腫瘍性疾患

自己免疫性小脳失調症(immune-mediated cerebellar ataxias:IMCAs)

はじめに
自己免疫的な機序により小脳の機能障害が生じて、小脳失調を来す疾患群です。同様に小脳失調の原因となる脊髄小脳変性症と比較すると半年から1年と進行が早いこと、脳MRIで小脳萎縮が目立たず脳SPECTなどでないと客観的な異常が検出しづらいことなどが特徴と考えます。
一方で、Wernicke脳症、Fisher症候群など数日から数週間単位で進行する疾患よりは遅いことが多いと考えられます。
自己抗体が検出されることが多いですが、本邦での頻度が高いのは橋本脳症(TPO抗体関連)、GAD抗体関連、VGCC抗体関連、引き続きYo抗体、Ri抗体などが検出される傍腫瘍症候群の順です。TPO、GAD抗体は血清のみでなく、髄液でも検出されるか測定しましょう。

自己免疫性小脳失調症の分類Cerebellum & Ataxias (2017) 4:16

小脳への直接的な自己免疫反応

他の疾患により惹起される小脳への自己免疫反応

広範な中枢神経領域を標的とする自己免疫反応

悪性リンパ腫に伴う末梢神経障害

はじめに
悪性リンパ腫はPCNSLや二次性の中枢神経病変以外にも、末梢神経障害をきたすことがあります。組織型ではDLBCLが最も多い様です。

機序
悪性リンパ腫が末梢神経障害を起こす病態は以下の様なものがあります

  • 末梢神経浸潤(neurolymphomatosis)
  • 腫瘤形成による神経組織の圧迫
  • 血管内リンパ腫による虚血性病変
  • 病理上虚血性病変を示す所見はない
  • 傍腫瘍症候群:polyneuropathyの分布が多く、Hodgikin病に多いとも言われています

末梢神経浸潤(neurolymphomatosis)の特徴
悪性リンパ腫細胞が末梢神経に、おそらく血行性に直接浸潤することにより生じます。多発単神経障害が多いですが、単神経障害、脳神経障害、多発脳神経障害、馬尾症候群用の症状など様々な病型を取ります。

検査
末梢神経伝導速度検査
髄液検査:単核球増加(約半数)、蛋白増加、細胞診陽性(3-5割)、IgH遺伝子のgene rearrangement、κ/γ比で発現の偏り
末梢神経MRI:紡錘状の腫大、脂肪抑制画像でT2高信号、造影増強効果陽性
FDG-PET:最も鋭敏な検査で病変部位が高集積になります(下図)

末梢神経の病理
endoneurium、epineurium、perineuriumへのリンパ腫細胞の浸潤。リンパ腫細胞は小血管周辺にも見られる。有髄線維は、軸索障害主体型、脱髄主体型、混合型など様々。

血管内悪性リンパ腫(intravascular malignant lymphomatosis: IML or IVL)治療

標準治療は、昔から全身的化学療法(特にCHOP療法)になります。さらに、平均罹病期間9.8ヶ月と予後不良でしたが、Rituximab併用により予後は画期的に改善しています。
腫瘍細胞が主に血管内にとどまるため、CHOP療法・Rituximab併用により静脈内投与された薬剤が直接血管内の腫瘍細胞に作用し、治療効果を最大限発揮することができ、予後改善につながっていると考えられています。

CHOP療法:シクロホスファミド+ヒドロキシダウノルビシン(アドリアマイシン)+オンコビン(ビンクリスチン)+プレドニゾロン
+
Rituximab

予後
3年平均生存率:従来型で81%、アジア亜型で60%
Rituximab併用あり:2年無増悪生存割合56%、全生存割合66%、3年生存割合60%
Rituximab併用なし: 2年無増悪生存割合27%、全生存割合46%、3年生存割合41%

血管内悪性リンパ腫(intravascular malignant lymphomatosis: IML or IVL)診断

はじめに
神経内科では原因不明の脳梗塞、脳症、馬尾障害などで遭遇することが多いかと思います。
主に50-60代で発症し、一般的な悪性リンパ腫がリンパ系に増殖するのに対して、なぜか血管内で腫瘍細胞が増殖する疾患です。腫瘍細胞の増殖がなぜ血管内にとどまるのか、その機序はいまだ十分に解明されていないようですが、細胞が血管外に遊走する機構(adhesion mechanism)の障害は少し知見があります。
大部分がintravascular large B-cell lymphoma (IVLBL)ですが、稀にT-cell, NK-cellも報告されています。

症状

    皮膚/肺病変、神経症状がよく検出されます
    全身症状:B症状と呼ばれる、発熱、盗汗、全身倦怠感、体重減少など
    神経症状:下記
    皮膚病変:典型的には有痛性の発赤病変で、老人性血管腫と思われるような病変や毛細血管拡張といった病変が多いですが、色素沈着や出血を伴った皮疹もあります
    副腎病変
    肺病変
    甲状腺病変

他のリンパ腫と比較し、骨髄、脾臓、リンパ節の障害頻度は低いことが特徴です
血球貪食症候群を主徴とするIVLBL(アジア亜型)も報告が増加しています

検査と診断
罹患臓器からの生検による病理学的な診断が重要です。臨床症状は多彩でしばしば診断に苦慮、生前診断は30%とされてきましたが、皮膚生検などで診断率が上昇しています。

    ランダム皮膚生検:皮疹部位だけでなく、非皮疹部位からも病変が検出されることがあります。表皮周辺の血管ではなく、深い皮下組織の間にある小血管に見られるため、パンチbiopsyでなく2-3cmのくさび状の皮膚切開を加え、できるだけ多くの皮下脂肪織を含むように筋膜直上までの摘出を、少なくとも3か所以上から採取する必要が有ります
    血液検査:ESR、LDH著増、sIL-2R著増など
    髄液検査:蛋白増加はよく見られます。細胞診やsIL-2Rの提出。脳悪性リンパ腫(診断)も参照
    FDG-PET/CT:罹患臓器検索のため
    肺CT:びまん性すりガラス、小葉中心性の淡い濃度上昇など多彩。肺梗塞を合併することもあります。造影も必要と思われます。
    脳MRI:DWI高信号で脳梗塞と区別が難しい例も多いですが、脳梁を含めた白質を好む傾向、やや動脈支配と一致しない傾向、髄膜の造営効果を認めることがあるなどから鑑別を進めましょう。経時的変化も重要です。
    腰椎造影MRI:馬尾は後発部位です。稀に生検することもあります

IMLに見られる神経症状
初診時に25%、IML全経過では85%以上に神経症状が見られると報告されています。特に中枢神経障害の頻度が高く、血管閉塞によるに突然発症、及び亜急性・進行性の経過が多く見られます

    脳血管障害が最多(76%)
    脊髄・神経根障害(38%):腰仙髄障害、その際は神経根も障害されやすい
    亜急性脳症
    単神経障害
    多発単神経障害(脳神経含む)

多発性骨髄腫(MM)に伴う末梢神経障害 治療

参考:多発性骨髄腫の診療指針
多発性骨髄腫は、分子標的治療薬をはじめ、いろいろな治療選択肢が増えてきました。この診療指針はコンパクトにわかりやすくまとめてあります

はじめに
無症候性MMは経過観察、骨の孤立性形質細胞腫は放射線療法ですが、症候性MMの場合には、予後が不良であり移植療法を含めた化学療法が必要になります。末梢神経障害が臓器障害に含まれていないことが、しばしば混乱を招きますが、、、
つまり、自己免疫性機序のMM末梢神経障害の場合で、MM臓器障害がない場合にはPE/IVIg/corticosteroidsなどにより末梢神経の治療を行い、臓器障害を伴う場合やAL amyloidosisの場合には、移植療法を含めた化学療法を積極的に行うべきと考えられます。
MMの臓器障害

    1.高カルシウム血症:血清カルシウム>11mg/dlまたは基準値より1mg/dlを超える上昇
    2.腎不全:血清クレアチニン>2mg/dl
    3.貧血:Hb値が基準値より2g/dl以上低下または10g/dl未満
    4.骨病変:溶骨病変または圧迫骨折を伴う骨粗鬆症(MRIあるいはCT)
    5.その他:過粘稠症候群、アミロイドーシス、年2回以上の細菌感染

癌性髄膜炎 (meningeal carcinomatosis) 診断

はじめに
悪性腫瘍の髄膜播種(meningeal dissemination)を原因とします。比較的亜急性に進行する多発脳神経麻痺の鑑別のtop3に入る比較的頻度の高い疾患です。原病の悪性腫瘍の種類により、血行性、直接浸潤、経神経あるいは経血管性など様々な経路を取って髄膜に播種します。

疫学
腺癌が最も頻度が高い(乳癌、肺癌、胃癌、大腸癌、悪性黒色腫)
白血病および悪性リンパ腫が原因となるのは5-15%、原発性脳腫瘍では1-2%程度です
原発巣が不明な髄膜播種も1-7%にあります

症状
大脳半球の症状(15%):意識変動、嘔吐、痙攣、感覚障害、歩行障害
脳神経障害(35%):複視、難聴、視力低下、顔面感覚低下、嚥下障害
脊髄および神経根(60%):感覚障害、背部痛、上位・下位運動ニューロン障害

検査
髄液検査
:細胞上昇、蛋白の著名な増加、糖の低下、細胞診は確定診断に重要で、2-3回提出、腫瘍マーカー提出、β2-MG著増、血液系腫瘍の場合(Flow cytometry, DNA single-cell cytometryなど)
血液検査:腫瘍マーカー、原発巣の検索
脳MRI:FLAIRやT1Gd造影で髄膜の高信号
脊髄MRI:馬尾のT1Gd造影所見など
Gaシンチ、PET

Chin Clin Oncol. 2018 Jun;7(3):30.より抜粋。小脳のfoliaと馬尾の造影効果は、大脳半球の軟膜よりも陽性となることが多い印象があります。
Appendix. 軟膜への転移に関する病態仮説

硬膜転移 (dura metastases)について

軟膜への転移ではなく、その外側の硬膜転移のみがみられることがあり、pachymengeal carcinomatosisなどと呼ばれています。多くは骨転移からの浸潤で、一部は血行性転移が疑われています。画像では軟膜の造影効果がない代わりに、硬膜の造影効果が見られ、また髄液細胞診で癌細胞が検出されずらいという特徴があります。
原発巣は、前立腺19.5%>乳癌 16.5%>肺癌 11%>消化器癌 7.5%と報告されています。
軟膜転移と異なって、投与された薬剤はBBBを介さずに転移巣に到達するため、髄注化学療法は必要なく、全身化学療法が効果があるとする報告もあります。

乳癌による癌性硬膜炎(pachymengeal carcinomatosis)の方です。大脳半球の硬膜がほぼ全周性に、また、この方は頭蓋底が特に厚く造影効果を認めます

傍腫瘍性脳幹脳炎 診断

Hu抗体関連脳幹脳炎の総説[ref]
Ma2抗体関連脳幹脳炎の総説[1, 2, 3]

概要
多くの場合肺小細胞癌に伴う、Hu抗体やMa2抗体などにより亜急性に脳幹障害症状が進行する疾患です。それらの抗体では脳幹以外(辺縁系など)にも障害をきたし売りますが、障害の中心が脳幹の場合に傍腫瘍性脳幹脳炎(paraneoplastic brainstem encephalitis: PBE)と呼ばれることがあります。

    抗Hu抗体(antineuronal nuclear autoantibody type 1: ANNA-1):肺小細胞癌との関連が強く、下位脳幹,延髄が主病巣となることが多いため、球症状や中枢性低換気などがあります。PBEではMRI異常は乏しいことが多いと思われます。
    抗Ri抗体(ANNA-2):乳癌・肺癌との関連が強く、オプソクローヌスが有名ですが、眼球運動障害、顎ジストニアなどの報告があります
    抗Ma2抗体:中脳間脳レベルが多く、核上性眼球運動障害、パーキンソン症状、ナルコレプシーなどの報告があります。過去の報告も含めてMRI異常が見つかることが多い印象があります。
    抗NMDAR抗体:卵巣奇形腫と関連し、意識障害,自律神経障害、中枢性低換気などを呈します
    抗GABAB受容体抗体
    など

症状

    中脳病変:眼球運動障害、核上性垂直方向性眼球運動障害、複視、眼瞼下垂、パーキンソン症状、ナルコレプシー
    橋病変:VI麻痺、VII麻痺、垂直性眼振、進行性めまい、歩行失調、複視、オプソクローヌス
    延髄病変:嚥下・構音障害、中枢性低換気、喉頭攣縮

鑑別診断

傍腫瘍性末梢神経障害 診断

概念
肺がんを中止とした固形癌、悪性リンパ腫を中心とした血液系癌からの液性因子により、末梢神経が多くの場合亜急性に障害されます。
そのため、様々な自己抗体が検出されます。

分類
大まかには以下の様に分類されますが、各病型が、あるいは中枢神経障害がoverlapすることもあり多彩な症状が出現することが特徴です。最も有名な、sensory neuronopathyに関しては中枢神経系へ障害が及ぶことがあり、また、脊髄前角に障害が及ぶこともあり、sensory neuronopathyにしては珍しく運動系の障害を伴う例もあります。

病型 自己抗体 悪性腫瘍
亜急性感覚性ニューロノパチー
(Sensory neuronopathy)
±
cerebellar degeneration
抗Hu抗体
抗CV2/CRMP5抗体
抗amphiphysin抗体
肺小細胞癌,胸腺腫,神経内分泌腫瘍
肺小細胞癌,胸腺腫
肺腺癌,原発不明癌
運動感覚性ニューロパチー
(Sensorimotor neuropathy)
抗Yo抗体
抗Ri抗体
抗Hu抗体
抗CV2/CRMP5抗体
抗amphiphysin抗体
卵巣癌,子宮癌,乳癌
肺小細胞癌,肺非小細胞癌,原発不明癌
肺小細胞癌,胸腺腫,神経内分泌腫瘍
肺小細胞癌,胸腺腫
肺腺癌,原発不明癌
脱髄性ニューロパチー
(感覚優位)
抗MAG抗体
抗SGPG抗体
抗gaglioside抗体
原発性マクログロブリン血症
多発性骨髄腫,MGUS
Autonomic neuropathy 抗Hu抗体
抗CV2/CRMP5抗体
α3-AchR
 
その他
Vasculitic neuropathy
Brachial plexopathy
Chronic gastrointestinal-
pseudo-obstruction
   

検査

    血液検査、髄液検査:自己抗体の測定が重要(SRLでも主要なものは測定可能です)、各種鑑別診断も
    末梢神経伝導速度検査
    自律神経検査:瞳孔異常の有無も確認を
    脳MRI:小脳、辺縁系の障害の合併はないでしょうか?
    FDG-PET/CT:悪性腫瘍の検索を

神経芽腫 update

Anti-GD2 Antibody with GM-CSF, Interleukin-2, and Isotretinoin for Neuroblastoma. N Engl J Med 2010; 363:1324-1334.
高リスクの神経芽腫患者に対する ch14.18(腫瘍関連抗原ジシアロガングリオシド GD2 に対するモノクローナル抗体),GM-CSF,インターロイキン-2 を用いた免疫療法は,標準的なイソトレチノイン(isotretinoin)治療に比べて転帰の有意な改善と関連していた

Outcome after Reduced Chemotherapy for Intermediate-Risk Neuroblastoma. N Engl J Med 2010; 363:1313-1323.
中間リスク神経芽腫患児において,MYCN 増幅に関する生物学的特徴に基づく治療割付けのもと,先行試験で用いられたレジメンよりも化学療法の投与期間を大幅に短縮し投与量を減量した結果,非常に高い生存率が達成された