脳血管障害

Trousseau(トルーソー)症候群 診断

概念
トルーソー症候群は、潜在性の悪性腫瘍の遠隔効果により神経症状を生じる傍腫瘍性神経症候群の一つで、悪性腫瘍に伴う血液凝固完進により脳卒中症状を生じる病態です。
脳は凝固外因系の引き金となるトロンボプラスチンが豊富で、トロンビンの拮抗因子であるトロンボモジュリンが乏しいため播種性血管内凝固異常症の標的臓器となりやすいようです。
原疾患の治療と抗凝固療法が必要です。

脳卒中の原因

    DICに伴う非細菌性血栓性心内膜炎(NBTE)による心原性脳塞栓:最も多い
    血管内凝固による微小血栓・塞栓:二番目に多い
    深部静脈血栓症を併発した卵円孔開存による奇異性脳塞栓症
    脳静脈洞血栓症
    腫瘍塞栓

原因となりやすい癌
固形癌が多く、その中では乳癌や子宮癌などの婦人科的腫瘍が最も多いようです。その他の癌としては,肺癌,消化器癌,腎臓癌,前立腺癌など

想定される凝固能亢進のメカニズム
腫瘍細胞による凝固活性化機序に関しては、凝固カスケードを活性化する組織因子、腫瘍プロコアグラント、第V因子受容体などの腫瘍細胞自体の発現、各種サイトカインや腫瘍抗原とその免疫複合体を介した血小板や内皮細胞との細胞間相互作用の惹起などが想定されています (Best Pract Res Clin Haematol 22:3, 2009)

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拡散強調画像(DWI)
両側大脳半球や脳梁に多発する虚血性病変を認めます
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MRA
明らかな異常を検出できません

Trousseau(トルーソー)症候群 治療

1.原疾患の治療
予後を最も左右するため、早期診断・早期治療が最優先されます

2.抗凝固療法
過剰な凝固反応に対して、以下のどちらかを行いますがワーファリンは無効なことが多いようでやっかいです。ワーファリンの効果が乏しい本病態に対して、プラザキサ、イグザレルト、エリキュースなどのNOACで治療可能かどうかはまだ不明です。

3.補充療法
血小板や凝固因子の低下がある場合には、血小板3万/mm3、フィブリノーゲン 75mg/dlを目標に補充することもありますが、補充するときには血栓形成傾向が高まるので、抗凝固療法の併用が必要です

抗凝固療法の病体機序
固形癌で過剰発現している組織因子は凝固カスケードを活性化しますが、その他にも癌の成長、血管新生・転移を促進することが知られています。抗凝固療法の効果に関しては、低分子ヘパリンは抗血管新生作用があり、担癌動物モデルでアポトーシスを誘導することや、ヘパリンがインテグリン依存性の細胞接着を抑制して細胞間相互作用を抑制することにより、癌転移を抑制することなどが報告されています。
一方で、臨床的にはFragmin Advanced Malignancy Outcome Study (FAMOUS)で、進行した固形癌385例にダルテパリン5000単位の投与が、1年間の追跡調査では生存率を改善させたと報告されています。

脳動脈解離 治療

解離に伴う脳梗塞急性期の病態には、解離部に形成される血栓が重要であるとの考えから、虚血例には抗凝固療法または抗血小板療法が推奨されています。抗凝固療法、抗血小板療法はそれぞれ治療効果に差はありませんが、解離部より遠位に塞栓を起こした場合は前者を選択するべきと考えられます。
ただし、現在のところその有効性を裏付ける明らかなエビデンスはなく、特にクモ膜下出血の合併が少なくない頭蓋内解離、明らかな解離性動脈瘤の形成がある症例では、抗血栓療法の実施には十分な注意が必要です。また、血管型Ehlers-Danlos症候群など脳動脈解離を引き起こす基礎疾患として血管の脆弱性を生じる疾患が原因の場合は抗血栓療法は禁忌です。

出血リスクが少ない、あるいは結合織病などが基礎疾患としてない場合には、急性期脳梗塞例に対して以下のどちらかを選択して下さい。
1.抗血小板療法

    処方例:バイアスピリン2T1x 7日間投与後、1T1Xで維持

2.抗凝固療法

    ヘパリン注 1万-1.5万単位持続静注(APTT 1.5-2.0倍を目標)投与後、ワーファリンをかぶせINRが適正にコントロールされたらヘパリンを中止

3.血圧コントロール
やっぱり動脈解離ですので、血圧は適正にコントロールが必要と考えられます

脳梗塞および動脈解離の再発リスク
動脈解離に伴う脳梗塞の再発リスクは原因にもよりますが一般的には低く、一般的に2-5年間の再発率は1-4%といわれています。また、再疎通による解剖学的な解離治癒率は72-100%と報告されています。
したがって、抗血小板療法、抗凝固療法はその副作用も考えると、一般的には半年から1年後ぐらいに中止も可能と考えられます。

脳動脈解離 診断

はじめに
動脈解離とは動脈の内膜が剥がれることをいいます。
脳の総ての動脈に起こり得ますが、頭蓋内解離と椎骨脳底動脈解離が多く、何らかの頭頸部痛を伴うことが多く、頭痛のみで発症する例もあります。解離の状態により、クモ膜下出血、脳梗塞(もしくは両者)を起こしうる疾患です。神経内科では主に脳梗塞例を診療することが多いのですが、予後が最も悪いのはくも膜下出血合併例です。

疫学
Wallenberg症候群と最近ではACA領域の脳梗塞の原因疾患として神経内科領域ではあまりに有名ですが、脳卒中症例の1.2%程度が解離が原因といわれていて、特に外傷性のものは若年者にも多く見られます。解離の部位は椎骨脳底動脈系81例(83%)、頚動脈系17例(17%)と椎骨脳底動脈系が多いようです。
頭蓋外のみ、頭蓋内のみ、両者合併に分けると、椎骨脳底動脈系が頭蓋外のみ14%、頭蓋内のみ72%、両者合併14%で頭蓋内解離が多いのに対して、頚動脈系ではそれぞれ41%、47%、12%と頭蓋外、頭蓋内がほぼ半数ずつを占めます。

原因

症状
とにかく、頭痛、頚部痛が重要です。他の神経症状は脳梗塞の場合は多種多様ですが、Wallenberg症候群の症状は覚えてないければなりません。

検査:画像的診断基準

    血液検査
    脳MRI、MRA:椎骨動脈解離はBPAS画像が必須です。T1によるintramural hemorrhage、T2による偽腔形成の有無、MRA, BPAS画像の解離は必ず見なければなりません
    3D-CTA:偽腔への造影剤流入の有無を確認します
    血管造影検査:椎骨動脈解離は上述の検査で検出されることもよくありますが、ACAの解離は血管造影なしでは偽腔の証明が難しい例が多いと思われます

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上図(クリックして拡大ください):T2強調画像(左):脳底動脈腹側にややintensityの高い領域があり、偽腔と考えられます。T1強調画像(右):左椎骨動脈がT1高信号となりintramural hemorrhageと考えられます。動脈解離急性期に見られます
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上図(クリックして拡大ください):MRA(左)、BPAS(Basi-parallel anatomical scanning, 右):MRAでは右椎骨動脈のflowが遠位部で途絶していますがBPAS画像では描出されています。また、MRAでは左椎骨動脈の合流部付近ではBPAS画像と比較してflow voidが細くなっています。それぞれ、血管の外径に対してflowは細いあるいはないことを示唆しており、解離の所見として矛盾しません。
このように、単純MRI、MRAでも解離らしさを描出することが出来ますが、確定診断としては3D-CTAや血管造影で偽腔に造影剤が入り込むかどうかを確認する必要があります。

鎌状赤血球症 update

Submandibular TCD approach detects post-bulb ICA stenosis in children with sickle cell anemia. Neurology 2009 73: 362-365.
鎌状赤血球貧血症小児例の内頸動脈狭窄病変を下顎からのアプローチによる経頭蓋超音波ドプラー法(TCD)で検出しえた

Utilization of TCD screening for primary stroke prevention in children with sickle cell disease. Neurology 2009 72: 1316-1321.
鎌状赤血球症の症に例に対する経頭蓋ドップラー(TCD)超音波による脳卒中発症予防の施行率は6倍に上昇しており、脳卒中発症率も2.5倍程度低下している

CADASIL 治療

現疾患に対する根本的治療は今のところありません
再発予防
血圧の厳格なコントロールは重要です。
抗血小板薬は、脳出血のリスクも高い疾患であることから投与できない例が多いと考えられます。

認知機能障害に対する治療
アリセプトが、CADASILの認知機能障害に有効であるかどうかの研究はありますが、一部の症状の改善効果は見られたものの、残念ながら強い改善効果は認められませんでした。
ロメリジンで脳血流の改善や高次脳機能の改善が得られたとの報告もあり、治療法の一つになるかも知れません。

片頭痛治療
多くの場合Auraを伴う頭痛ですが、血管収縮作用のあるスマトリプタンよりは可能であればNSAIDsで対処した方がよいと考えられます。また、デパケンやβブロッカーによる予防を行うべきと考えられます

遺伝性脳小血管病 診断

概要
遺伝性のHereditary Small Vessel Disease of the brain(SVDB)は家族性に小血管病変による脳血管障害を生じる疾患を網羅した疾患概念で、以下のように分類されます。多くは白質のびまん性の虚血性病変を引き起こします。
最も有名なCADASILはNOTCH3 異常、日本人に多い常染色体劣性遺伝のCADASILはHTRA1遺伝子異常が有名ですが、TREX1やCOL4A1遺伝子異常によるSVDBも判明し知見が飛躍的に増加しています。
日本語では、臨床神経20115;1巻6号:399-の総説が良く書かれています

Hereditary small vessel disease of the brainの一覧
常染色体優性遺伝

    CADASIL (NOTCH3遺伝子変異):治療診断
    COL4-related disorder (COL4A1遺伝子変異):診断
    AD-RCVL (TREX1遺伝子変異):診断
    Pontine autosomal dominant microangiopathy and leukoencephalopathy (PADMAL):遺伝子未同定
    HAS: hereditary systemic angiopathy hereditary small vessel disease of the brain:遺伝子未同定
    HEMID: hereditary multi-infarct dementia of the Swedish type:遺伝子未同定
    未分類

常染色体劣性遺伝

    CARASIL (HTRA1遺伝子変異):診断

伴性劣性遺伝

原因遺伝子が判明している脳小血管病の特徴
Stroke 2010, 41:e513-e518 より引用


その他の単一遺伝子変異による脳血管疾患

頸動脈内膜剥離術(CEA)、ステント留置術(CAS) update

Stenting for symptomatic vertebral artery stenosis: The Vertebral Artery Ischaemia Stenting Trial. Neurology. 2017 Sep 19;89(12):1229-1236.
椎骨動脈ステント術による合併症は高くなかったが、脳卒中予防効果は内科治療単独と比較して明らかな改善が見られなかった

Early Endarterectomy Carries a Lower Procedural Risk Than Early Stenting in Patients With Symptomatic Stenosis of the Internal Carotid Artery: Results From 4 Randomized Controlled Trials. Stroke. 2017;48:1580-1587.
脳卒中発症後早期の頸動脈血行再建術は、CEAがCASよりも死亡率や合併症が低い

Stenting versus Aggressive Medical Therapy for Intracranial Arterial Stenosis. N Engl J Med. 2011 Sep 7.
頭蓋内主要動脈径の 70-99%狭窄に起因する一過性脳虚血発作または脳梗塞を最近起こした患者に対する経皮経管血管形成・ステント留置術は、積極的薬物治療と比較して治療効果が劣る

10-year stroke prevention after successful carotid endarterectomy for asymptomatic stenosis (ACST-1): a multicentre randomised trial. Lancet. 2010 Sep 25;376(9746):1074-84.
75歳以下の無症候性頸動脈狭窄症に対する即時的CEAは施行後10年間の脳卒中リスクを有意に抑制し、その半数は障害性あるいは致死的脳卒中リスクの低減であった

Stenting versus Endarterectomy for Treatment of Carotid-Artery Stenosis. N Engl J Med. 2010 Jun 14.
症候性または無症候性の頸動脈狭窄を有する患者では、頸動脈ステント留置術と頸動脈内膜剥離術とのあいだで、脳卒中・心筋梗塞・死亡の複合主要エンドポイントのリスクに有意差は認められず、周術期にはステント留置群で脳卒中のリスクが高く、頸動脈内膜剥離術で心筋梗塞のリスクが高かった.

Carotid artery stent infection with Streptococcus agalactiae. Neurology 2010 74: 344.
頸動脈ステント部のストレプトコッカス・アガラクチア感染を来した88歳男性例

Gender differences in carotid imaging and revascularization following stroke. Neurology 2009 73: 1969-1974.
女性は男性に比べて頚動脈病変が強くないこと、及びCEAの禁忌がある場合が多いことなどが、女性のCEAの数の減少の原因かもしれない

Risk factors associated with major cerebrovascular complications after intracranial stenting. Neurology 2009 72: 2014-2019.
CAS後の合併症は、後方循環領域、イベント発生10日以内、イベントがTIAでなく脳梗塞の場合、小さな体積の病変などで増加する

Early carotid stenting for symptomatic stenosis and intraluminal thrombus presenting with stroke. Neurology 2008 71: 1831-1833.
頚動脈狭窄と血栓が検出された軽症脳梗塞発症後早期にステント留置術(CAS)を9人に施行し比較的成績がよかった

一過性脳虚血発作 治療

TIAの治療目的は脳卒中の予防です。基本的には、入院して安静、バイタル管理を行いつつ、以下の治療を導入することをお勧めします。
AHA/ASAでは、以下の条件を満たす場合はTIA患者を入院させるのが合理的と推奨しています(Class II)

    1.ABCD2 score ≧3
    2.ABCD2 score 0~2で外来患者として診断に必要な検査が2日以内に終了するのが不確実な場合
    3.ABCD2 score 0~2で発作は局所脳虚血によるとする他のエビデンスがある場合

内服治療
抗血小板薬、抗凝固薬

    1. アテローム血栓性が原因と考えられる場合
    第一選択薬
    アスピリン+クロピドグレル
    プラビックス 300mg/日(初日のみ)、以降 プラビックス 75mg/日内服
    +
    アスピリン 75-100mg/日内服 投与3週間後に中止
    CHANCE研究で効果が認められた短期間抗血小板薬併用療法です。一方で、この2剤の長期の併用は出血の副作用が増加することから、併用する場合でも3週間以内にとどめるべきです。
    第二選択薬

      プラビックス
      アスピリン
      プレタール

    2. 心房細動など心原性と考えられる場合
    ヘパリン後に、ダビガトラン or イグザレルト or エリキュース or ワーファリン
    その他、頚動脈解離、卵円孔開存(PFO)に深部静脈血栓症または心房中隔瘤を合併している、脳底動脈の紡錘状動脈瘤、などの特殊な状況では、ワーファリンが使用されることもあります

その他
高血圧、高コレステロール、喫煙、糖尿病などをコントロール

外科的治療

など

頸動脈内膜剥離術(CEA)、ステント留置術(CAS)

頸動脈内膜剥離術(CEA)
日本人は内頚動脈、外頚動脈分岐部が欧米人と比較して高位にあることが多く、CEAは難しいことも多いのですが、CASと比較して液状化プラークを含め合併症や塞栓症のリスクが低い印象があります

    70%以上の症候性狭窄例に対して適応(50-69%はacceptable but no proven)
    50%以上の症候性狭窄病変及び60%以上の無症候性狭窄病変については十分なリスク評価のうえで適応

頚動脈ステント留置術(CAS)
CEAと同様の有効性があり、日本でも2008年4月に保険適応となりました
基本的には、CEA高リスク群(うっ血性心不全III/IV度、重度左室機能不全、不安定狭心症、6週間以内の開胸術、対側頸動脈閉塞、Tandem lesion、Slim sign、対側の喉頭麻痺、頚部放射線治療後、CEA後の再狭窄、高位頸動脈病変または鎖骨下病変、重度肺疾患、高齢者[>80歳]、重度の肥満、進行脳卒中、頻発するTIA)で、以下のような場合が適応になるかと思います。
ただし、CEA高危険性群イコールCAS適応と考えるのではなく、CASでもCEAでもともに危険な病変があることは認識しておく必要があります。

    症候性狭窄病変 NACET50%以上
    無症候性 80%以上

CAS周術期の塞栓症に関しては、術前術後の抗血小板薬は必須です。アスピリン+プラビックスが成績が良いようです

    CAS高危険群
    不安定プラーク、血管内血栓、高度石灰化、低血圧で悪化する循環器疾患、近位あるいは遠位の屈曲、アクセス不能例

Cerebral hyperperfusion syndrome (CHS;過灌流症候群):Wiki
carotid endarterectomy(CEA)術後だけでなくcarotid stenting (CAS)術後にも起こることが知られています。
CHSは、発症率は低いもののひとたび発症すると重篤な脳内出血を引き起こす可能性があり、cardiac eventを除くCAS/CEA術後死亡の50%を占める重篤な合併症です。そのため早期に診断し、血圧管理など迅速な治療を行う必要があります。
症状:頭痛、けいれん、遅発性脳出血
危険因子:術前に脳循環予備能が低下している、側副血行路が乏しい、悪性高血圧、脳梗塞から時間がたっていない などの例で頻度が高いと言われています。
治療:血圧硬化療法、沈静
それでもコントロールが難しい場合は、挿管、麻酔剤投与の上、厳重な血圧、呼吸管理を行います。

CEA手術時の合併症
舌下神経損傷
舌下神経は頸動脈の分岐部のやや末梢部で内頚動脈、外頚動脈を横断するように走行しています
上咽頭神経損傷
迷走神経下神経節から出て、頚動脈分岐部の内側を走ります。この損傷により高率に嗄声を生じます
迷走神経の損傷
反回神経麻痺を来した場合は嗄声を生じる嚥下障害はない