疾患は少ない特徴があります。神経内科では若年性脳梗塞や脳静脈洞血栓症の原因疾患として、あるいはLivedoやSLEに合併した病態として診療に関わることが多いかとおもいます。

APSに合併しやすい神経症状

    脳血管障害:脳梗塞、TIA、一過性黒内障、脳静脈洞血栓症、Sneddon症候群
    末梢神経障害:livedo vasculopathy
    頭痛・片頭痛
    てんかん
    舞踏病・ジストニア:autoimmune chorea [ref]
    高次脳機能障害、認知症
    行動異常・脳症
    うつ病・神経症
    網膜動静脈血栓症
    その他(APSに関連すると思われる神経症状)
     視神経炎
     多発性硬化症
     横断性脊髄炎
     特発性頭蓋内圧亢進症

検査
APSの検査は、抗凝固療法を開始する前、あるいは中止後に採血を行ってください

    血液:APTT延長、抗カルジオリピン抗体IgG (and IgM)、抗β2-GPI抗体、ループスアンチコアグラント(LAC)[APSは疑われるけれどもこれらの抗体が陰性の場合にはフォスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体の測定をしても良いかもしれません]
    抗リン脂質抗体(anti phospholipid antibody, aPL):抗カルジオリピン抗体、LAC、抗カルジオリピンβ2グリコプロテインI複合体抗体(抗CLβ2GPI抗体)、フォスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(aPS/PT抗体)が代表的です。一方で、LACと抗カルジオリピン抗体は健常者の1〜5%で陽性となる報告もあり注意が必要です。
    抗カルジオリピン抗体(aCL):カルジオリピンとβ2-glycoproteinIとの複合体に結合する抗体(aCL-β2GPI)と、β2-glycoproteinIを必要としない2種の抗体があることが判明しています。ポリクローナルなグロブリン産生が亢進した疾病では後者のことがありますが、APSで血栓形成に関与するのはaCL-β2GPIの方(前者)と考えられています。
    ループスアンチコアグラント(LA):リン脂質依存性の凝固反応を阻害する自己抗体です。ループスアンチコアグラントの半数は、凝固因子の第V因子、第X因子、細胞膜リン脂質とで反応するprothrombin activator complexに働いて活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の延長をひき起こします。

診断基準
血栓症がなく、抗体検出のみの場合はAPSと診断されません。
臨床所見
(1)血栓症:画像検査や病理検査で確認が可能な動脈または静脈血栓症
(血管のサイズや部位は問わない。血管炎や表層性の静脈炎は除外)
(2)妊娠合併症
 妊娠10週以降の胎児奇形のない子宮内胎児死亡
 妊娠高血圧もしくは胎盤機能不全による妊娠34週以前の早産
 3回以上つづけての妊娠10週以前の流産
(ただし、母体の解剖学異常、内分泌異常、父母の染色体異常を除く)
検査基準
(1)国際血栓止血学会ガイドラインに従った測定法による、ループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant, LAC)が12週以上の間隔をおいて2回以上陽性
(2)中等度以上の力価(40GPLまたはMPL以上, あるいは99%タイル以上)のIgGあるいはIgM型抗カルジオリピン抗体が12週以上の間隔をおいて2回以上陽性
(3)中等度以上の力価(99%タイル以上)のIgGあるいはIgM型抗β2GP1抗体が12週以上の間隔をおいて2回以上陽性
 ※少なくとも1つの臨床所見と1つの検査所見が存在するときに抗リン脂質抗体症候群と診断する

病因
これまで抗リン脂質抗体自体が血栓形成の病原性自己抗体と考えられてきましたが、どちらかというと間接的に作用するようです。つまり、抗リン脂質抗体が単球/血小板/血管内皮細胞へ作用して、NF─κBやp38MAPK、MEK─1/ERK経路を活性化、組織因子やサイトカイン、接着分子の放出を促して、外因系凝固反応を惹起することにより、血栓症に至るなどのメカニズムが想定されています。
その他、β2─GPI(β2─glycoproteinI)および抗β2─GPI抗体との複合体も重要な抗原と位置づけられていて、抗リン脂質抗体の誘導においてβ2─GPIによるトロンビン抑制の障害、トロンボキサンの産生亢進が、APSにおける血栓症発症メカニズムとも考えられています。

第6回日本脳卒中学会認定脳卒中専門医試験、ぎりぎり合格体験記 2010年初夏

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2011年に、脳卒中専門医試験の問題集が発売されたようです。要Check it out!
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日本神経学会専門医試験の情報は充実していると思いますが、日本脳卒中専門医試験に関する情報は少ないと思うので、記載しておきます。
1. 受験資格を得る
脳卒中のサマリーを10人分、日本脳卒中学会での発表、脳卒中に関する論文が、試験を受けるにあたり必要です。
脳卒中のサマリーに関しては、神経内科ではあまり脳出血、くも膜下出血などを見ませんが、今回は以下の症例群を提出しました。外科的な治療は少ないのですが、受験票をもらうことが出来ました。

    Trousseou症候群(卵巣癌)
    椎骨動脈解離(Wallenberg症候群)
    脳塞栓症(t-PAなし)
    脳塞栓症(t-PAあり)
    急性脳底動脈閉塞症(i.a. t-PA)
    脊髄硬膜動静脈瘻による脊髄うっ血
    ラクナ梗塞
    感染性心内膜炎による脳梗塞
    一過性黒内障(CEAで脳外科転科)
    CADASIL

また、脳卒中に関する論文、学会発表ともに齧歯類の脳梗塞モデルを使用した基礎研究内容であり、臨床系の発表や論文は持っていませんでしたが、受験資格を得ることが出来ました。

2. 試験勉強
一般的には、専門医試験は「脳卒中」という日本脳卒中学会が発行している雑誌の後ろに、ほぼ毎回過去問が載っていて、これを解いておけば大丈夫と言われています。なので、今回はこれを集めて解くことにしました。集めた過去問自体は、良問が多く、難しくはないなという印象です。
最近、雑誌「脳卒中」はオンラインで閲覧可能ですが、過去問のページはオンラインでは閲覧できないのでいちいち過去の雑誌からのコピーが必要です。
一方で、2011年に過去問をまとめた問題集(脳卒中専門医試験 問題・解説集)が発売されたようです。効率よく過去問をチェックするにはとても役立つと考えられます。是非、購入を。

3. 試験
結局誰もがそうだと思いますが、忙しくて過去問を適当に解いた程度で試験に臨みました。
前日の飲み会、カラオケ、夜中のアルゼンチン対ドイツ戦後(この年はワールドカップが開催されていた)に、二日酔のためタクシーで東京駅の隣の試験会場へ。試験問題は2時間で100問が2回なので、計4時間、200問でした。冷房が強いので、長袖も持って行った方がよいでしょう。僕は短パン半袖&裸足だったので震えてました。お昼は、1時間。コンビニとイタリアンレストランが建物内にあります。
前半の試験と、後半の試験は選択肢の選択方法が多少異なりますが、問題の分野が異なる印象は特にありません。淡々と脳卒中のあらゆる分野の問題、症例問題などが続きます。画像もふんだんに使用されていて、良くできています。できれば、答えをもらって勉強したいと思えるほどの良問ぞろいです。
一方で、治療法の選択肢は、必ずしも一つに絞りきれないものもあります。記憶に残っている範囲では、妊娠後期にSAHを起こした場合の対処法など(要は、全麻かエピか、母体か胎児か、帝王切開するか?開頭するか?とかそういう問題)。一つ選択するのですが、どうしても2つ以下には絞りきれませんでした(脳外麻酔科医の妻にも確認したのですが。。。)。ただ、このような理不尽を感じる問題はそれほど多くなく、出題者の意図をよくくみ取り、素直に答えることが重要と思います。神経内科医に多いですが、例外的な細かいところにとらわれることは百害あって一利なし。
過去問からの出題は残念ながら3割程度。その他は、ほとんど初めて見る問題が多かったように思います。なので意外と難しい印象を持ちました。
以下に反省点を上げますので、第7回以降の日本脳卒中学会認定専門医試験を受けられる方は参考にして下さい。
1. 脳卒中治療ガイドラインを見ておけばよかった

    個人的には、日本脳卒中学会が作製した脳卒中ガイドラインはほとんど開いたことはありません。しかしながら、例えば、SAH後の血管攣縮の治療法が5つ列挙されている中で、ガイドライングレードB以上はどれかなど、ガイドラインを読んでないとわからない問題が、かなり出題されていました。新ガイドライン(2009)が発刊されて初めての試験だったからでしょうか?
    これを流して読んでおけば、きっとかなり気軽に試験に臨めていたと思います。

2. 過去問

    脳卒中の巻末の問題は、代表的な試験問題を掲載しているだけのようです。すべての問題はもちろん網羅していないので、その他の広範囲の知識が必要になります。変性疾患ばかり診療していて脳卒中の知識に不安がある場合は、脳卒中治療ガイドラインの熟読をお勧めします。

3. スコアの暗記が必要

    くだらないと思うのですが、NIHSS、mRS、CHADS2、ABCD2、JCS、GCSなどのスコアの暗記が必要で、頻出問題です。

4. 外科的な疾患も勉強する必要がある

    神経内科医としての知識を超えた、SAH、動静脈奇形などの治療法も出題されます。少なくとも、脳卒中治療ガイドラインは読んでおきましょう。

5. 脳卒中の疫学、介護保険、社会福祉について

    出題はされるのですが、これは本気でやろうとすると時間かかるので、捨ててよいと思います。常識的な解答をすれば、半分ぐらいはあたるのでは?後は、よく製薬会社さんが配っているパンフレットには、脳卒中の専門家の偉い先生方の意見などが載っていますが、問題を作っているのはそれらの先生方ですので、そのようなパンフレットを普段パラパラみて得た知識も予想外に役立ちました。

6. 解剖と画像

    anterior choroidal artery、thalamotuberal artery、Heubner artery、posterior choroidal artery 、hypothalamic arteryなど有名な動脈、静脈はどの血管から分岐しているのか、閉塞した場合には病変が”画像上”どこに出現するのかは知っておいて下さい。MRI、SPECT、血管造影など画像を絡めた問題は良く出ます。臨床家であれば自信はあると思いますが、できれば再確認を。大部分の画像は比較的自信をもって読影できますが、血管造影で、血管が花が開いたような、どこかの雑誌の症例報告で見たような写真がでて、治療方針を聞かれてわからなかった覚えがあります。
    PRES, RCVS, CADASIL, CARASIL, アミロイドアンギオパチーの病態、治療などは、内科医として失点は許されないと思いますので自信なければ再確認を。

7. 基礎

    個人的には脳卒中の臨床を行うのであれば、基礎的(basic science)な知識は必須と思ってますが、専門医試験でも良く出題されます。
    血管拡張作用のある、あるいは収縮作用のあるchemical mediator、misery perfusionやluxury perfusionでの酸素摂取率、脳潅流圧、その経時的変化は再確認を(経時変化も出題されました)。自信なければ、以下の論文でも読んでおきましょう。実際に出題された問題ですが、脳虚血の時、蛋白合成、mRNA合成、脳波異常、ATP低下どれが最も早く障害(あるいは虚血後早期に出現)されるでしょうか?答えられますか?

Pathophysiology and Therapy of Experimental Stroke. Cell Mol Neurobiol. 2006 Oct-Nov;26(7-8):1057-83.
もっと新しいreviewもありますが、、、

8. その他、合格率や思い出した問題

    1. 2010年度は260人ぐらい受験者がいました、合格者の人数から合格率を算出すると、合格率は約80%です。合格カットオフラインを80%程度に設定し、合格点数を決めていると予想されます。
    2. 脳梗塞に対するアスピリン投与のNNTは?
    1. 11
    2. 111
    3. 1111
    3. BADはTOAST分類ではどこに分類されますか?

以上のような簡単に選択できる問題よりは、文章をよみその整合性を判断する、要はチェックに時間のかかる問題が多い印象があります。

脳アミロイドアンギオパチー 診断

概念
1938年Scholzによって提唱された脳アミロイドアンギオパチーは、脳血管へのアミロイド沈着が病態で、巨舌や末梢神経障害などを呈する全身型のアミロイドーシスを合併することはほとんどありません。
一方で、高齢者やアルツハイマー病でしばしばみとめられ、特に後者では80-90%と高率に検出されます。孤発性がほとんどですが、家族性(HCAA)の報告もあります。アミロイド前駆蛋白の変異ではLeu34Val変異が常染色体優性遺伝型CAAで有名です。

病態
高血圧や高脂血症など全身動脈の粥状硬化との明確な関連はあまりなく、アミロイド前駆蛋白(APP)の分解産物であるアミロイドβ40が脳皮質・軟膜血管の中膜・外膜および内腔表面に沈着するとされています。それにより、微小動脈瘤・中膜の裂孔による微小・脳葉型出血、脳梗塞・白質病変などが出現します。
以下のような血管障害を来します

    脳葉型の大脳出血(特に前頭葉)
    二次性くも膜下出血:脳表シデローシスを続発することもあります
    小脳出血
    白質脳症
    皮質小梗塞や視床出血

CAAの危険因子

    ApoEε4:孤発性の場合で、HCAAでの関連は低いようです
    ApoEε2:CAAの対立遺伝子として存在すると言われていますが、meta analysisでは関連は否定的
    presenilin-1:ADでAβ-42産生にいていますが、CAAとの関連は否定的

検査
診断基準は、Boston criteriaを使うことが多いと思われます

    脳MRI:CADASILなどの深部白質の微小出血よりもむしろ、皮質下に多発する微小出血が特徴ですので、T2*あるいはSWIは必須です。また、炎症性アミロイドアンギオパチーが疑われる場合には造影MRIによる髄膜の増強効果の有無の確認が必要となります
    髄液検査:Aβ増加などの報告はあります
    遺伝子検査:家族性の場合は必要です

caa
CAAのT2*強調画像
黒く点状の多発する異常信号病変(脳微小出血)が皮質、皮質下に多発してみられます。また、後頭葉優位に見られるのがCAAの特徴の一つです。
病理
現在6つの代表的なタンパク質が知られています

    プリオン蛋白(PrP関連アミロイド)
    アミロイドβ蛋白
    シスタチンC
    トランスサイレチン
    ゲルゾリン
    ABri/ADan

血管壁の重複化(double-barrel lumen)、内膜の閉塞性変化及びヒアリン化、微小動脈瘤様の拡張、フィブリノイド壊死などの血管変化が見られ、特にフィブリノイド壊死が脳出血と強く関連しています

炎症性脳アミロイドアンギオパチーについて(CAA-RI)
CAAでは組織学的にアミロイドβが沈着すことが病態の本質ですが、CAAの中でも血管の炎症を伴うものが見つかるようになり、ABRA(Aβ-related angitis)、CAA-RI(Cerebral Amyloid Angiopathy-Related Inflammation)という概念が出来てきました。
つまり、アミロイドアンギオパチーではあるものの、微小出血に加えて髄膜の造影増強効果と白質病変を来し、病理学的に髄膜や髄膜の動脈周辺にリンパ球浸潤が認められる病態の報告が増えています。急激な認知機能障害が左右非対称性の白質病変の拡大とともに出現した場合、念頭に置きましょう。
特に、ステロイドなどの免疫療法により白質病変が改善する可能性があり、見逃しは厳禁です。
ちなみに、アミロイドβと関連のない脳血管炎はPACNS(Primary angiitis of the central nervous system)ですので、混乱しないようにしましょう。ABRA、CAA-RIの違いは?私にはわかりませんが、病理学的には、ABRA(血管壁に多核巨細胞を伴った単核球の浸潤、血管壁破壊による周囲の出血、一部類上皮細胞の出現を伴う肉芽腫性血管炎様の所見) vs. CAA-RI(アミロイド沈着血管周囲の単核球および多核球の浸潤、血管壁に多核巨細胞を認めても、ABRAに比較すると炎症細胞浸潤は少なく、血管周囲炎の所見をとる)といった報告があるかと思います。

病態
抗Aβ抗体(Aβモノクローナル抗体:bapineuzumab)の臨床試験において無症候性に画像上、血管性浮腫(ARIA-E)/微小出血(ARIA-H)を認める症例があること、及び、CAA-RIのCSF中の抗Aβ抗体を検討した論文では、コントロール群と比較してCAA-RIで有意に抗Aβ抗体が高値であったことなどから、CAA-RIの発生と髄液中の抗Aβ抗体が病態機序に関与している可能性が示唆されているかと思われます。



左:FLAIR画像、右:T1Gd造影画像
急速に認知機能障害が進行した高齢男性。白質病変はPRESも鑑別に浮かぶ画像ですが、島皮質下、左右非対称性な変化はややPRESとしては典型的でない部分もあります。Gd造影では後頭葉中心に軟膜の造影増強効果を認めます。この方は、最終的に炎症性アミロイドアンギオパチーと診断され、ステロイドにて白質病変は消失しました。

一過性全健忘 (TGA) 診断

概念
おそらく、静脈うっ滞による海馬CA1の機能不全により出現する一過性の健忘を来す疾患です
突然何の前兆もなく、短期記憶の消失(新しい記憶ができない前向性健忘)と、近時記憶の逆行性健忘(発作前にさかのぼり記憶が障害される)で発症しますが、数時間で回復します
発作中は意識清明で、自我認識も保たれていて、日常の動作は変わりなく行うことができるのですが、周囲のことが理解できないため、不安に陥りしつこく家人に問いただします。また、発作中の記憶は永続的に消失します

診断基準(Hodges et al., 1990)

    発作中の情報が目撃者から得られる
    発作中、明らかな前向健忘が存在する
    意識障害はなく、高次脳機能障害は健忘に限られる
    発作中、神経学的局所徴候はない
    てんかんの特徴がない
    発作は24時間以内に消失する
    最近の頭部外傷や活動性のてんかんのある患者は除外する

検査
ほとんど臨床症状から類推することが多く他覚的検査所見を得るのは難しいのですが、脳MRI
では海馬CA1を中心に小さな異常信号を検出できることがあります

    脳波:てんかんの鑑別の目的で試行
    血液検査:異常所見はありませんが、健忘の鑑別のためVitB1など提出
    経静脈超音波:内頚動脈弁不全により、Valsalva手技を加えることにより静脈の逆流が検出されることがあります
    SPECTやPET:海馬の血流やブドウ糖代謝の低下が検出されることがあります
    脳MRI:発症24-72時間後に海馬にDWI高信号病変が出現します。ただし、病変が小さい(1-5 mm)ため以下のような条件で試行して下さい
     1. 3テスラ
     2. 海馬を中心に、axialとcoronalのThin sliceで
     3. T2とDWIを。DWIのb-値は高めで
     4. 発症早期ではなく、発症24-72時間後に試行

tga
最上段:DWI、T2ともに右海馬に高信号病変を認めます
中段:それらの病変は、coronalではCA1に限局して見られます
最下段:発症60日後のMRIでは、急性期に見られた病変は消失しています
図は以下の論文より引用:Transient global amnesia: functional anatomy and clinical implications. Lancet Neurol. 2010;9(2):205-14.

一過性全健忘(TGA)診断

概念
おそらく、静脈うっ滞による海馬CA1の機能不全により出現する一過性の健忘を来す疾患です

診断基準(Hodges et al., 1990)

    発作中の情報が目撃者から得られる
    発作中、明らかな前向健忘が存在する
    意識障害はなく、高次脳機能障害は健忘に限られる
    発作中、神経学的局所徴候はない
    てんかんの特徴がない
    発作は24時間以内に消失する
    最近の頭部外傷や活動性のてんかんのある患者は除外する

検査
ほとんど臨床症状から類推することが多く他覚的検査所見を得るのは難しいのですが、脳MRI
では海馬CA1を中心に小さな異常信号を検出できることがあります

    脳波:てんかんの鑑別の目的で試行
    血液検査:異常所見はありませんが、健忘の鑑別のためVitB1など提出
    脳MRI:発症24-72時間後に海馬にDWI高信号病変が出現します。ただし、病変が小さい(1-5 mm)ため以下のような条件で試行して下さい
     1. 3テスラ
     2. 海馬を中心に、axialとcoronalのThin slicaで
     3. T2とDWIを。DWIのb-値は高めで
     4. 発症早期ではなく、発症24-72時間後に試行

抗血小板薬 治療

はじめに
現在使用可能な抗血小板薬は、作用機序で分類した場合は4種類で、内服薬では3種類です。脳梗塞に関しては、アスピリン、プレタール、プラビックスの二次予防効果が非心原性脳梗塞に対して確立されています。しかしながら、プラビックスと同様の作用機序であるエフィエントは脳梗塞の二次予防効果が未だ報告されていません。

アスピリン:COX阻害薬ですが、COX-1阻害作用はCOX-2阻害の約170倍です。投与後20分以内に血漿中に検出されて、30-40分でピークとなり、1時間以内に血小板機能を阻害します。
アスピリン自体の半減期は約20分ですが、血小板は核を持たないので新しい酵素を生成できないため、アスピリン投与によるCOXの不可逆的な阻害効果は、血小板の寿命が尽きる10日間継続します。

各抗血小板薬の使用量

  投与量 作用点
アスピリン 81-200mg COX-I 阻害
ブレタール 200mg PDE3活性阻害
プラビックス 75mg アデニレートシクラーゼ活性増強
エフィエント 3.75mg
パナルジン 200mg
カタクロット 80mg2回 TXA2合成酵素阻害
キサンボン

各抗血小板薬の作用機序
antiplatelet
プラビックス(Clopidogrel)とエフィエント(Prasugrel)の違い[ref]
プラスグレル、クロピドグレル共にプロドラッグですので未変化体での活性はなく活性代謝物が作用を示します。プロドラッグから活性代謝物に至る代謝経路に関して、プラビックスは2回のCYP450酸化、エフィエントは1回のCYP450酸化が必要なようです。したがって、日本人でしばしば見られるCYP2C19活性の低下による抗血小板作用の低下は、エフィエントのほうがより少ないと考えられています。

蘇生後脳症(低酸素脳症) 診断

病態
循環不全または呼吸不全などによって、十分な酸素供給ができなくなり、脳に障害をきたした病態です。
低酸素脳症にはには、組織への血流量の低下(虚血)と、血液の酸素運搬能の低下(低酸素血症)の2つの病態が混在していることが多いので、低酸素性虚血性脳症(hypoxic-ischemic encephalopathy)とも呼ばれています。
心停止により脳への酸素供給が途絶えると、意識は数秒以内に消失して、3‐5分以上の心停止では、仮に自己心拍が再開しても脳障害(蘇生後脳症)を生じます。

原因
原因は大きく以下の4つに分類されますが、実際には、心停止や低酸素状態、低血圧などに対する蘇生後に神経内科医が診察、治療に関わることが多いと思われます。

    脳血流の低下 (stagnant hypoxia):心停止、心房細動、ショックなど
    低酸素血症(hypoxic hypoxia):窒息、呼吸不全、気道閉塞など
    血中ヘモグロビンの低下 (anemic hypoxia):出血、高度の貧血、CO中毒など
    細胞内の呼吸酸素系の障害(histotoxic hypoxia):シアン中毒、甲状腺機能亢進など

症状

    意識障害、精神症状:記憶障害、混迷、傾眠、昏睡など
    脳幹機能異常:対光反射、角膜反射の障害など
    筋力低下:四肢筋トーヌス低下、man-in-the-barrel syndromeなど
    痙攣発作:重積発作、ミオクローヌス性てんかん
    不随意運動:ミオクローヌス、アテトーゼ、ジストニア
    その他:パーキンソン症状、視覚性失認、皮質盲

Lance-Adams症候群
脳虚血後の昏睡状態から回復した症例で、意図的動作などをおこなう際に、ミオクローヌス(intention or action myoclonus) を呈する症候群で、1963年にLanceとAdamsにより初めて報告された病態です

検査

脳CT, MRI
他疾患の鑑別や脳損傷部位の同定、発症時期の推定に最も有用な検査法です
急性期(発症6日以内)
脳浮腫による大脳のびまん性腫脹、脳溝・脳室の狭小化、皮髄境界の不明瞭化が出現。MRIでは、大脳皮質のびまん性の細胞性浮腫を反映した拡散強調画像での高信号化
亜急性期(7日から29日)
大脳皮質の巣状壊死を反映し、脳回に沿ってT1強調像で高信号、T2強調像で早期は低信号、後期は高信号、Gd陽性となる病変
慢性期
大脳皮質のびまん性萎縮、脳室の拡大、両側の基底核にT1強調像、T2強調像で高信号の病変。Delayed post-hypoxic leukoencephalopathy(遅発性無酸素後脳症)では両側大脳半球白質にびまん性のT2強調像で高信号



脳MRI(A) :発症24時間後(左:FLAIR画像、中:拡散強調画像、右:拡散係数画像)FLAIR画像では大脳皮質がびまん性に高信号に描出され、同部位は拡散強調画像で高信号、拡散係数(ADC)値は低下している。後大脳動脈領域の大脳皮質は異常信号が目立たない。
脳MRI(B) :発症11日後(左:T1強調画像、中:FLAIR画像、右:造影後T1強調画像)T1強調画像、FLAIR画像ともに海馬を含む側頭葉皮質は高信号(laminar necrosis)を呈し、同部位は造影増強効果が認められる。
脳MRI(C):発症9ヶ月後(左:T1強調画像、右:FLAIR画像)両側基底核にT1強調画像、FLAIR画像ともに高信号の病変を認める。大脳皮質は年齢に比してびまん性に萎縮し、右島皮質、後頭葉皮質の一部はFLAIR画像で高信号を呈している。
脳CT(D):発症36時間後。両側大脳半球が腫脹し、皮髄境界が不明瞭化している。また、皮質や白質、基底核に低吸収域病変が散在して認められる。

脳波
大脳皮質の機能障害の推定、不随意運動と痙攣発作の鑑別するために必須です。
Generalized electrical suppression(平坦脳波)、Generalized burst suppression(群発抑制交代パターン)、generalized periodic complexes(周期性複合波)は予後不良に関連。その他、Periodic lateralized epileptiform discharge (PLEDs)、α波(α昏睡)、棘波・鋭波などの突発波

体性感覚誘発電位(Somatosensory evoked potential, SEP)
正中神経刺激のSEPによる両側N20の消失が認められる。発症1−3日におけるN20の消失は予後不良と関連している。

バイオマーカー
蘇生後1-3日後の血清NSE値33μg/L以上は予後不良とされています。その他、アストログリア関連蛋白の一種であるS-100βやGFAP、クレアチンキナーゼ(CK)、髄液乳酸値なども検討されていますが、予後予測に関する有用性は今のところ確立されていません。

その他の検査
1H-MRS(proton magnetic resonance spectroscopy)による乳酸ピークの上昇やNAA(N-AcetylAsparate)の低下、PETでの糖代謝の低下 など

無酸素脳症における予後不良因子
以下の項目が陽性の場合、予後不良の可能性が高いと考えます

検査の時期(発症後日数)
臨床徴候
 30分以上の心肺蘇生時間  
 8−10分以上の低酸素状態
 6時間以上の昏睡  
 痛み刺激に対して四肢の随意運動がない 3日
 対光反射あるいは角膜反射の消失 3日
 ミオクローヌスてんかん 24時間以内
検査所見  
 脳波所見  
 平坦脳波 (< 20μV) 3日以内
 群発抑制交代パターン (burst suppression) 3日以内
 周期性複合波 (periodic complexes) 3日以内
 体性感覚誘発電位(SEP)  
 N20の消失(正中神経刺激) 1-3日
 バイオマーカー  
 血清NSE > 33 μg/L 1-3日
 画像所見  
 脳CTでの灰白質/白質信号比の低下 蘇生直後
 脳MRIでの広範囲な拡散係数(ADC)低下病変 7日以内

Post-Cardiac Arrest Syndrome(PCAS)について
ここでは、主に中枢神経障害について書きましたが、低酸素脳症によって障害される臓器は中枢神経だけではありません。そのため心停止に伴って生じる様々な病態を包括してPost-Cardiac Arrest Syndrome(PCAS)と呼ばれ、以下のような病態が含まれます。
1. Post-Cardiac Arrest Brain injury
低酸素侵襲により神経細胞死が誘導され、意識障害、痙攣、ミオクローヌスなどを来す病態です。これは、今までの記載の病態です。
2. Post-Cardiac Arrest myocardial dysfunction
低酸素侵襲により心筋細胞が気絶現象を起こしてびまん性の心筋収縮力低下を来す病態です。一部は可逆性である事が知られています。自己心拍再開Return of spontaneous circulation(ROSC)後、8時間程度で極期になりますが、24?48時間後には回復傾向を示して、72時間後にはほぼ完全に回復するとされています。
3. Systemic ischemia/reperfusion response
全身性虚血と再灌流に伴って全身性の炎症反応が引き起こされて、敗血症に類似した全身性炎症反応症候群を来す病態です。炎症反応により血管内皮細胞障害を生じ、凝固亢進や多臓器不全を来すようです。
4. Persistent precipitating pathology
心停止に至った原因疾患の事を指します。病院外心停止から蘇生された患者の40%程度に急性冠症候群認められる事が知られていますので、冠動脈造影や急性期に於ける血行再建が重要である可能性があります。