遺伝性疾患

骨パジェット病と前側頭葉型痴呆を伴う遺伝性封入体筋炎(IBMPFD)

はじめに

筋や骨、中枢神経系など多くの臓器に蛋白凝集体を呈する遺伝性疾患であVCP関連多系統蛋白質症(MSP)の一つです。IBMPFD(inclusion body myopathy with Paget’s disease of bone and frontotemporal dementia)は、病名通りですが、封入体筋炎ALSFTD、骨パジェット病を種々の程度で併せ持つ臨床像を示すことのある、常染色体優性遺伝の疾患です。VCP(AAAタンパク質(ATPases associated with a variety of cellular activities)ファミリーに属する)、hnRNPA2B1、hnRNPA1などが原因遺伝子として知られています。
代表的なVCP遺伝子変異では、ATP産生能低下、オートファジーやアポトーシスの異常、Ubiquitinated proteasome系の異異常が引きこされると想定されています。
大脳皮質から運動ニューロン、骨格筋、骨まで幅広い臓器に変性が及ぶため診断は非常に難しい疾患です。前頭葉萎縮に筋力低下など、ALS-FTDを疑った際に、近位筋の筋力低下が目立つ場合に筋生検で、筋線維の封入体を探しに行くことが多いかと思います。あるいは筋力低下と認知機能障害の家族歴がある場合に疑ってみましょう。

症状
筋力低下:90%以上、骨格筋のみならず運動神経も変性する可能性があるので、遠位筋、近位筋ともに低下しますが、ALSにしては近位筋の筋力低下が強い様な印象があります。
溶骨性変化:約50%
FTD様認知機能障害:約33%、行動障害や精神症状の早期出現もまれではないようです。失語症状などもあります。FTLD-TDP subtypeのTypeDに分類されるのが、VCP(Valosin–containing protein)遺伝子ミスセンス変異に伴うIBMPFDになります。VCP遺伝子変異を認める90%以上の症例でミオパチーを認めます。

検査
血液検査:CK軽度上昇、ALP高値、血清N- or C- telepeptide
尿検査:尿pyridinoline
末梢神経伝導速度検査
針筋電図検査:筋原性変化に脱神経所見所見含む神経原性変化が混在します
神経心理検査:30%で前頭側頭型認知症
MRIFTD様の前頭葉と側頭葉の萎縮がみられます
骨の評価:骨X-p/CT、骨シンチグラフィー検査など
筋生検:IBMを示唆するRimmed vacuoleに加えて、小群集萎縮などの神経原性変化も混在してみられます。封入体筋炎類似の変化が検出されますが、VCP抗体を用いた免疫染色で空砲にVCP inclusionを伴うのが特長です。また、ユビキチン陽性のTDP nuclear or cytoplasmic inclusionなども見られます。
遺伝子検査

MSPの概念図

治療
disease modifying treatment(DMT)は今の所ありませんので、リハビリテーションや対症療法が主体となります。
Paget病に対しては、ビスフォスフォネート製剤が用いられます。

良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(benign adult familial myoclonus epilepsy; BAFME)

はじめに
良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)は、成人期以降に皮質性ミオクローヌス・頻度の低い全般性強直間代発作を発症する常染色体優性遺伝形式のてんかん症候群です。
従来「良性」、「非進行性」と されてきた疾患ですが、高齢ではミオクローヌスの進行例もあります。また、てんかん重積状態となった重症例の報告もされています。

原因
浸透率の低い常染色体優性遺伝を示します。原因遺伝子は不明ですが、本邦の家系は8番染色体長腕に、欧州からの家系は 2 番染色体短腕にそ れぞれ連鎖が報告されています。

症状
成人期以降に皮質性ミオクローヌス(皮質振戦という用語も用いられる)
全般性強直間代発作(数年に1回程度である)
同じ家系内では世代を経るごとに発症年齢が早くなる傾向がある(臨床的な表現促進現象)
パーキンソン症状や精神症状を伴った報告もあります

検査
SEP:早期皮質成分の巨大化(巨大 SEP)
C reflex, jerk-locked averaging:ミオクローヌスに先行する陽性棘波
脳波:小棘波、棘波、棘徐波などの突発波が局所的に見られます

治療法
バルプロ酸、クロナゼパム、などをはじめとした種々の抗てんかん薬が良く用いられます。
全般性強直間代発作は比較的抑制され やすいのですが、皮質性ミオクローヌスは治療抵抗性のこともあります。
また、本態性振戦に対して用いるβ遮断薬は有効でないことが多く、カルバマゼピン、ガバペンチンは症状を悪化させることがあるので注意が必要とも言われています。

脳腱黄色腫症(Cerebrotendinous xantomatosis; CTX) 診断

参考文献>臨床神経 2016;56

はじめに
コレスタノールが組織に沈着することで、多臓器の障害が起こる脂質代謝異常疾患です。27-hydroxylase活性が低く、肝における胆汁酸の生合成を障害します。
神経内科では、成人型CTXを、慢性進行性認知症、小脳失調症状、末梢神経障害として診療することが多いかと思いますが、早期治療により進行予防、症状改善を実現できますので見逃さないようにしましょう。
常染色体劣性遺伝(27-hydroxylaseをコードするCYP27A1遺伝子変異)です

症状
1. 古典型CTX

    多くは、学童期頃からゆっくりと症状が進行します。
    黄色腫:病名にあるものの必須ではありません。アキレス腱以外に膝蓋腱や手指の伸筋腱にも見られます
    若年性白内障
    若年性動脈硬化症
    骨粗鬆症
    難治性下痢
    進行性認知症、精神症状、てんかん
    小脳失調
    錐体外路症状
    痙性麻痺、後索性失調(下記)

脊髄型CTX
錐体路徴候と後索症状を主症状として、小脳失調は目立たない病型です。今まで20人弱の報告例がある程度の稀な表現型ですが、treatable spastic paraplegiaとして見逃さないようにしましょう。

検査
診断は病理検査は必須ではなく、コレスタノール値及び遺伝子検査で可能です。
血液検査:血清コレスタノール値測定(SRL)、リポプロテイン解析(黄色腫は、家族性高コレステロール血症やシトステロール血症でも出現するため鑑別が必要です)
脳MRI:特に小脳病変(特に歯状核)がこの疾患を疑うきっかけになることが多いと思います。その他、淡蒼球や錐体路、白質病変が代表的です
脊髄MRI:特に脊髄型では側索、後索にlong segmentに渡る異常信号を認めます
MRS:NAA低下?、Lactate peak上昇?
末梢神経伝導速度検査
神経病理:大脳、小脳、基底核に神経細胞脱落、マクロファージの出現、グリオーシスなどを認めますが、コレスタノールの沈着を反映する所見は、lipid crystal cleftであると考えられます。



[refより抜粋]
A(左上):古典型CTXの典型的な小脳病変です。小脳半球に広範な異常信号を認めます
B(右上):脊髄型CTXの小脳病変です。歯状核に比較的限局した小さな異常信号を認めます
C(左下)、D, E:脊髄型CTXでは、長い脊髄異常信号を認め、特に側索、後索に目立ちます

那須ハコラ病 (Nasu-Hakola disease) 診断

参考>gene review

はじめに
多発性骨嚢胞による病的骨折と白質脳症による若年性認知症を主徴とする疾患です。神経内科では白質脳症の鑑別疾患としてしばしば登場します。
常染色体劣勢遺伝、DAP12(TYROBP:tyrosine kinase binding proteinをエンコード)やTREM2遺伝子の機能異常・変異によりマイクログリアや破骨細胞の機能異常が生じるメカニズムが類推されています。現在はpolycystic lipomembranous osteodysplasia with sclerosing leukoencephalopathy (PLOSL: OMIM221770)とも呼ばれています。
TREM2に関しては、アルツハイマー病発症のリスク上昇に有意に関連してい るという論文が発表されていて、アルツハイマー病もまたミクログリアの機能異常が病態に関連している可能性も示唆されています。マイクログリア異常による白質病変は、HDLSも有名ですね。

症状
疾患の進行度を無症候期(20歳代まで)、骨症状期(20歳代以降)、早期精神神経症状期(30歳代以降)、晩期精神神経症状期の4つの病期に分類されることがあります。

    病的骨折:長管骨骨端部に多発性骨嚢胞が好発て骨折を繰り返します
    精神症状:制約変化、脱抑制、多幸症、人格障害
    前頭葉症状
    てんかん発作
    錐体路症状
    不随意運動:舞踏病、ミオクローヌスなど
    認知機能障害

検査

    血液検査:特異的な所見はないようです
    骨X-p:長管骨骨端部に多発する嚢腫様陰影(骨透亮像)と骨梁非薄化
    骨生検:膜嚢胞性変化(lipomembranous osteodysplasia)
    遺伝子検査:通常は欠失または点変異のホモ接合体(homozygote)ですが、複合ヘテロ接合体(compound heterozygote)の場合もあります。また、常染色体劣性遺伝の家族歴が明確でないことも多いようです。
    CT:大脳基底核の石灰化
    MRI:白質脳症の原因疾患の一つですが、残念ながら特異的所見はありません。強いて言えば、基底核の大脳の萎縮、両側大脳白質のびまん性T2WI高信号、尾状核の萎縮、基底核/視床がT2WIで低信号を呈することもあります



A:レンズ核の石灰化. B:深部白質の淡い高信号. C: 手根関節の嚢胞性変化
refより抜粋。こちらも参考になります。
病理
大脳白質:髄鞘の崩壊、ズダン好姓脂肪顆粒細胞、グリオーシス、白質内軸索腫脹(spheroid body formation)

Tips
TREM2 は膜貫通型の糖タンパクで、細胞外にイムノグロブリン様構造を持っています。TREM2 分子自体はシグナル伝達部位を持たないことから、シグナル伝達アダプター蛋白のDAP12分子と細胞膜で会合しています。
DAP12 分子は Immunoreceptor thyrosine-based activation motif (ITAM) を持っていて、細胞内に活性化シグナルを伝達します。DAP12 分子は免疫系細胞に多く発現していて、マウスではTREM2/DAP12複合体は破骨細胞やミクログリア以外にも、樹状細胞などに発現しています。

Canavan disease 診断

はじめに
白質脳症の鑑別疾患としてしばしば挙げられます。常染色体劣性遺伝(ASPA遺伝子変異)により、Nアセチルアスパラギン酸(NAA)代謝酵素であるaspartoacylase活性低下で脳内にNAAが蓄積して、神経毒性を発揮、白質の脱髄と海綿状変性をきたすとされています。
アシュケナージ系ユダヤ人では頻度が高い(60人に1人)ようですが、日本ではわずかの症例報告のみです

症状
生後数か月ころから進行性の精神運動発達遅滞、進行性てんかん性脳症、頭囲拡大、白質異栄養症、視神経萎縮等によって気が付かれます

検査
血液・尿:血中・尿の有機酸分析で、NAA濃度上昇
遺伝子診断:ASPA遺伝子のシークエンス解析
MRI:当初は皮質下白質優位の対称性のT1WI/T2WI高信号を呈します。
小脳、淡蒼球、視床にも変化が見られますが、内包後脚、脳梁などは相対的に保たれるようです
進行に伴い白質病変は深部を含むびまん性、著明なT1WI/T2WI高信号に変化します
尾状核・被殻は比較的保たれる
DWIは当初高信号ですが、その後進行に伴い低信号化
MRS:NAA(N-acetyl aspartate)が蓄積することからNAAピーク上昇

予後・治療
3歳ころには全盲・除能状態に、幼児期に死亡が多い
有効な治療法は知られておらず対症療法のみ
米国では遺伝子治療の臨床治験が試みられている

Kearns-Sayre syndrome

はじめに
ミトコンドリア病ですが、白質脳症の鑑別疾患の一つとして挙げられることが多いですので、ここにリストしています。眼球運動障害、眼瞼下垂を主体とするCPEO (Chronic progressive external ophthalmoplegia)のより重症型というイメージです。
症状

    3徴候:進行性の外眼筋麻痺、網膜色素変性、心伝導ブロック
    低身長
    精神運動発達遅滞
    難聴
    小脳失調
    感覚障害
    錐体路症状
    認知症
    内分泌障害

検査
髄液:蛋白、血中・髄液中の乳酸・ピルビン酸上昇、5-MTHF低下
MRI:白質以外に基底核や脳幹に異常信号が見られるのが特徴と思われます
T2WIで大脳半球の皮質下白質に高信号、脳梁や脳室周囲の深部白質は保たれます
両側淡蒼球と視床、小脳白質、脳幹被蓋にも左右対称性の異常信号が見られ、尾状核、黒質、赤核等にも異常信号が見られることもあります
大脳・小脳萎縮
MRS:Lactateピークが上昇
CT:Ca沈着反映し蒼球・尾状核石灰化
筋病理:ragged red fiberやチトクロームC酸化酵素部分欠損とミトコンドリアDNA欠失・重複

片麻痺性片頭痛(Hemiplegic migraine)

参考:up to date

はじめに
片麻痺性片頭痛(Hemiplegic migraine:HM)は稀な病態ですが、片頭痛発作に伴って一過性の片麻痺を生じる病態で、migraine with auraの特別な表現型(motor aura)と考えられています。片麻痺以外に、昏迷、小脳失調、痙攣、半盲、失語などの神経学的徴候も伴うこともあります。多くの場合はこれらの神経症状は60分以内に消失しますが、数週間持続した例も報告されています。
発症年齢は12から17歳と若年社に多いですが、50歳代発症の報告もあります。
cortical depressionなどがその病態の原因と考えられていますが、片頭痛はしばしばRCVS、脳血管障害などを合併するため、脳MRI、MRAなどで機能的な病態なのか器質的な病態なのか評価する必要があります。

分類

    孤発性HM(SHM):家族歴のない場合ですが、de novo mutationの場合などの可能性もあります
    家族性HM(FHM):CACNA1A、ATP1A2、SCN1A遺伝子など

検査

    脳MRI:多くの場合正常ですが、稀に大脳皮質の浮腫性変化を認めることがあります。また、家族性の場合は小脳萎縮を認めることもあります [ref]
    脳SPECT:過還流、低還流などの所見を検査施行時のタイミングにより血流変化を認めることがあります

hm

Migraine with aphasiaの症例、左側頭葉から後頭葉にかけて脳溝が目立たずむくんでいるように見えます。脳SPECTでは、提示していませんが同部位の強い血流低下を認めました。

片頭痛発作とともに、軽度の右麻痺と失語が出現し数週間持続した方の脳MRI。左側頭葉皮質の浮腫性の変化と軽度の白質の高信号が一過性に出現しました。MRAでは血管の異常はなく、SPECTでも一過性の高度の低還流を認め、HMの病態と考えました。

治療
確立したものはないのですが、以下のような薬剤が使用された報告があります。一方で、片頭痛急性期治療に用いられるトリプタン製剤やエルゴタミンは血管収縮作用があるため使用しない方が良いという考えもありつつ、使用してもそれほど危険ではないというdataもあり、一定していません。

    Flunarizine (商品名:ミグシス) 10mg  1回/日
    Verapamil (商品名:ワソラン)  120mg 2-3回/日
    Sodium Valproate (商品名 :デパケン) 500ー2000mg 1回/日
    Lamotrigine (商品名 :ラミクタール) 100ー500mg 1回/日
    Acetazolamide (商品名 :ダイアモックス) 250ー1000mg 1回/日

神経系に関連する遺伝性自己炎症性疾患 診断

はじめに
自己炎症性疾患(autoinflammatory disease)とは、1999年にKastnerらにより自然免疫の遺伝性異常症を念頭に考え出された疾患概念です。つまり、獲得免疫異常である自己免疫疾患のようにリンパ球の異常ではなく、自然免疫ですのでマクロファージ、NK細胞、好中球が責任細胞となって、皮膚/眼/関節/消化管などを主なtargetとします。以下のような定義が提唱されています。

    誘因のない炎症所見
    高力価の自己抗体や自己反応性T細胞が存在しない
    先天的な自然免疫の異常

神経系に関連する代表的な疾患

    家族性地中海熱:再発性髄膜炎など
    家族性寒冷自己炎症性症候群(Cryopyrin関連周期熱症候群)
    TNF受容体関連周期性症候群(TNF receptor-associated periodic syndrome;TRAPS)

弾性線維性仮性黄色腫(Pseudoxanthoma elasticum: PXE)

概念
弾性線維性仮性黄色腫(Pseudoxanthoma elasticum: PXE)は、責任遺伝子(ABCC6)の変異により弾性線維の石灰化・変性が発生し、弾性線維の豊富な組織(皮膚、網脈絡膜、血管など)に進行性に障害が生じる疾患です
常染色体劣性遺伝です

症状
写真は、このページを参照ください
皮膚病変
10から20歳代で頚部、腋窩、鼠径部、肘窩、膝窩、臍周囲に好発する集簇性または線条に分布する黄白色丘疹で、癒合して局面となる場合もあります。口唇粘膜に黄白色斑が認められます。
網脈絡膜病変
Bruch膜の断裂に伴い網膜色素線条を呈します。また、それに続発して網膜下出血や脈絡膜 新生血管を生じることがあるようです。
循環器病変
中血管の中膜弾性線維の変性・石灰沈着を生じるため、虚血性障害を引き起こします。脳梗塞以外に、間欠性跛行、冠動脈疾患、高血圧などで、特に若年時から発症することがあるので注意が必要です

遺伝子診断
長崎大学皮膚科に依頼